“つながらない権利”とは?
労基法改正が検討される今、企業が取るべき3つの対応

 2026.02.25  AJS株式会社

“つながらない権利”とは?労基法改正が検討される今、企業が取るべき3つの対応

テレワークや業務のデジタル化が進む中、「勤務時間外でも連絡が取れてしまう」働き方が当たり前になりつつあります。

一方で、こうした状況に対する問題意識から、今注目を集めているのが「つながらない権利」です。

海外ではすでに法制化が進む国もあり、日本においても労働基準法の改正を視野に入れた議論が活発になっています。

現時点では、明確な義務規定が設けられているわけではないものの、企業の対応次第では、将来的に労務トラブルやコンプライアンスリスクにつながる可能性も否定できません。

とくに、人事担当者にとっては、『制度化されてから対応する』では遅く、今のうちからどのような論点があり、何を整理しておくべきかを把握しておくことが重要です。

そこで、こちらの記事では、「つながらない権利」とは何かを整理した上で、労基法改正が検討される今、企業が検討すべき3つの対応策について解説していきます。

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「つながらない権利」とは

「つながらない権利」とは

「つながらない権利」とは、勤務時間外や休日に、仕事の連絡(メール・電話・チャットなど)に対応せず、業務から切り離されることを選択できる権利を指します。

従業員個人の判断や善意に委ねられるものではなく、企業が制度やルールとして整理すべき労務管理上の概念として位置づけられている点が特徴です。

「つながらない権利」の考え方は日本独自のものではなく、すでに欧州を中心に法制度として整理が進んでおり、中でも象徴的なのが、フランスとイタリアの事例です。

フランス:2016年 労働法典改正

フランスでは、2016年の労働法典の改正により、従業員50人以上の企業に対して「つながらない権利」への対応が求められるようになりました。

具体的には、

  • 勤務時間外の業務連絡をどのように制限するか

  • 従業員が業務から切り離されるためのルールをどう設けるか

について、企業が方針やルールを明確に定めることが法制化されています。

従業員に対して勤務時間外の連絡を一律に禁止するというものではなく、企業と従業員が話し合い、連絡の時間帯や手段などを整理し、業務の実態に即したルール設計を行うことが前提となっています。

イタリア:2017年 Jobs Act(ジョブズ・アクト)改正

イタリアでは、2017年のJobs Act(ジョブズ・アクト)改正により、「つながらない権利」に関する規定が導入されました。

テレワークに従事する労働者を前提とし、

  • 勤務時間外にデバイスを切断する権利

  • 勤務時間外の業務連絡を拒否できる権利

などを、雇用契約に明記することが求められています。

フランス同様、直接的な禁止規定ではなく、契約や協定を通じて権利を保障する仕組みである点が特徴です。

日本でも、長時間労働の是正や勤務時間外対応の在り方をめぐる議論は活発化していますが、「つながらない権利」に関するガイドライン策定は、今のところは検討段階にとどまっています。

一方で、勤務時間外や休日の社内・社外連絡に関するルールを明文化し、就業規則やガイドラインとして運用している企業も存在します。

こうした動きを踏まえると、『制度化されてから対応する』のではなく、早い段階からルール整備や対応方針の検討を進めておくことが、リスク管理の観点からも重要です。

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「つながらない権利」が必要とされる背景

テレワークの普及やスマートフォン、ビジネスチャットツールといったICT(情報通信技術)の浸透により、勤務時間外であっても仕事につながってしまう状態が、多くの企業で常態化しています。

場所や時間に縛られず働ける利便性が高まった一方で、その境界線は以前よりも曖昧になりました。

その結果、

「勤務時間外なのにメールや電話が来るため、対応しないといけない」
「休日であっても、返信しなければならない空気感がある」

といった状況が生まれ、実質的な長時間労働や従業員の心身の負担につながっています。

とくに問題なのが、勤務時間外の対応が正式な労働時間として把握されにくい点です。
本人の自主的な対応と見なされ、結果として疲労やストレスが蓄積しやすい構造が生まれています。

近年では、勤務時間外の連絡がストレスや離職の一因となるという認識が広がりつつあり、単なる個人の問題ではなく、企業が管理すべき労務課題として捉えられるようになってきました。

「つながらない権利」は、労働者の健康維持や過重労働の防止、さらにはハラスメント防止の観点からも必要とされているのです。

労基法改正を見据えて企業が取るべき3つの対応

労基法改正の動きを踏まえると、「つながらない権利」は理念として理解するだけでなく、人事・労務担当者としてどのように備えるかが重要になります。

ここからは、制度化の有無にかかわらず、企業が今の段階から取り組んでおくべき3つの具体的な対応を解説します。

勤務時間外の連絡ルールを明確化

まず企業が取り組むべき対応として、勤務時間外・休日の業務連絡に関するルールを明文化することが挙げられます。

「つながらない権利」は、従業員個人の意識に委ねるものではなく、企業としての方針と運用ルールを明確に示すことが前提となります。

具体的には、

  • 勤務時間外や休日のメール・チャットは原則として送らないこと

  • やむを得ず連絡が必要な場合の「緊急時」の判断基準

  • 電話や特定の連絡手段を用いる場合のルール

  • 休日や深夜帯など、返信を求めない時間帯の設定

といった点を整理し、就業規則や社内ガイドラインとして明示・周知しておくことが重要です。

曖昧な運用のままでは、『返信しないと評価に影響するのではないか』『自分だけ対応しないのは気が引ける』といったプレッシャーが生じ、結果として無意識の長時間労働につながりかねません。

また、連絡ルールは社内向けだけで完結するものではありません。

顧客や取引先からの問い合わせ対応が勤務時間外に発生する場合、社内ルールを定めていても、実務上は対応せざるを得ないケースが残ってしまいます。

そのため、夜間・休日の問い合わせ対応の可否や対応時間の明示、自動返信の活用など、社外との連絡を含めたルールまで視野に入れて設計する必要があります。

意識改革とマネジメント体制の見直し

勤務時間外の連絡ルールを整備しても、現場の管理職の理解と行動が伴わなければ、制度は形骸化してしまいます。

「つながらない権利」は、単なるルール変更ではなく、労務管理・メンタルヘルス・従業員の生産性に直結するマネジメント課題であるという認識を、組織全体で共有することが不可欠です。

とくに重要なのが、管理職層への教育と意識改革です。

悪意がなくても、『今すぐ返してほしい』といった無意識の連絡が、部下にとっては強いプレッシャーとなり、実質的な時間外労働を生み出しているケースは少なくありません。

また、勤務時間外に業務指示や依頼を送ること自体が、部下の私生活を圧迫しているかもしれないという視点も欠かせません。

『断りづらい』『評価に影響しそう』と感じさせる関係性の中では、形式上は任意であっても、事実上の強制と受け取られる可能性があります。

そのため、

  • 勤務時間外連絡がもたらす労務リスク

  • メンタルヘルス不調や離職との関係性

  • 過重労働やハラスメントにつながる可能性

といった点を、研修やマネジメント教育を通じて具体的に伝えていくことが求められます。

あわせて、時間外に連絡せざるを得ない状況が常態化している場合、個々の行動の問題ではなく、業務設計や人員配置、目標設定に無理が生じている可能性があります。

連絡ルールの整備や意識改革だけでなく、業務量そのものが適正かどうかを見直す視点も重要です。

ITツールの活用と仕組みの整備

勤務時間外の連絡ルールを定め、管理職や現場の意識改革を進めたとしても、人の判断や配慮だけに依存した運用には限界があります。

「つながらない権利」を実効性のあるものにするためにも、ITツールの活用や仕組みの面からの対応も検討しましょう。

たとえば、

  • チャットツールの送信時間制限や予約送信機能の活用

  • 通知機能のON・OFF設定で、勤務時間外の過剰な通知を防止

  • 長期休暇中のメール受信拒否設定/自動返信システムの導入

など、日常的に使用しているITツール自体に制限や工夫を加えることで、無意識の連絡を防いだり、従業員個人の心理的負担を軽減することが可能です。

また、「つながらない権利」に関するルールは、社内に周知するだけではなく、顧客や取引先に対しても、対応時間や連絡方法を明示し、理解を得る必要があります。

チャットボットやFAQシステムを導入し、夜間や休日の問い合わせを自動対応に切り替えることで、担当者個人につながらなくても業務が滞らない体制を構築することも可能です。

ITツールの活用や仕組み化は、「連絡してはいけない」という制限を強めるためのものではなく、業務フローの属人化を脱却し、個人に依存しなくても回る組織を実現するための手段といえます。

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勤務時間外でも連絡が取れてしまう・仕事ができてしまう現代の職場環境では、理不尽な長時間労働を生みやすく、結果としてパワハラやメンタルヘルスの不調につながるリスクが高まります。

欧州ではすでに「つながらない権利」が法制化され、日本でも同様の議論が活発化している今、仮に法改正が行われた場合、勤務時間外連絡のルール整備やマネジメントの見直しは、短期間で対応を迫られる可能性があるでしょう。

そのためには、連絡ルールや仕組みを考える前に、現状を正しく把握しておくことが欠かせません。

日常的なコミュニケーションに加えて、1on1ミーティングを実施することで、

  • 業務量が過剰になっていないか

  • 無意識に時間外対応を前提とした働き方になっていないか

  • 部下が言い出しにくい不安や負荷を抱えていないか

など、従業員一人ひとりの状況を早期に・継続的に把握することができます。

慣れ親しんだExcelの評価シートをそのままシステム化できる人事評価システム「P-TH/P-TH+(ピース/ピースプラス)」は、評価や目標管理だけでなく、上司と部下の対話を可視化・定着させる『1on1機能』を標準装備しています。

1on1ミーティングの記録や議題の事前共有、次回までのアクション整理(宿題事項)をすべてシステム上で一元管理することが可能です。

「つながらない権利」への対応は、単なるルール整備ではなく、人と組織の関係性を見直し、良好な関係を構築する取り組みでもあります。

P-TH/P-TH+は、制度対応の土台となる「対話」と「現状把握」を支援し、良好な人間関係と健全な働き方の実現を後押しするツールとしておすすめです。

まとめ

「つながらない権利」は、日本では明確に法制化されてはいませんが、長時間労働の是正や勤務時間外連絡の在り方が見直される今、人事・労務管理において避けて通れないテーマとなっています。

制度化されるかどうかを待つのではなく、現時点から備えておくことが、労務リスクの低減や従業員の持続可能な働き方の実現につながります。

そのためにも、勤務時間外の連絡ルールを明確にし、管理職を含めた意識改革を進めると同時に、ITツールや仕組みを活用して組織体制を再構築していくことが重要です。

「つながらない権利」への対応は、従業員を守るためだけの取り組みではなく、企業の生産性や信頼性を高めるための経営課題として、今後ますます問われていくでしょう。

株式会社サクセスボード 萱野 聡<< コラム監修 >>
株式会社サクセスボード 萱野 聡
日本通運株式会社、SAPジャパンで採用・教育を中心とした人事業務全般に幅広く従事。人事コンサルタントとして独立後、採用コンサルタント、研修講師、キャリア・アドバイザーとして活躍中。 米国CCE Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー、産業カウンセラー。
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