近年、企業の生産性を向上させるための手段としてリモートワークの導入が広がっています。しかし、リモートワークを導入したからといって、必ずしも生産性を向上できるというわけではありません。本記事では、リモートワークで生産性が上がらない原因や、生産性を上げるためのポイントなどを解説しています。
リモートワークと生産性
企業の生産性を高めるための手段として、近年リモートワークの導入が進められています。
生産性の向上はリモートワークのメリットのひとつ
自宅やカフェなど、好きな場所で自由に業務を行うリモートワークには様々なメリットが期待できます。そのうちの一つが生産性の向上です。
オフィス勤務では、同僚に話しかけられたり電話がかかってきたりなど、作業中に手を止めなければならないことも多く、何かと集中できないものです。それに対し、リモートワークでは誰にも邪魔されることなく、自分のペースで仕事に取り組めるため、無駄な時間を減らし、集中力をキープしながら業務を遂行できます。
また、毎日の出勤が不要になれば、通勤にかかっていた時間やストレスを削減することにもつながります。特に首都圏では通勤に片道2時間近くかかることも少なくありません。その点、リモートワークなら通勤時間がゼロです。その分の時間を業務に充てることもでき、満員電車に乗る精神的および肉体的なストレスも軽減できるでしょう。
リモートワークと生産性の関係は、データでも見られます。例えば、総務省が2018年に発表した「平成29年通信利用動向調査」によると、リモートワークを導入している企業の労働生産性が1社あたり877万円なのに対し、リモートワークを導入していない企業では611万円と約270万円もの差がありました。
【参照】
「総務省:第三章 ICTによる生産性向上と組織改革p.106」
【参照】
「総務省:図表3-1-2-4 テレワークの導入と労働生産性の関係(推移)」
また、総務省が2020年に発表した「令和元年通信利用動向調査」によると、生産性を向上させるためにリモートワークを導入した企業のうち、61.3% が「ある程度効果があった」、25.9%が「非常に効果があった」と回答しています。
【参照】
「総務省:報道資料 令和元年通信利用動向調査ポイント 図4-5 テレワークの効果 p.21」
ただし必ずしも生産性が向上するとは限らない
一度はリモートワークを導入したものの、思うように生産性向上に結びつかず、リモートワークを廃止した企業もあります。Yahoo!やIBMなどがその代表例です。
インターネット大手のYahoo!では、一時は在宅勤務制度を導入していましたが、コミュニケーション不足、仕事の質やスピードの低下、勤務管理のずさんさなどを理由に2013年、在宅勤務で働く全ての従業員をオフィス勤務に戻しています。
一方のIT大手IBMは、1990年代からリモートワークを導入していたリモートワーク先進企業です。しかし2017年、リモートワーク社員に対して、出勤と退職のいずれかを選択するよう要求したことで話題となりました。
その主な理由としては、リモートワーク中の社員同士が協力関係を構築することの難しさや、社員が実際に顔を合わせて会話することで生まれるアイデアの機会喪失などを挙げています。
こうした大手企業の事例からも分かるように、リモートワークを導入したからといって必ずしも生産性が向上するとは限らないようです。
リモートワークで生産性が上がらない要因
生産性の向上はリモートワークのメリットの一つではありますが、必ずしもその恩恵を享受できるわけではなく、場合によって生産性を低下させてしまうこともあります。ここでは、リモートワークで生産性が上がらない要因を詳しく解説していきます。
コミュニケーションに関する要因
大きな原因の一つが、気軽なコミュニケーションの難しさです。社員同士が離れた場所で働くとなると、当然リアルタイムでのやり取りが困難になります。
チャットなどのコミュニケーションツールを使えば連絡は取り合えますが、その場合でも業務報告が中心です。仕事に手こずっている社員に声をかけたり、同僚や後輩を褒めたりといった機会は減ります。さらに、同僚の作業の邪魔にならないよう、連絡のタイミングや頻度にも気を遣うため、困りごとなどを共有しやすい環境とは言えません。
また、チャットやメールといったテキストによるやり取りだけでは細かいニュアンスが伝わりにくく、メッセージの受け手が本来の意図とは違った意味合いで解釈することも考えられます。
既存の社員同士でさえリモートワーク中のコミュニケーションには不便を覚えるわけですから、新入社員や入社間もない中途社員にとってはなおさらです。他の社員と良好な信頼関係を築けず、疎外感や孤立感を深めていけば、結果として業務に与える悪影響だけでなく、本人の離職につながる恐れもあります。
仕事環境に関する要因
リモートワークになれば、当然ですが仕事場の環境が変わります。セキュリティ対策によって社外から社内のシステムやデータにアクセスできない、書類承認のために出社を余儀なくされるといった問題は、リモートワークの生産性を妨げる要因の一つです。
また、幼い子供がいる家庭であれば、子供の面倒を見ながら仕事を進めなければならないため、オフィス勤務と比べて集中できるスペースや時間を確保するのは容易ではありません。
仕事に必要な備品やネット環境が整っていないことも生産性が上がらない原因の一つです。仕事用のデスクや椅子、プリンター、モニター、ネット回線などが自宅に揃っていなければ、ストレスが募る一方でリモートワークによる効果はあまり期待できないでしょう。
業務管理に関する要因
リモートワークの導入にあたり、会社側にとっては社員の業務管理が大きな課題です。オフィス勤務のようには社員の出退勤を管理できないため、リモートワークを行う社員一人ひとりが自分でスケジュールを管理しなければなりません。
社員は同僚や上司など周囲の人間の目がなくなる分、オンオフの切り替えがしづらくなるかもしれません。特に自己管理が苦手な人は、リモートワークでかえって生産性が悪化する場合もあります。
プライベートと仕事の境目が曖昧になることで想定されるのが、長時間労働のリスクです。中には日中の働きぶりが見えないことから、テレワーク社員に残業を認めないケースもあります。しかし、定時までに仕事が終わらなければ、残業や休日勤務でカバーしなければならないのはリモートワークでも同じことです。
リモートワークで働く社員は仕事ぶりを成果で示そうとするため、オフィス勤務をしていた時よりも長時間労働に陥りやすくなる可能性があります。
リモートワークで生産性を上げるためのポイント
リモートワークで生産性を上げるためには、どのような点に気を付ければよいのでしょうか。
コミュニケーションの工夫
リモートワークで業務に関わる情報をスムーズに共有したり、チームワークを高めたりする上では、コミュニケーションの仕組みづくりが欠かせません。その際に有効なのがコミュニケーションツールの導入です。
コミュニケーションツールとは、意思疎通や情報伝達に利用されるツールを指します。従来は電話やメールが主流でしたが、近年ではチャットや社内SNSが使われるようになってきています。
チャットや社内SNSでは、「いつもお世話になっております」のような慣習的な定形文を書く必要がなく、LINEのように気軽なメッセージを送ることが可能です。また、一対一のチャットだけでなく、プロジェクトや部署ごとに関連する人を招待してグループチャットを作ることもできます。
多くのコミュニケーションツールは、ビデオ通話やWeb会議の機能も備えていることがほとんどです。テキストメッセージで伝えきれないことは、顔を合わせて口頭で説明することもできます。
Web会議機能を使えば、オンライン飲み会やオンラインランチのようなイベントを開くことも可能です。
このように業務報告の場だけでなく定期的な雑談の機会も用意し、リモートワーク中の社員が疎外感に悩む状況を作らないことも重要になってくるでしょう。
仕事のルール整備
リモートワークでは、ITツールを活用しながら運用ルールを構築していく必要があります。
まず取り入れたいのが勤怠管理ツールです。社員の勤務態度を確認できないリモートワークでは、性質上どうしても成果主義に偏りやすくなります。その一方、成果を出せない社員が精神的に追い込まれて体調を壊すことも考えられます。
そうした問題に対処するためには、勤怠管理ツールを活用し、出退勤の時間や残業時間、社員の位置情報などを把握しておくことが不可欠です。
また、情報共有や業務報告の方法も見直さなければなりません。リモートワーク下では、業務の進捗状況や案件ごとの担当者を把握しづらいという性質があります。必要な情報が共有されていない状態は、対応の重複や業務の遅れ、ミスの見逃しといったトラブルに繋がりかねません。
こうした問題の解決にもコミュニケーションツールが有効です。定期的にテレビ会議を行なって業務報告の場を設けるだけでなく、社員一人ひとりに対し、チャットなどで積極的に進捗状況を報告させることも必要になるでしょう。
評価制度の適正化
評価制度の適正化は、社員の意欲を維持する上で最も重要になるポイントです。
リモートワークという新しい仕組みに移行する以上、新しい評価制度を採り入れたほうが良い場合もあります。
リモートワークでは上司が社員の勤務態度をなかなか把握できません。リモートワークによる労働の正しい評価が行われないと、かえって社員のモチベーションが低下し、生産性が向上しない恐れがあります。せっかく新しい働き方を取り入れたのに、生産性向上どころか全体の士気が下がってしまっては大変です。
会社がリモートワーク社員の仕事ぶりをきちんと評価するためには、社員一人ひとりの業務内容を把握し、事前に目標を設定しておく必要があります。目標を達成できていれば、昇級や昇進を実行する仕組み作りも必要です。
また、社員の業務スケジュールを把握するとともに、社員には業務の進捗状況を報告してもらうようにすると、社員の仕事ぶりも可視化しやすくなるでしょう。
最近ではIT企業を中心として、1日〇時間労働、という考えは変化してきています。そのため労働時間を基準とした評価の仕組みも再検討する必要があるかもしれません。リモートワークの特性をよく理解し、それを評価方法に反映させることは、リモートワークで生産性を高めるために効果的な手段と言えます。
リモートワークの生産性向上にはツール・システム選びも重要
前述してきた通り、リモートワークで生産性を向上させるためには、勤怠管理システムやコミュニケーションツールの活用が欠かせません。
ただし、これらのシステムやツールには様々な種類があります。対象となる社員規模や機能、利用料金などに幅があるため、自社に適したものを選ぶことが重要です。
リモートワークの導入に伴い、人事評価制度の見直しを検討しているのであれば、人事評価システム「P-TH(ピース)/P-TH+(ピースプラス)」がおすすめです。
P-TH/P-TH+では、既存の評価制度と評価シートをそのまま活用できます。Excelの評価シートをアップロードするだけで自社の人事評価制度をシステム化できるため、導入にあたって余計な手間や時間もかかりません。
P-TH/P-TH+の詳細については、以下のサイトから無料で資料をダウンロードできます。評価制度の見える化を考えている企業の方は、活用を検討してみてはいかがでしょうか。
【参照】「人事評価システムP-TH/P-TH+ExcelとWebで実現する人事評価システム」
まとめ
リモートワークで生産性が上がらない主な原因としては、コミュニケーション不足や不十分な仕事環境、業務管理の難しさなどが挙げられます。こうした課題を解決するためには、スムーズにコミュニケーションが取れる仕組みの整備や業務プロセスの整備、評価制度の適正化などが欠かせません。
それらはコミュニケーションツールや勤怠管理システム、業務管理システム、人事評価システムといったITの力なしには実現できないものです。そのため、リモートワークの導入と必要なツールおよびシステムの導入はセットで考えなければなりません。
これらのツールやシステムには様々な種類があるため、実際に導入を検討する際は自社の規模や目的に応じて適切なものを見極めることが重要です。
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