通信会社や携帯電話のCMで目にすることの多い5G。日本では2020年に始まった5Gですが、私たちの社会生活にどのような未来を届けてくれるのでしょうか。5Gとはどのようなものなのか?これまでの通信規格の歴史を振り返りながら、いま想像される活用用途までを解説いたします。
5Gとは
まず5Gとは?から解説してまいりますが、5Gは「5th Generation」の略称で、「第5世代移動通信システム」のことを指します。携帯電話などに用いられる次世代通信規格の5世代目となります。
初めてコンセプトが発表されたのは2015年9月です。国際連合の専門機関「国際電気通信連合」無線通信部門(ITU-R)が策定したレポート「IMTビジョン勧告」の中で初めて5Gのコンセプトと利用シナリオとして下記①から③が発表され、2017年に5Gの技術性能要件として合意されました。
- 高速大容量(eMBB:enhanced Mobile Broadband)
- 高信頼・低遅延通信(URLLC:Ultra-Reliable and Low Latency Communications)
- 多数同時接続(mMTC:massive Machine Type Communication)
5Gの国際標準化を進める団体「3GPP」も、IMTビジョン勧告を受けて基本調査をスタート、シナリオに則した仕様や要求条件を整理して、遠隔医療、ドローン制御、自動走行、VRなど計74件のユースケースを発表しました。
そして2019年には、アメリカ、韓国、イギリスなど世界19ヵ国が5Gの商用サービスをスタート。日本では2020年春から始まり、個人利用だけでなく、ビジネス利用での実用化に向けても動き出しています。今後は昨今企業規模や地域を越えて積極的に広がっているDXを実現するための重要な基盤として期待が高まっている通信規格となっています。
これまでの歴史
1979年に日本電信電話公社(現在のNTT)が自動車電話の商用サービスをスタートしまして、これが現在の携帯電話の基礎となっていますが、そこで活用されたのが、第1世代移動通信システムである1Gでした。
「1G」アナログ携帯電話の普及
1980年代には1Gが始まりました。そして1985年にはポータブル電話機「ショルダーホン」、1987年には「携帯電話」が登場しましたが、音声を電波に乗る信号に変換して通信するアナログ方式でした。そのため、機能は音声通話のみ。通信品質や通信距離を改善するためにデジタル方式の技術開発が進みました。
「2G」メール・インターネット利用の普及
1990年代には2Gが普及し始めます。通信方式はアナログからデジタルへと変わり、データ通信がスタートしました。それまでは音声通信だけでしたので、2G普及でメールの利用やインターネット回線への接続が可能になったのは画期的なことでした。生活者がより便利な生活を求めたことで、携帯電話が一気に普及した時期と言えます。
1999年にNTTドコモが「iモード」を発表。着信メロディや待受画面のダウンロード、モバイルバンキング、地図検索サービスなどを利用できるようになり、モバイルユーザーに対するビジネスも拡大しました。そして、KDDIの前身のDDIセルラーグループは「EZweb」を、ソフトバンクの前身のJ-フォンは「J-スカイ」を開始しました。この頃にデータ通信の利用が日常的になりましたが、多くの利用者は通信速度に対して更なる速さを求め始めました。
「3G」高速通信の普及
2000年代には3Gが普及しまして、2Gと比べて大容量のコンテンツをすぐに楽しめるようになりました。「着うた」が流行したのはこの時期です。3Gは国際標準の移動通信システムですので、日本の携帯電話を海外でも使えるようになりました。そして2008年にはソフトバンクが「iPhone 3G」の発売を始めました。通信3社では初めて国内にiPhoneを販売したことで、注目を浴びました。ガラケーからスマートフォンの移行のきっかけとなった時代ですが、同時にインターネット接続も快適になり、高速大容量通信へのニーズが更に高まりました。
5Gと4Gの違いは?
2010年代にはスマートフォンの利用者が激増しました。通信速度が飛躍的に向上したことで、モバイルゲームや動画、チャットなど大容量コンテンツをリアルタイムに楽しめるようになりました。
そして現在の2020年代は、5Gの時代となります。
4Gはスマートフォンやタブレットの利用が中心のように見えていますが、5Gは社会インフラそのものとなると言われています。ありとあらゆるものがインターネットに繋がるIoT時代を迎え、幅広いユースケースが想定されるためです。それを可能にするのが、2015年に発表されたIMTビジョン勧告のコンセプトである「高速大容量」「高信頼・低遅延通信」「多数同時接続」です。4Gと比べて通信速度は20倍、遅延は10分の1、同時接続台数は10倍の進化が見込まれ、さまざまなサービスやビジネスでの活用が期待されています。
5Gで実現できること
5Gが普及すると、私たちの生活やビジネスにとって現在では想像し難い大きな変化が起きると考えられています。
現在想像されていいる例をご紹介します。
自宅にいながら大迫力で楽しめるライブ配信
自宅でいてもスタジアムのような広い会場にいる観客同じように感じられる、迫力ある映像を見る体験ができるようになります。
海外各国にいる人たちとリアルタイムで楽しめるオンラインゲーム
オンラインゲームを使ったスポーツであるeSportsの世界大会は、現在の4G環境ではネットワークのラグが生じて不公平が発生するのでオフラインの会場で実施しています。5Gの「高速大容量」「高信頼・低遅延通信」によりリアルタイム性の高いゲーム体験が実現、eSportsの世界大会も自国にいながら参加できる事になるでしょう。
家の中にある家電を生かしたスマートホーム体験
家庭にある数多くの家電はネットワークにつながります。たとえば、朝起きたら自動でカーテンが開いて音楽が流れて、天気予報や交通状況がスマートスピーカーから聞こえて、好みのコーヒーが注がれるような生活です。また空調も自動的にOn/Offとなり常に快適な気温や湿度が保たれます。
圧倒的な没入感のVR・AR体験
VRやARを含む「XR」分野は、現在通信速度の問題で映像のクオリティが最大限引き出せていませんが、5Gにより品質が格段に上がります。ヘッドセットを装着すれば、リアルに近い映像のメタバースの中で社会生活を送れるようになり、車のレーシングゲームでは本当に運転をしているような体験ができます。圧倒的な没入感でワクワクする体験を得られる新たなエンターテインメントが生まれますし、その他にも新しいビジネスが加速度的に生まれるでしょう。
スポーツ観戦の多角化
5Gを活用したスポーツ観戦はすでに始まっています。KDDIはプロ野球公式戦で、NTTドコモはラグビーワールドカップ2019日本大会で実証実験がされました。観客がリアルタイムに視点を切り替えて試合を観戦できるサービスを提供しました。総務省はスポーツ観戦の経済効果を約2373億円と見込んでいて、成長が期待されています。
遠隔技術の活用
遠方にいる医師が手術中に助言する「遠隔手術支援」が普及するでしょう。また遠方にいる医師が手術を行う「遠隔手術」も近い将来で実現されるかもしれません。建築現場や災害復旧現場で、重機を遠隔操作できるようなることも期待されています。
自動運転の進化
もっとも期待されているが自動運転です。常にネットワークに繋がった「コネクテッドカー」は、車両の状態や歩行者の位置、交通状況、デジタル地図「ダイナミックマップ」などの情報を常時サーバーと通信。非常時のハンドル制御や隊列走行によって、交通事故・交通渋滞は低減すると考えられています。
IoT化の加速
医療分野では複数の医療機器や院内設備が、農業では気象や土壌、生育センサーなどがインターネットに繋がり、膨大なデータを収集。それをAIが解析することでそれぞれの精度を上げます。商業施設では、客の導線分析をマーケティングに活用、リアルタイムの在庫管理・自動発注、ロボットによる接客なども可能になります。
働き方改革
家の中にある家電と通信あたかも同じ空間にいるような感覚でビデオ会議を行ったり、大容量のファイルをスムーズに共有したりできるので、これまで以上にリモートワークが一般化していきます。これにより、どこにいても仕事をすることができるので、出産や育児、介護などどうしても自宅から出れない人たちにとって仕事との両立しやすくなるでしょう。
終わりに
5G導入による恩恵は通信速度の向上だけではありません。個人利用だけでなく、企業が新製品・新サービスを開発するうえでも、5Gを前提とした取り組みになりますので、これまでの延長線上では考えもつかないアイデアが生まれてくるでしょう。まず現時点では5Gのコンセプトや特徴、5Gを活用して実現できることを正しく理解しておくことが、DX推進の鍵を握るといっても過言ではありません。
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