
「この仕事、本当に必要なのだろうか?」
働くなかで、そんな疑問を抱いた経験はないでしょうか。
このように、“働いている本人でさえ、意味がないと感じている仕事”のことを、「ブルシット・ジョブ(Bullshit Jobs)」といいます。
ブルシット・ジョブは、従業員のモチベーション低下や生産性の低下を招くだけでなく、組織全体の成長を妨げる要因にもなりかねません。
そこで、こちらの記事では、ブルシット・ジョブの定義や5つの類型をはじめ、企業に与える影響や対策について解説します。
ブルシット・ジョブとは

ブルシット・ジョブ(Bullshit Jobs)とは、アメリカの人類学者デヴィッド・グレーバー氏が提唱した概念です。
グレーバー氏は、ブルシット・ジョブを「被雇用者本人でさえ、その存在を正当化しがたいほど、完璧に無意味で、不必要で、有害でもある有償の雇用の形態」と定義しました。
“Bullshit Jobs”のBullshitは「でたらめ」「たわごと」「ほら話」などを意味する俗語で、日本では“クソどうでもいい仕事” と訳されることもあります。
つまり、働いている本人が「この仕事は本当に必要なのだろうか」「誰にどのような価値を生んでいるのだろうか」と感じてしまう仕事を指します。
ただし、本人が意味を感じられないからといって、直ちにその仕事が不要とは限りません。
問題は、仕事の目的や価値が本人に伝わっていないこと、あるいは実際に価値の乏しい業務が組織内に残り続けていることです。
このようなブルシット・ジョブが組織内に増えると、従業員のモチベーションやエンゲージメントの低下を招くだけでなく、本来価値を生み出す業務に充てる時間が減り、組織の生産性にも悪影響をもたらす可能性があります。
そのため、人事担当者や管理職はブルシット・ジョブの存在を正しく理解し、不要な業務を見直す取り組みが必要といえるでしょう。
ブルシット・ジョブの主要5類型
グレーバー氏は、ブルシット・ジョブを次の5つに分類しました。
まずは、リクルートマネジメントソリューションズの調査レポートを参考に、それぞれの特徴を一覧で整理してみましょう。
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類型 |
概要 |
代表的な職種・役割 |
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① 取り巻き (Flunkies) |
権威や体裁を維持するための仕事 |
必要以上の受付係・秘書、実質的な業務のないアシスタント |
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② 脅し屋 (Goons) |
競争・牽制のために膨らむ仕事 |
度を超えた過度な営業活動やロビイング、成約率の低い相手にもかけ続けるテレマーケティング、過剰な広告・PR担当 |
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③ 尻ぬぐい (Duct Tapers) |
根本原因を放置したまま発生する補正業務 |
壊れたシステムの手作業補正、不備を人力でカバーする業務 |
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④ 書類穴埋め人 (Box Tickers) |
実態よりも証拠づくりが目的化した仕事 |
読まれない報告書の作成、形式的なチェックリストの記入 |
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⑤ タスクマスター(Taskmasters) |
管理のための管理を生む仕事 |
必要以上のマネージャー、管理のための管理をする人 |
こちらでは、主要5類型のブルシット・ジョブについて、具体例を挙げながらみていきます。
1.取り巻き(Flunkies)
来客がほとんどないオフィスなのに、体裁のために受付に人を常駐させているケース。
あるいは、部長には秘書を付けるという慣例があるため、実際には日程調整くらいしか任せる業務がないのに配置されている、といった状況です。
「あの部署は人数が多いから重要らしい」と見せるためだけに増員が続き、配属された本人は一日中、頼まれ待ちの状態になっていることもあります。
役割そのものではなく、人を抱えていることが目的になってしまっている状態の仕事です。
2.脅し屋(Goons)
たとえば、競合が広告出稿を増やしたからという理由だけで、自社も同規模の広告を打ち返す行為や、接続率・成約率がきわめて低いとわかっているリストに、ノルマだからと架電し続けるテレマーケティング業務なども挙げられます。
競合との消耗戦に終始するばかりで社会全体としては新たな価値を生んでおらず、「相手もやるから自分もやる」といういつまでも状況が変わらないゼロサム競争になっている点が特徴です。
3.尻ぬぐい(Duct Tapers)
基幹システムと現場のExcel台帳の数字が毎月ずれるため、月初に半日かけて手作業で突き合わせ、修正する仕事などが挙げられます。
システムさえ改修すれば発生しない作業ですが、「改修には費用も時間もかかるから」と先送りされ、人手でカバーする運用が定着してしまっています。
ほかにも、申請フォームの入力ミスが多発するため、担当者が一件ずつ電話で確認して直しているケースなども当てはまります。
フォームの設計を見直せば済む話にもかかわらず、その場をしのぐ役割・仕事だけが残り続けているのです。
4.書類穴埋め人(Box Tickers)
たとえば、部長が「部長らしい仕事をしている感」を出すためだけに開催する月例業務報告会や、上司を納得させて帳尻を合わせるためだけの資料作成などが例として挙げられます。
ほかにも、実際の業務内容とは無関係な項目が並ぶチェックリストに、内容を確認しないまま毎月同じように転記して押印するだけの作業や、「研修を実施した」という記録を残すことが目的化し、参加しても特に新たな学びが得られない社内研修も挙げられます。
仕事の成果よりも、実施すること自体が目的になってしまっているのが特徴です。
5.タスクマスター(Taskmasters)
現場のチームリーダーがすでに進捗を把握し、正しく記録を残しているにもかかわらず、その上に不勉強な「取りまとめ役」の管理職が置かれ、報告のためだけの報告資料が一段増えているケース。
また、部下が自分で判断して進められる作業にもかかわらず、着手前の確認、中間報告、完了報告と細かく報告や報告書を求め、そのたびに部下の手が止まってしまう、といった状況もあります。
※なお、ここで挙げる類型は、特定の職種そのものを否定するものではありません。営業、広告、管理、事務、受付といった仕事も、目的や成果に結びついていれば重要な役割を果たします。
問題は、仕事の名称ではなく、働いている本人が「何のために行っているのか」「誰にどのような価値を生んでいるのか」が見えなくなっている状態です。
つまり、はたから見て仮に“無意味で不必要”に思える仕事だったとしても、当人が意義を感じていれば、それはブルシット・ジョブではないということになります。
ブルシット・ジョブが生まれる背景
ブルシット・ジョブは、誰かが悪意を持って作り出しているわけではありません。
組織の仕組みや文化の中で、いつの間にか生まれてしまい、居座っているものです。
主な背景として、次のようなものが考えられます。
・評価制度が「成果」よりも「頑張っているように見える行動」を評価している
管理職が「部下を忙しくさせること」もマネジメントの一つだと誤解し、成果を可視化しにくいなかで、無意味なタスクを次々と与えてしまうケースがあります。
・会議・報告・承認が、リスク回避のために増え続けている
責任の所在が曖昧なまま物事を進めることへの過剰な不安から、確認や承認のプロセスが幾重にも重ねられ、会議や報告の数だけが増えていくことがあります。
また、業務削減を提案した人が「やる気がない」と見られてしまう組織文化があると、非効率な業務がかえって温存されやすくなります。
・部門最適が進み、全社視点での業務価値が見えなくなっている
各部門がそれぞれの都合や成果だけを優先して業務を設計すると、全社的に見れば重複や無駄が生じていても気づかれにくく、「昔から続けているから」と見直されないまま残り続けてしまいます。
・AIやシステムで代替できる業務を、人の手で続けている
すでにAIやシステムで十分に代替できる業務であっても、導入や運用変更のコストを理由に、従来どおり人の手で継続されてしまうケースも少なくありません。
いずれの背景も、一つひとつは「仕方がない」で済まされがちですが、積み重なることで、組織全体に大きな影響を及ぼします。
ブルシット・ジョブが組織にもたらす影響

ブルシット・ジョブを放置していると、従業員のモチベーションと組織のパフォーマンスの両方に影響が出てしまいます。
ここからは、ブルシット・ジョブが具体的にどのような影響をもたらすのか、みていきましょう。
従業員のモチベーションが低下する
ブルシット・ジョブを放置すると、「自分の仕事は本当に必要なのだろうか」と感じる従業員が増え、仕事への意欲が低下しやすくなります。
業務の目的や価値を見出せなくなることで、無力感を抱きやすくなり、仕事へのやりがいや組織への帰属意識も薄れてしまいます。
その結果、従業員エンゲージメントの低下を招くだけでなく、働く意欲の喪失や離職率の上昇につながる可能性があります。
組織の生産性が下がる
不要な会議や報告書の作成、複雑な承認フロー作業などに時間を取られると、本来注力すべき業務に十分なリソースを割けなくなります。
結果として、業務効率が低下するだけでなく、企業全体の生産性や競争力にも悪影響を及ぼす恐れがあります。
また、改善の余地があるにもかかわらず、ブルシット・ジョブが放置されると、従業員の改善意欲も失われやすくなります。
業務改善の文化が根付かなくなることは、組織の成長を妨げる要因にもなりかねません。
ブルシット・ジョブを減らすために企業ができること
最後に、ブルシット・ジョブを減らすために企業として取り組める対策をご紹介します。
AI・IT導入の前に「やめる業務」を決める
AIやITツールは業務効率化に役立ちますが、不要な業務をそのまま自動化しても、本質的な課題の解決にはつながりません。
単に「意味のない仕事をより速く終わらせる」だけになってしまう可能性があります。
そのため、ブルシット・ジョブを減らす前に、まず業務の目的や必要性を見直し、「本当に必要な仕事か」を検討することが重要です。
業務改善では、「なくす」「減らす」「統合する」「自動化する」の順で考えることが基本です。
不要な業務を廃止・削減したうえで、本当に必要な業務だけを効率化することで、AIやITツールの効果を最大限に発揮できます。
職務内容の見直しや業務の自動化・効率化
不要な業務を整理した後は、残すべき業務について職務内容や業務プロセスを見直し、より効率的な進め方を検討しましょう。
たとえば、複数の担当者が同じ内容を入力している作業や、手作業で行っている定型業務は、業務フローを整理することで重複やムダを削減できます。
そのうえで、定型業務はAIやITツールを活用して自動化・効率化することで、従業員がより付加価値の高い業務に集中できる環境を整えることができます。
定期的な対話とフィードバックを行う
現場で働く従業員は、日々の業務の中で「この作業は不要ではないか」と感じる仕事に気付いていることがあります。
一方で、本人が「不要ではないか」と感じていても、実は意味のある作業で、本人が気づいていないだけというケースもあります。
企業としては、1on1ミーティングや面談などを通じて定期的に対話を行い、心理的安全性や信頼関係を構築し、業務に対する意見や課題をフラットに共有する機会を設けることが重要になります。
現場の声をもとに業務を改善していくことで、ブルシット・ジョブの発見・削減につながり、業務の目的や意義をきちんと伝えることで、従業員のモチベーション向上にも寄与するでしょう。
評価業務の効率化と有意義な1on1に。人事評価システム「P-TH/P-TH+」
ブルシット・ジョブを減らすうえで欠かせないのが、業務の効率化と、従業員との信頼関係を築くための対話の時間を確保することです。
そこでおすすめなのが、慣れ親しんだExcelの評価シートをそのままシステム化できる人事評価システム「P-TH/P-TH+(ピース/ピースプラス)」。
P-TH/P-TH+(ピース/ピースプラス)に標準搭載されている『1on1機能』を活用すれば、面談内容や目標の進捗を共有しながら1on1ミーティングを実施することが可能です。
形式的な面談ではなく、一人ひとりの成長や課題に寄り添った有意義なコミュニケーションにつながり、従業員のエンゲージメント向上に貢献します。
また、P-TH/P-TH+(ピース/ピースプラス)では、煩雑になりがちな評価シートのファイル管理が無くなり、人事評価の進捗管理もリアルタイムで確認できるため、メールの誤送信や評価シートの紛失、期日までの評価漏れといった運用ミスも防ぐことができます。
評価業務の効率化により、その分の時間を部下との対話に充てられるようになります。
P-TH/P-TH+(ピース/ピースプラス)は、「評価業務の負担を軽減したい」「1on1ミーティングをより有意義な時間にしたい」という企業におすすめです。
まとめ
ブルシット・ジョブは、働いている本人でさえ存在意義を見出せない、無意味で不必要な仕事を指します。
“クソどうでもいい仕事”が組織内に広がると、従業員のモチベーションが下がり、組織の生産性にも悪影響を及ぼしかねません。
人事担当者や管理職の方は、日々の業務を「当たり前」と捉えるのではなく、「本当に必要な業務なのか」を継続的に見直し、従業員が価値ある仕事に集中できる環境を整えていきましょう。
<< コラム監修 >>
株式会社サクセスボード 萱野 聡
日本通運株式会社、SAPジャパンで採用・教育を中心とした人事業務全般に幅広く従事。人事コンサルタントとして独立後、採用コンサルタント、研修講師、キャリア・アドバイザーとして活躍中。 米国CCE Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー、産業カウンセラー。
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