子どもや、その家族に対するサポートを行う保育士は、近年の価値観の多様化に伴う様々な環境の変化によって、今まで以上に高い専門性を求められています。
そのため、保育の現場では、保育士のモチベーション向上や、組織の活性化などを図るために人事評価制度の重要性が高まっています。しかし、人事評価制度の導入には保育士特有の難しさもあります。本記事では、保育士のスキルアップや職場の活性化を促すための、人事評価制度の導入手順やそのメリット、そして直面しがちな課題について詳しく解説します。
保育士の人事評価の必要性
人事評価制度は、保育園や児童養護施設など保育士が働く施設では導入が進んでいない傾向にあります。子どもと接する業務が多く、数値化して評価することが難しい点が、導入が進まない一因となっています。
しかし、近年では、保育士に対しても人事評価の必要性が高まってきています。その理由のひとつとして、人事評価を導入することで、組織の活性化や職員のモチベーション向上に伴う、サービスの質ややりがいの向上を図れる点が挙げられます。
人事評価制度によって、保育士が自身の成長を実感し、キャリアにおける目標を明確にすることが可能です。保育士の成長は、保育の質の向上につながるため、保育士に対しても人事評価制度が必要であると考えられています。
保育士の人事評価で目標設定を行う理由
保育士の人事評価においても、目標設定は重要な役割を果たします。以下では、目標設定を行う理由について詳しく解説します。
スキルアップを図るため
保育士は、ただ子どもの世話をするだけでなく、子ども一人ひとりの発達や家庭状況などを把握し、適切に擁護するという非常に専門性の高い業務を担います。家族形態も多様化する近年、家族の影響を大きく受ける子どもと接する保育士は、さらなる専門性やスキルを求められています。
キャリアにおける目標を設定することで、日々の業務の中で、保育士として不足しているスキルが明確になります。不足するスキルが見える化することで、日々の業務に対しても意識的に緊張感をもって取り組むことができます。スキルを得るために研修に参加するなどの行動にもつながるでしょう。
モチベーションを高めるため
キャリアにおける目標を設定することで、達成すべき事項が明確になり、日々の業務に対するモチベーションが高まり、日々の業務の中で達成感や充実感を得ることが可能です。そして、この達成感がさらなる成長意欲を引き出し、長期的・意欲的に仕事に取り組む姿勢を維持する助けとなります。
人材を育成するため
キャリアに連動した目標設定を行うことは、人材育成の観点からも重要です。特に中堅保育士やベテラン保育士になると、後輩の指導を任されることが増えるでしょう。ベテラン保育士に、後輩を育成するという目標を具体的に(誰にいつまでに何をどこまでできるようにするか)設定することで、後輩への指導はよりスムーズ行えるようになります。また、後輩育成の質も向上し、組織全体の成長にもつながります。
保育士の人事評価制度の導入手順
人事評価制度は、以下の手順で導入する必要があります。
- 評価の目的を明確にする
- キャリアパスを策定する
- 評価方法を検討する
- 評価項目を作成する
- 導入スケジュールを作成する
- 制度の評価・見直しをする
1. 評価の目的を明確にする
まず、何のために人事評価を導入するのかを明確にします。職員の成長促進や組織の活性化、保育の質の向上など、具体的なゴールを設定することで、評価制度の運用がぶれずに進行できます。また、職員に対して評価の目的を正確に伝え、共有することも重要です。
2. キャリアパスを策定する
キャリアパスは、保育士がどのような成長を遂げるべきか、その道筋を示すものです。たとえば、主任や園長以外にも、特定の職務分野におけるリーダー役職を設けることで、キャリアパスを多様化させることが可能です。あるいは、自治体の研修プログラムや専門分野でのスキルアップもキャリアの一部として組み込むことで、役職だけにとらわれないキャリアパスを描くことができます。
3. 評価方法を検討する
キャリアパスに基づいて評価方法を決定します。評価制度が現場の負担にならないよう、できるだけシンプルで継続的に実施できる方法を選んでください。評価方法には、自己評価や上司による評価、同僚による相互評価などがあり、状況に応じて最適な方法を選ぶことが重要です。
4. 評価項目を作成する
評価方法を決めたら、次に具体的な評価項目を作成します。評価項目はキャリアパスに沿って作成し、職員の成長に必要なスキルや能力を反映させることがポイントです。たとえば、保育士としての専門知識や実践スキルに加えて、マネジメント能力やコミュニケーション能力、仕事への姿勢なども評価項目の対象です。
項目数は多すぎると負担が大きくなるため、重要なポイントに絞ることを推奨します。さらに、各項目に対してどのようにスコアリングするか、評価基準やルールを明確にしておくことも必要です。
5. 導入スケジュールを作成する
人事評価制度の導入スケジュールを作成し、全職員に対して評価制度の説明会を実施することが肝心です。人事評価の年間スケジュールは、年に2回の自己評価と上司評価を行うサイクルが一般的ですが、園の状況にあわせて柔軟に対応しましょう。保育所保育指針に基づく年に一回の自己評価を、人事評価制度に組み込むのもおすすめです。
6. 制度の評価・見直しをする
人事評価制度は導入して終わりではなく、定期的に見直しが必要です。年に1回程度、現場の声を反映しながら評価項目や方法を再検討することで、人事評価制度の精度を高めていきます。
保育士の人事評価での課題
保育士の人事評価制度は、評価する側の視点から見ると、以下の課題が存在しています。
- 定量化が難しく評価基準が曖昧である
- フィードバックが不足しがちである
- 評価と報酬が乖離している
定量化が難しく評価基準が曖昧である
保育の仕事は、子ども関する業務のため、具体的な成果を数値化することが非常に難しい分野です。したがって、人事評価において評価基準が曖昧になることが多く、評価が上司の主観に頼りがちです。その結果、評価が偏りやすく、保育士の能力や貢献度を正確に反映できない場合があります。
このような課題に対しては、評価基準をより具体的に設定することが重要です。例えば、出勤率や事故防止件数といった定量的なものと、保護者や同僚からのフィードバックといった定性的なものに加え、自己評価を含めた多角的な評価を導入することで、上司の主観に頼りすぎず、公正な評価が可能になります。
フィードバックが不足しがちである
保育士の人事評価において、評価結果を適切にフィードバックできていないことも、大きな課題のひとつです。保育士は日々の業務に追われるため、評価の結果が共有されず、どのように改善すべきかが不透明なまま進行することが少なくありません。
定期的に適切なフィードバックを行い、改善を続けるための指針を提供することで、保育士が継続的にスキルアップし、園全体の質向上にもつながります。
評価と報酬が乖離している
保育士が高い評価を受けたにもかかわらず、その評価が給与やボーナスに反映されない場合、保育士のモチベーションが低下し、最悪の場合には離職につながることもあります。
ただし、公務員の保育士の場合、給与は地方自治体によって決められています(地方公務員法第24条第2項)。また、私立保育園に勤務している場合でも、主な収入源が市町村からの補助金や利用料に依存しているため、保育園独自で「稼ぐ仕組み」を作るのは非常に難しく、給与を引き上げることは、現状困難です。
この問題を解決するためには、たとえば、加算が受けられる職務分野別リーダーの役職を新設するなど、今できる範囲で、保育士が評価と報酬の連動を実感できる仕組みを導入することが重要です。
保育士の人事評価には「P-TH / P-TH+」
保育士の人事評価において、効率的かつ公正な評価を実現するためには、評価システムの導入も検討しましょう。「P-TH / P-TH+」は、あらゆる企業や組織で活用できる人事評価システムで、保育士がいる職場でも適用可能です。クラウド環境の「P-TH+」では、社内に専用のサーバーを設置する必要がなく、手軽に導入ができます。また、一人一台PCを持っていない場合でも、モバイル入力が出来るため、効率的です。
システム上に蓄積されたデータをもとに、評価結果の分析を行い、保育士のさらなる成長やパフォーマンス向上に役立てましょう。
人事評価システム P-TH/P-TH+ | AJS ソリューション・サービスサイト Solution Navigator
まとめ
保育士の人事評価は、組織の活性化や保育士の成長を促進する重要な仕組みです。スキルアップやモチベーション向上のためには、目標設定や人事評価制度の導入が不可欠です。しかし、評価基準の曖昧さや報酬との乖離といった課題も存在します。これらの問題を解決するためには、具体的な評価項目の設定やフィードバックの強化が求められます。
また、効率的で公正な評価を行うためには、評価システムの導入が効果的です。「P-TH / P-TH+」のようなツールを活用することで、保育士一人ひとりの成長を可視化し、保育の質向上を目指しましょう。
<< コラム監修 >>
株式会社サクセスボード 萱野 聡
日本通運株式会社、SAPジャパンで採用・教育を中心とした人事業務全般に幅広く従事。人事コンサルタントとして独立後、採用コンサルタント、研修講師、キャリア・アドバイザーとして活躍中。 米国CCE Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー、産業カウンセラー。
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- 人事部門向け