革新的なアイデアや創造的な戦略を立案するためには、組織内の建設的な議論が欠かせません。異なる意見や対立する主張を客観的に評価・検討し、それらを多様な視点で融合できれば、新たな気づきやアイデアを得られる可能性が高まります。そこで重要な役割を担うのが「コンフリクトマネジメント」です。本記事では、コンフリクトマネジメントを推進するメリットや注意点について解説します。
コンフリクトマネジメントとは?
コンフリクトマネジメントとは、組織内で人間同士の衝突が起きた際に、相互理解を図りながら合意形成を目指すマネジメント手法です。「Conflict(コンフリクト)」は、「対立」「不一致」「論争」という意味で訳され、双方が意見を譲ることなく対立している状態を指します。
事業活動では、価値観の異なる複数の人間が関わるため、意見の対立や不一致は避けられません。しかし、多様な価値観や意見を統合できれば、より創造的なアイデアを生み出せる可能性があります。そこで対立関係の協調を図り、複数の見解を融合して組織の発展に役立てることが、コンフリクトマネジメントの目的です。
コンフリクトマネジメントのメリット
コンフリクトマネジメントで得られる恩恵はいくつかありますが、代表的なメリットとして挙げられるのが以下の2点です。
- 意見を出しやすい組織になる
- 人間関係が良好になる
意見を出しやすい組織になる
コンフリクトマネジメントのメリットは、意見を出しやすい組織文化を醸成できる点です。日本の人々は「和を以て貴しとなす」という思想を美徳とする傾向にあり、意見の衝突をネガティブに捉える人が少なくありません。しかし、アイデアの創出や戦略の策定には、積極的な意見交換が不可欠です。
コンフリクトマネジメントでは、意見の対立や見解の相違による衝突を建設的な議論と捉え、双方の主張を尊重しながら問題解決を目指します。それによって、活発な議論や意見交換を奨励する組織文化が育まれ、組織の健全な成長と発展につながります。
人間関係が良好になる
コンフリクトマネジメントを推進するもうひとつのメリットは、良好な人間関係を構築できる点です。何らかの要因によって意見が対立したとき、「正しい見解」と「間違った見解」という画一的な基準で判断すると、後々の人間関係に長期的な摩擦が生じかねません。
コンフリクトマネジメントでは、正誤や善悪といった二元論で判断するのではなく、双方の意見を取り入れながら合意形成を目指します。そのため、不満が残るケースが少なく、対立前よりも人間関係が良好になることも期待できます。
コンフリクトが生じる原因
コンフリクトが生じる主な原因は「条件の対立」「認知の対立」「感情の対立」の3つです。
- 条件の対立
条件の対立は、業務の目標や役割などの違いによって生じるコンフリクトです。たとえば、制作業務においてディレクターは納入期限の遵守を優先事項とし、デザイナーはクオリティの確保を重要事項とする場合、それぞれの間で優先事項について対立が生じる可能性があります。 - 認知の対立
認知の対立は、価値観、信念や解釈の違いから発生するコンフリクトです。同じデータや事実をみても人によって価値観が違うため、異なる捉え方をするケースが少なくありません。例えば、ロゴなどのデザインを選ぶ時に、ある人は「うちの会社っぽい」と言い、ある人は「うちの雰囲気に合わない」と言って、意見が対立する場合があります。認知の対立は、個人の価値観や信念の違いに基づく対立であり、主観的で解決が難しい傾向があります。 - 感情の対立
感情の対立は、個人的な心情や好悪によって起こるコンフリクトです。たとえば、上司のフィードバックに理屈では納得できても、上司の人間性に対する個人的な嫌悪感から反発心を抱き納得できない、といったケースが該当します。また、特定の人物に対する競争心や劣等感が原因で、意見が対立するケースもあります。
コンフリクトが起きた際の対処法
プロジェクトマネジメントの原理原則が体系的にまとめられた「PMBOK(※1)」では、コンフリクトが起きた際に、解決につながるアプローチとして以下の4つを紹介しています。
(1)コミュニケーションをオープンに保ち、相手を尊重する:コンフリクトは相手を不安にさせる可能性があるため、安心できる環境を整えたうえでオープンなコミュニケーションを取る。コンフリクトの原因を探る際には相手を尊重し、威嚇するような言葉を使ったり、態度を見せたりしない。
(2)人ではなく課題に焦点を当てる:コンフリクトの原因を当事者個人の責任に求めない。重要なことは課題=コンフリクトの解決であることを認識する。
(3)過去ではなく、現在と未来に焦点を当てる:解決すべきは現在発生している課題であって、過去の状況ではない。過去に同様の事案があっても蒸し返すことはせず、現在の課題の解決に注力する。
(4)代替案を一緒に探す:相手と解決策および代替案を一緒に探すことによって、コンフリクトが修復され、より建設的な関係への発展も望める。この新たな関係が、さらに創造的な代替案を生み出す可能性がある。
(※1)参照元:プロジェクトマネジメント知識体系ガイド(PMBOKガイド)第7版+プロジェクトマネジメント標準
コンフリクトマネジメントでの注意点
コンフリクトマネジメントを推進する際は、以下に挙げる3つのポイントに注意しなくてはなりません。
- 相手を否定せず冷静に話を聞く
- 双方から適切なタイミングでヒアリングを行う
- 双方を適切に評価する
相手を否定せず冷静に話を聞く
建設的な議論を進めるためには、相手の立場や考え方を理解する客観的な視点が求められます。議論の場で反対意見を提示することと、相手の主張を否定することは似て非なる行為です。特に、感情的になって相手を否定することは客観性を欠く行為であり、公私混同と見なされかねません。偏った視点での一方的な否定や、個人的な感情による非難は、議論の停滞や関係性の悪化を招く要因となります。そのため、客観的な視点で相互理解を深めつつ、冷静に話し合いを進める姿勢が必要です。
双方からヒアリングを行う
コンフリクトマネジメントにおける重要課題は、公平性の確保です。コンフリクトの解決に第三者が介入する場合、双方の意見を聴取した上で、客観的かつ公平な立場で判断を下さなくてはなりません。片方の意見だけを聴取する場合、もう一方の当事者に不公平感が生じるとともに、偏った結論に至る可能性があるため、双方へのヒアリングを行ってからの判断が必須です。ただし、過剰な介入は当事者の自主的な解決機会を喪失させ、かえって状況の悪化を招くリスクがある点に注意が必要です。
双方を適切に評価する
コンフリクトマネジメントでは、双方を公正な視点で評価する必要があります。片方の意見だけを過大評価したり、過小評価したりしないように注意しなければなりません。
コンフリクトにはマイナスの側面が少なくありませんが、建設的な議論を生み出すプラスの場とも捉えられます。双方の意見を適切に評価できれば、活発な意見交換を奨励する組織文化が育まれ、組織の中長期的な発展につながるでしょう。
人事評価業務の改善なら「P-TH/P-TH+」
P-TH/P-TH+は、現行の評価シートやワークフローをそのままシステム化できる人事評価システムです。評価シートを自社で変更することもできるため、自分の意見をチーム内に積極的に発信する、などの評価項目を設けることも可能です。
また、P-THにはオンプレミス型とクラウド型が用意されており、ビジネスニーズに応じた運用形態を選択することができます。現行の評価制度などを変えることなくシステム化できるため社内の定着も早く、人事評価の業務負荷を大幅に軽減することができます。人事評価業務の効率化に、P-TH/P-TH+の導入を検討してみてはいかがでしょうか。
人事評価システムP-TH/P-TH+|AJSソリューション・サービスサイトSolutionNavigator
まとめ
コンフリクトマネジメントは、組織内における衝突の解決や対立関係の協調を、お互いがWin-Winとなるようにすすめるマネジメント手法です。コンフリクトマネジメントにより、それぞれが意見を発信することを、新たなアイデアや建設的な議論のチャンスと捉えることができれば、今よりもより積極的で自由な発想のビジネスが生まれるだけでなく、人間関係の良好な経営基盤も構築できるでしょう。
<< コラム監修 >>
株式会社サクセスボード 萱野 聡
日本通運株式会社、SAPジャパンで採用・教育を中心とした人事業務全般に幅広く従事。人事コンサルタントとして独立後、採用コンサルタント、研修講師、キャリア・アドバイザーとして活躍中。 米国CCE Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー、産業カウンセラー。
- カテゴリ:
- 人事部門向け