はじめに
皆さんは「デジタルツイン」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
デジタルツインとは、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)、
AR(拡張現実)などの技術を用いて、現実の空間(物理空間)環境を仮想空間に再現し、
さまざまなシミュレーションを行い、未来を予測する新しい技術です。
デジタルツインは、社会問題の解決をはじめ、さまざまな分野で広く利用されています。
この記事では、デジタルツインの概念から実際の事例まで分かりやすく解説します。
デジタルツインとは
デジタルツインとは、IoTなどを利用して物理空間の情報を収集し、伝送されたデータを
もとに物理空間を仮想空間に再現する技術です。
現実世界の環境(物理空間)を仮想空間に再現した鏡のようなイメージで、「デジタルの双子」という意味でデジタルツインと呼ばれています。
デジタルツインは、従来の仮想空間とは異なり、
よりリアルな空間をリアルタイムで再現できることが特徴です。
その背景には、IoTとAIの進化があります。
IoTによって取得されたさまざまなデータがリアルタイムでクラウドサーバーに送信され、
AIによって分析および処理され、物理空間をリアルタイムで再現することが可能になります。
デジタルツインにより、仮想空間で将来の物理空間の変化をシミュレートし、
将来実際に発生する物理空間の変化に備えることができます。
デジタルツインが注目される理由
デジタルツインは、産業におけるイノベーションの原動力としての高い可能性を
秘めていることから注目を集めています。
デジタルツインの応用は非常に広く、電力、石油、天然ガスなどのエネルギー産業にも
大きな期待が寄せられています。
特にIoT、AI、ARなどの技術の発展により、
高精度な仮想空間をリアルタイムで構築し、分析することが可能になっています。
その点から補修やメンテナンスに関する設備保全の改善には、
高い期待と注目が寄せられています。
デジタルツインを活用することで、高品質な製品を低コスト・低リスクで短期間に開発し、
生産ラインの状態を高精度に監視し出荷後も万全のアフターサービスを提供できます。
近い将来、デジタルツインの活用に成功した企業は、
競合他社より大きくリードする可能性があります。
デジタルツインのメリット
- 品質の向上・リスク低減
すべてが仮想空間で行われるデジタルツインにより試行錯誤が容易になり、
低コストで製品の試作を繰り返すことができます。
これにより小さな欠陥を特定し、完成品の品質を向上させることができます。
また、生産ラインを含めた検証や予測ができるため、
生産工程におけるリスク低減が期待できます。 - 予知保全の実現
デジタルツインは製造現場でも大きな力を発揮しています。
工場設備などに異常が発生した場合、
ライン上に設置された各種センサーがリアルタイムで正確に状況を報告し、
離れた場所でも正確な状況判断と原因究明を行うことができます。
また、蓄積された情報から将来の故障を予測する予知保全にも対応しています。 - 試作期間の短縮・コスト削減
これまでのモノづくりは、製品が完成するまで何度も試作を重ねる必要があり、
コスト(時間・人員・費用)の負担が大きかった。
一方、デジタルツインでは実際の環境を反映した仮想空間で、
試作のプロセスを実行できます。
試作期間を大幅に短縮し、コストを大幅に削減できます。 - 遠隔での作業支援、技能伝承
デジタルツインを使用して遠隔地から作業指示を出すことができます。
これまで現場にいることが必須とされていた作業監督や指導員などの業務が、
リモートで行えるようになりました。
さらに、業務内容を記録・蓄積することで、
専門家のスキルや知識をデジタルツインで伝承することができます。 - 社会課題解決へのアプローチ
デジタルツインは、社会問題の解決にも役立ちます。
例えば、気象災害時の避難訓練の実施を計画したり、
問題点や実際に起こりうる問題を特定したり、
解決策を見つけたりするために活用され始めています。
また、実際の気象や土壌データに基づいて農場を仮想空間に再現し、
農作業の効率化に活用するなど、さまざまな社会課題の解決に貢献することが
期待されています。
DXにおけるデジタルツインの重要性
現在、あらゆる企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進しており、
デジタル技術を活用して業務の効率化や企業文化の変革を図り、
持続可能なビジネスを展開しています。
株式会社電通デジタルの調査によると、
2019年現在、日本企業の7割がDXを開始しており、約8%の企業がDXを完了しています。
DXの課題の1つは、増え続ける大量のデータをどのように有効に活用するかです。
企業が蓄積するデータ量は年々増加していますが、
DXが完了していない多くの企業では十分に活用されているとは言えません。
デジタルツインは、IoTで収集されたデータをAIで分析し、
ARで可視化するもので、ビッグデータを有効活用する技術の一つであり、
DXと切っても切れない関係にあります。
ボストンで開催された「LiveWorx2019」で、
DXやデジタルツインの導入を支援する米国企業PTC(Parametric Technology Corporation)のジェームズ・E・ヘッペルマンCEOは「IoTやAI、ARなどのテクノロジーを活用するには、
デザインからサービスまでをつなぐデジタルツインを実装する必要があります。」と
語っています。
大量のデータを収集・分析し、
仮想空間で監視するデジタルツインは、ものづくり現場の切り札であり、
データ活用の新たなステージに向けた重要な技術と言えます。
デジタルツインの事例
- 災害課題の解決におけるデジタルツイン活用
富士通株式会社は、台湾でデジタルツインを活用したスマートダム共創構想を
展開しています。ドローンが捉えた映像は5Gでリアルタイムに伝送され、
リアルなダムを仮想空間に再現でき、地形、ダム形状、水位、
上流河川情報、ダム流量変化などをリアルタイムで確認できます。
この情報をリアルタイムに収集することで、
いつ洪水が発生するか(または今回は発生しないか)、
台風によっていつ洪水が発生する可能性があるかを予測できます。
また、堤防が決壊した場合でも、
ドローンが撮影した映像を仮想空間に送信することで、
水位がどこまで迫っているかをリアルタイムで知ることができます。
デジタルツインを活用することで、より精度の高い災害対策が可能になります。 - ワールドカップでのデジタルツイン活用
「初のデジタルワールドカップ」と呼ばれる2018年のロシアワールドカップでは、VAR(ビデオアシスタントレフェリー)などの新しいデジタル技術が導入され、
フィールド外で映像を見て審判員をサポートしました。
Electronic Performance and Tracking System (EPTS) と呼ばれるシステムは、
デジタルツインを使用して、仮想空間でのプレーヤーとボールの動き、
およびプレーヤーの心拍数と疲労レベルをリアルタイムで監視します。
上記のデータは、ベンチの監督とスタンドにいる分析担当者に、
配布されたタブレットにリアルタイムで反映されます。
これまで試合前のデータや監督の目で判断していた判断に、
リアルタイムのデータを加えることで、試合に大きな影響を与えました。 - 製造業でのデジタルツイン活用
DXを実現するサービスとして、ドイツの大手企業シーメンス株式会社は、
機械のコンセプトから制御設計、立ち上げ、製造、
保守までをデータでつなぐデジタルツインソリューションを提供しています。
シーメンス株式会社は、すべてのデータを接続することで、設計を標準化し、
機械の付加価値を生み出すことができると主張しています。
このデータをデジタルツインに接続することで、ソリューションを導入した企業の
開発時間が 30%短縮され、新製品の早期開発が可能になり、コストが削減されました。
最後に
さまざまな課題を解決する強力なツールとして、
デジタルツインがますます注目されています。 日本でもSociety 5.0の一環として提唱され、
国土交通省や東京都が具体的な動きを始めています。
物理空間と同じ環境を仮想空間に再現するデジタルツインを有効に活用できれば、
低リスク、低コスト、高品質な製品を短期間で開発することが可能になり、
アフターサービスの向上にもつながります。
社会課題を解決するためにデジタルツインの活用が拡大しており、
今後あらゆる分野への応用が期待されています。
デジタルツインは日本でもDXを加速させるでしょう。
デジタルツインは自社の課題に有効な解決手段となり得る可能性があります。
まずは最新情報のキャッチアップを始めてみてはいかがでしょうか。
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