
近年、多くの企業で注目されている「オフボーディング」。
従業員が会社を離れる際のプロセスを体系的に整えることで、トラブルの防止だけでなく、企業ブランディングの向上や再雇用にもつながる重要な仕組みです。
退職者の対応というと、社内手続きの一部と捉えられがちですが、実は企業にとって大きな資産である『人とのつながり』を維持し、組織の成長を後押しするための戦略的な取り組みでもあります。
そこで、こちらの記事では、オフボーディングの意味や目的、具体的な施策とメリットについて、分かりやすく解説します。
退職手続きを“形式的な手続き”で終わらせないために、オフボーディングの全体像をしっかりと押さえていきましょう。
オフボーディングとは

オフボーディングとは、従業員が退職する際に必要となる事務手続きや業務の引き継ぎ、社内外との調整を円滑に進めるための一連の取り組みを指します。
退職プロセスを体系化し、計画的に実施することで、欠員が生じた際も業務を滞りなく継続でき、退職によって生じがちな生産性の低下やチーム内の混乱を最小限に抑える効果があります。
さらに近年では、単なる手続きにとどまらず、退職者と円満な関係を維持し、退職後も良好なつながりを築くことも重視されるようになりました。
オフボーディングは、欠員による負担を減らすだけでなく、退職者との関係性を資産として活かし、長期的に企業価値の向上にも寄与する重要な取り組みといえます。
オンボーディングとの違い
オフボーディングと対になる概念として挙げられるのが「オンボーディング」です。
オンボーディングとは、新入社員が早期に組織へ定着し、戦力として活躍できるように支援する育成プロセスのことを指します。
入社後の不安を軽減し、スムーズに組織文化へ馴染めるよう、研修やフォロー体制を整えることで離職防止につなげる役割があります。
一方、オフボーディングは、退職する従業員が円滑に業務から離れ、退職後も企業との良好な関係を保てるように支援するプロセスです。
オンボーディングは『新入社員向けに入社体験を向上させる取り組み』で、オフボーディングは『退職社員向けに退社体験を向上させる取り組み』のため、実施するタイミングと目的が異なります。
オフボーディングが注目されるようになった背景
従業員の働き方やキャリア観が大きく変化する中、退職プロセスの質が企業運営に与える影響は、これまで以上に大きくなっています。
こちらでは、オフボーディングが注目されるようになった背景についてお伝えします。
働き方の多様化
昔は『長期雇用』が前提で、従業員が退職するケースは比較的少なく、退職対応は限定的な業務と考えられていました。
しかし、現代では、育休・産休による一時的な欠員発生や、転職市場の活性化による早期離職者の増加など、働き方や個々のキャリア観が大きく変化しています。
こうした状況下では、退職者が組織に与える影響も無視できなくなり、退職者への対応を体系化していないと、現場の混乱や業務停滞が起きやすくなってしまいます。
とくに、マニュアル化されていない業務の引き継ぎや曖昧な退職手続きフローは、チーム全体のパフォーマンス低下を招くリスクもあります。
従業員が多様な働き方を選ぶ時代だからこそ、『退職者に対する取り組み』を経営課題として捉える企業も増加し、オフボーディングが重視されるようになりました。
アルムナイ採用の増加
オフボーディングが注目されるようになった背景の一つに、近年、多くの企業で導入が進んでいる「アムルナイ採用」も含まれています。
アルムナイ採用とは、一度退職した元従業員(アルムナイ)を再雇用する手法のこと。
企業文化や業務内容をすでによく理解しているため、入社後のミスマッチが起こりにくく、即戦力としてスピーディーに組織の中で活躍できる点が大きなメリットとされています。
人材獲得競争が激化する今、外部からゼロベースで採用するよりも、企業理解の深い元従業員を迎え入れるほうが効率的で、採用リスクも低いため、アルムナイ採用の価値はますます高まっています。
そのため、退職時の対応を円満に進めるとともに、退職後も良好な関係を構築し、継続的なコミュニケーションを保つためのオフボーディングが重要性を増しています。
企業のブランディング
SNSの利用が当たり前となった現代では、退職者が不満を抱えたまま企業を離れると、口コミサイトや個人のSNSアカウントでネガティブな投稿をされるリスクがあります。
中には、退職トラブルが大きくなり、法的な問題に発展するケースも珍しくありません。
そのため、企業側は、退職プロセスを丁寧に整備することが急務となっています。
また、退職者を大切に扱う姿勢は、企業のブランディングにつながります。
円満な退職体験を提供できれば、退職者は企業の“良き理解者”となり、将来の採用活動においてポジティブな影響をもたらす可能性もあります。
オフボーディングは、企業の評判や採用力を高めるための取り組みとしても注目されているのです。
オフボーディングの具体的な施策とメリット

ここからは、オフボーディングの具体的な施策とメリットについて解説します。
以下に、退職プロセスで押さえておきたい4つのポイントをまとめました。
業務の可視化・引き継ぎ
オフボーディングの中心となるのが、「業務の可視化とスムーズな引き継ぎ」の仕組みづくりです。
欠員が発生してから慌てて対応するのではなく、日頃から引き継ぎマニュアルや業務の手順書を整備し、担当業務を誰でも理解できる状態にしておくことが欠かせません。
実際の引き継ぎでは、前任者と後任者のスケジュールを事前に確保し、必要な期間内で計画的に引き継ぎを進めることが大切です。
その際、業務内容が可視化されていれば、将来的な欠員発生時の引き継ぎ漏れを防ぎ、業務の属人化を解消することができます。
また、引き継ぎでは、後任者へのフィードバックや業務改善ポイントの共有を行うことで、パフォーマンスの低下を最小限に抑えることも可能となります。
オフボーディングでは、欠員発生による組織への影響を最小限にし、安心して後任者が業務を継続できる体制を整えることが必要です。
リスク管理(情報漏洩・法務・労務)
オフボーディングにおいては業務の引き継ぎだけでなく、企業リスクを最小限に抑えるための管理体制を整えることも欠かせません。
退職に伴う対応が不十分な場合、情報漏洩や労務トラブル、不要な法的リスクに発展する可能性があります。
そのため、退職が決定した段階で、業務アカウントや社内システムへのアクセス権限の整理、機密情報や個人情報の取り扱いに関する確認を行うことが重要です。
あわせて、誓約書や就業規則の再確認、貸与物の返却、未消化業務や勤怠・残業時間の精算など、法務・労務面の手続きを計画的に進める必要があります。
オフボーディングを体系的に管理することは、退職者との無用なトラブルを防ぐだけでなく、企業と従業員双方にとって安心できる退職プロセスの実現につながります。
退職希望者との面談実施
「退職希望者との面談実施」も、オフボーディングにおいて重要なプロセスの一つです。
退職理由や今後のキャリアプラン、会社や組織への要望などを丁寧にヒアリングすることで、従業員がどのような課題や不満を抱えていたのかを正確に把握することができます。
退職希望者との面談は、形式的な手続きではなく、従業員の本音を引き出し、退職理由を分析することで組織改善につなげる貴重な機会です。
離職の背景には、業務負荷のストレス、評価制度への不公平感、コミュニケーション不足など、企業側が気づきにくい構造的な問題が隠れている場合もあります。
面談で得られたフィードバックを適切に分析し、改善施策に活かすことで、従業員エクスペリエンス(従業員が入社から退職に至るまでに組織の中で得る体験や会社への印象)の向上や離職率の低下につながり、結果として組織全体の生産性向上にも寄与します。
退職者とネットワーク構築
退職者とは、「退職日以降も継続的にコミュニケーションを図る」仕組みをつくることも重要です。
たとえば、退職者が参加できる社内イベントや交流会を開催したり、企業公式SNSを通じて情報を発信したりすることで、退職後も企業とのつながりを保ちやすくなります。
また、アルムナイ(元従業員)採用が増加していることで、退職者が企業の最新情報に触れられる環境やアルムナイコミュニティを整備し、関係性を長期的に維持する必要性も高まっています。
退職者は、将来的な顧客やビジネスパートナー、さらには再雇用の人材候補となる可能性を持っているため、退職後も良好な関係を築いておくことは、企業にとって大きなメリットとなります。
※ 退職者の個人情報の取り扱いに不安を感じる場合は、在職中または退職時に「退職後の情報提供や交流への参加可否」を本人に確認し、同意を得た上で連絡手段を限定するなど、ルールを明確にした運用が有効です。
オフボーディングを成功させるためのポイント
こちらでは、オフボーディングを成功させるためのポイントについてお伝えします。
オフボーディングを円滑に進めるためにできることを、一つずつ確認していきましょう。
退職プロセスを「仕組み化」しておく
オフボーディングを成功させるためには、退職者への対応を単なる事務手続きとして処理するのではなく、組織として一貫した判断と対応ができる仕組みとして設計しておくことが重要です。
退職の対応が属人化している場合、担当者ごとの判断差や情報の分断が生じやすく、手続きの抜け漏れだけでなく、顧客対応の遅れやセキュリティトラブルを招く要因となります。
そのため、退職面談の実施、業務の引き継ぎ、アカウント管理、備品返却に至るまでの一連のプロセスを、「誰が・いつ・何を判断し、どこに記録するのか」まで標準化しておくことが欠かせません。
退職理由や面談内容、引き継ぎ状況、リスク対応等の履歴を、蓄積・管理できる仕組みを整えることで、退職対応の品質を安定させ、将来的な離職防止や制度改善につなげることが可能になります。
定期的に1on1ミーティングを実施する
オフボーディングを円滑に行うためには、従業員の退職意向を早期に把握することが大切です。
そのための効果的な手段に、従業員との定期的な1on1ミーティングの実施が挙げられます。
1on1ミーティングで業務上の悩みや不安、今後のキャリアプランなどを丁寧にヒアリングすることで、従業員の状況や本音を把握しやすくなります。
また、日頃から業務内容や課題を共有しておくことで、退職が発生した場合でも業務の引き継ぎをスムーズに進めやすくなります。
さらに、1on1ミーティングで信頼関係を築いておくことで、オフボーディング時の面談でも率直なフィードバックを得やすく、退職後も良好な関係を維持しやすくなります。
定期的な1on1ミーティングによる対話の積み重ねは、会社に対してポジティブな印象を残し、結果として企業のブランディングや将来的なアルムナイ採用につながる土台となり、長期的に大きな価値をもたらします。
良好な人間関係の構築に。
人事評価システム「P-TH/P-TH+」
オフボーディングを効果的に実施するためには、日頃から従業員との関係性を丁寧に育むことが欠かせません。
その基盤となるのが、定期的な1on1ミーティングです。
半期ごとの評価面談ではなく、もっと短いスパンでタイムリーにフィードバックできる1on1ミーティングは、業務の精度を上げるだけでなく、離職に繋がる従業員の不満や悩みに早期に気が付くことができるでしょう。
慣れ親しんだExcelの評価シートをそのままシステム化できる人事評価システム「P-TH/P-TH+(ピース/ピースプラス)」の『1on1機能』は、従業員一人ひとりの状況を継続的に把握するための仕組みを提供します。
『1on1機能』では、面談の記録や議題の事前共有、次回までのアクション整理(宿題事項)をすべてシステム上で一元管理することが可能です。
これにより、『何を話したか』『どんな課題があるか』『次にどのようなフォローが必要か』といった情報を管理できるだけでなく、分析レポート機能により、1on1ミーティングの満足度や時間、従業員から要望の高い議題の傾向やその変化がわかるため、上司ごとの1on1の質のバラつきを可視化し、軽減することができます。
例えば、1on1ミーティングの満足度が低い部下を持つ上司に対しては、研修を促すなどのサポートに役立てることなども可能になります。
従業員との関係性が良好であれば、退職時の面談でも率直な意見を得られやすく、オフボーディングの質も向上します。
「P-TH/P-TH+」の活用は、人事評価を効率化するだけでなく、1on1ミーティングをより効果的・効率的に実施することをサポートできます。
まとめ
オフボーディングは、退職手続きを円滑に進めるだけでなく、組織のパフォーマンス低下の防止や企業ブランドの向上、さらにはアルムナイ採用にもつながる重要なプロセスです。
個々の働き方が多様化し、人材の流動性が高まる現代においては、退職者への対応も“戦略的な人事施策”として捉える必要があります。
業務の可視化や丁寧なコミュニケーション、退職後のネットワーク構築などを整備することで、退職による組織の混乱を防ぎ、企業と従業員双方にとって満足度の高い退職体験を実現できます。
オフボーディングをしっかり整えて、退職者との良好な関係性を築き、組織の信頼性を高めていきましょう。
<< コラム監修 >>
株式会社サクセスボード 萱野 聡
日本通運株式会社、SAPジャパンで採用・教育を中心とした人事業務全般に幅広く従事。人事コンサルタントとして独立後、採用コンサルタント、研修講師、キャリア・アドバイザーとして活躍中。 米国CCE Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー、産業カウンセラー。
- カテゴリ:
- 人事部門向け
- キーワード:
- アルムナイ採用




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