インダストリー4.0とスマートファクトリーが
必要な理由とは?

 2024.04.30  AJS株式会社

インダストリー4.0とスマートファクトリーが必要な理由とは?

はじめに

小松製作所の「スマートコンストラクション」を聞いたことはありますでしょうか?ドローンによる測量から施工計画の通りに動くICT建機で、工程の進捗管理システムまでを一体管理できるサービスなのですが、現場からは経験の乏しい20代、30代でも一人前に工事ができて、人手不足も解消できると高い評価を受けているものになります。インダストリー4.0はこのような取り組みのことを言います。

インダストリー4.0とは?

「インダストリー4.0」という用語は、製造業のコンピュータ化を促進するドイツ連邦政府の
ハイテク戦略の中のプロジェクト名に由来しています。2011年に生まれたこの言葉ですが、
日本でも、IoTやAIなどのデジタル技術を使って、新たな価値を創出する取り組みを支援する
戦略「Connected Industries」を同様の意味合いとして提唱しています。

インダストリー4.0は「第4次産業革命」を意味することがあります。
水力・蒸気機関を活用した機械製造設備が導入された第1次産業革命、石油と電力を活用した大量生産が始まった第2次産業革命、IT技術を活用し出した第3次産業革命に続く歴史的な変化として位置付けられています。

インダストリー4.0は、「製造業のデジタル化を進めて生産情報を可視化し、多様な市場ニーズに応えられるスマート工場で新しいビジネスモデルにつなげる」というコンセプトのことを
言います。

人間、機械、その他の企業資源が互いに通信することで、各製品がいつ製造されたか、
そしてどこに納品されるべきかという情報を共有して、製造プロセスをより円滑なものにすること、さらに既存のバリューチェーンの変革や新たなビジネスモデルの構築をもたらすことを目的としています。

そのことで、大量生産の仕組みを活用しながらオーダーメードの製品作りを行う「マス・カスタマイゼーション」が実現できるようになります。

インダストリー4.0とスマートファクトリーが必要な理由とは? 01

インダストリー4.0に必要となる設計思想には以下の四つが挙げられます。

  1. 相互運用性

    相互運用性とは、モノ・人・システムを問わず、生産に関連するものすべてをつなぐことを意味します。モノ・人・システム間で情報を密接にやりとりし、さまざまなセンサーやデバイスを連携してリアルタイムにデータを収集することで、自律的な意思決定を可能にします。

  2. 情報の透明性

    情報の透明性とは、集めたデータをもとに仮想モデルを作成し、可視化することです。
    集めたデータは製品開発や需要の分析など、さまざまな方面に活用できます。

  3. 技術的アシスト

    技術的アシストとは、センサーやデバイスを使ってデータ収集をサポートすること、
    重労働や危険な作業を産業ロボットで代替することなどを意味します。

  4. 分散型意思決定

    分散型意思決定とは、現実世界で収集したデータをサイバー空間で分析し、現実世界へ
    フィードバックするCPS(Cyber-Physical System:サイバーフィジカルシステム)と
    呼ばれる仕組みを用いて、生産ラインの意思決定をできる限り自律化することです。

インダストリー4.0を導入するメリット

インダストリー4.0が進めば、工場の完全な自動化に近づきます。
また、収集したデータを管理することで生産性の効率が向上すると考えられます。
インダストリー4.0の中核となるコンセプトは「スマートファクトリー」、すなわち「考える
工場」です。スマートファクトリーを実現した工場では、センサーによりデータを適切に把握することで、人間の指示がなくても自律的に機械が判断し、最適なオペレーションを実施することが可能です。

また、可視化による生産性改善だけでなく、設計から製造、保守までのビジネスプロセス全体の変革の両面を見る「DX」を行った工場とも言えます。

製造業においてスマートファクトリーが必要な背景

製造業においてスマートファクトリーが必要な理由は、日々の現場の生産性改善が重要で
ある、ということはいうまでもありませんが、日々の生産性改善に対する取り組みはこれまでも行ってきていました。しかし、昨今の製造業が置かれている状況は、「少子高齢化に伴う深刻な人手不足」や、「第三国の大きな進展」、「既存設備があるため、最新鋭の設備に置き換えることができない」といった課題が山積みな状態です。

その一方で、競争力のある製造業をどのように作っていくかということが、国をあげての命題となっています。特に、第三国の進展に関しては、製品価格が何割も安い状況があるものもあり、そう言った場合、全体のコストから見ると、現場の生産性改善が全体のコスト削減に繋がっているとは言えません。

そこで、生産現場の生産性改善にとどまらず、在庫の最適化や歩留まり率の削減、工場内のロジスティクスの最適化や、エネルギーに関するコスト削減など、広範囲なスマート化が必要とされています。

スマートファクトリーのメリット

スマートファクトリーを導入するメリットは以下の四つと言えます。

  1. 製造工程の見える化

    生産性改善のためによく行われるのが、製造工程の見える化です。
    ライン全体、工程単位など、さまざまな単位での見える化が行うことができれば、
    工程毎、ライン毎の生産性改善が可能となります。
    産業機械の動作状況なども取得可能になったり、カメラなどを活用して人の動きが把握できるようになってきたり、アナログセンサーのデータを取得することも可能となってきていることから、工夫次第では現場の可視化はかなり細かく可能となります。

  2. 技術の継承

    少子高齢化が進む中、なり手不足の問題と、匠の技術と呼ばれる長年の培った高度な技術を持つ技術者の継承問題が顕在化しています。
    そこで、作業の内容や、仕上げの品質確認など、さまざまな工程においてデジタル技術の利用が進んでいます。例えば、産業機械を動かす際、産業機械から発せられる音に着目して、音の変化するところで作業内容を変えると言った、熟練技術者でないとわからない
    細かな変化を言語化し、IoTを活用してデータ取得することで、匠の技術を可視化し、
    後継者育成に活用するという動きがあります。
    今後ますます深刻化する人不足、そして経験が浅い技術者を活用していかざるを得ない中、技術継承をおこなうだけでなく、自動化も視野に入れていく必要があります。

  3. ロジスティックスの改善

    生産性改善を考える時、製造を行う工程に関してはこれまでも十分行ってきたという企業でも、その周辺に関しては改善余地がある場合が多いです。
    その一つが工場内のロジスティクスの改善です。倉庫と現場までの導線がよくなかったり、人が行うことが多いなどさまざまな導線の改革がある。最近、AGVと呼ばれる、
    自動搬送機が登場し、ロジスティクス改革も進んでいく流れとなっています。

  4. 未来予測

    生産現場の状態を取得するようなIoTデバイスを取り付け、現実世界の状態を把握する
    ことで、製造の現場をデジタル空間上にコピーすることができれば、デジタル空間上で
    現実世界でおきるであろう変化をシミュレーションすることができるようになります。
    例えば、生産設備の配置を改善するといったとき、実際に人の稼働領域がどうなのか、
    生産性が悪化することはないか、単位時間あたりの生産数がどう変化するか、など
    さまざまな未来予測が可能となります。

事例

アメリカのバイクメーカーであるHarley Davidson社は、2009~2011年にかけて、工場を刷新しました。すべての製造機器や移動機器の稼働状況をモニタリングし、顧客からカスタム発注を受けた際は、必要となる部品のリストを即座に読み込み生産計画に反映。必要となる部品の在庫確認および手配を行います。結果、作業員の数を半分に、納品リードタイムを2~3週間
短縮できました。

ドイツのスポーツ用品メーカー、アディダスもインダストリー4.0の象徴となる取り組みを
始めています。同社では1980年代からアジアに生産拠点を移してきましたが、アジアでの労働コスト上昇や政治・税法上のリスクの高まりなどを受けて、「ドイツの自動化工場でのシューズ生産」を拡大していくということを掲げています。

インダストリー4.0に取り組む象徴的な企業のひとつがドイツのIT関連企業SAPです。
同社は製造業の各現場業務をつなぐソフトウエア開発で実績を積み重ねており、シーメンスやボッシュなどと連携して世界標準の策定にも力を入れています。

最後に

インダストリー4.0を実現する際に課題となるテーマは2つあります。
ひとつはセキュリティです。これまでオフラインで動いていた製造機器をインターネットに
接続することにより、マルウエアなどのサイバー攻撃に遭う可能性が高まります。

総務省が公開した「サイバー攻撃に関する最近の動向」によると、2022年に発生したサイバー攻撃は、2021年に比べ大幅に増加している。
IoTを活用したインダストリー4.0を実現するには、十分な情報セキュリティ対策が必要といえるでしょう。もうひとつの課題は、通信環境です。IoTで結ぶ製造機器の数に比例して、インターネットのトラフィックは増加します。そのため工場内の通信環境も、必要に応じて見直す必要があります。最近はローカル5Gなど、工場内で利用できる高速な通信環境が注目を集めています。


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