昨今、経営戦略として従業員の健康増進に取り組む「健康経営」に注目が高まっています。健康経営に取り組み、健康経営優良法人として「ホワイト500」や「ブライト500」に認定されれば、自社のブランドイメージを大きく上げることも可能です。
健康経営とは
健康経営とは、経営的な観点から従業員の健康管理に戦略的に取り組む、経営手法を指します。健康経営の目的は、健康増進を通して従業員の生産性や定着率などを向上させ、結果として組織全体の活性化や業績向上を実現することです。
健康経営が注目されている背景
日本の労働市場は、若年層の減少によって生産年齢人口が急速に減少しつつあります。今後、多くの企業が人手不足に陥り、事業継続が困難になっていくことが予想されます。また、高齢化の進展に伴い、国民医療費や社会保険料負担は増加し続けており、これが国や企業にとって大きな財政負担となっているのも問題です。
健康経営は、これらの課題に対処するための一方法として注目されています。従業員の健康増進を図れば、傷病による離職や休職を減らしたり、一人ひとりのパフォーマンスが改善されたりする効果が期待できます。さらに健康管理を強化することで、疾病の予防や早期発見を実現し、社会保険料を抑制する効果も見込めます。近年では国内企業でもダイバーシティ(多様性)が進められ、特有の健康問題を抱える労働者も増えており、その点でも健康経営は重要性を増しています。
健康経営優良法人認定制度とは
健康経営優良法人認定制度とは、特に優れた健康経営を実践している法人を顕彰する制度です。健康経営に取り組む優れた法人を「見える化」することで、社会的に評価を受けられる環境を整備する目的で、日本健康会議によって設立されました。
本制度は、企業の規模に応じて「大規模法人部門」と「中小規模法人部門」に分かれています。そして毎年、大規模法人部門において優れた成果が認められた上位500社には「ホワイト500」の称号が与えられ、中小規模法人部門の上位500社には「ブライト500」の称号が与えられます。選ばれた企業は、企業価値の向上が見込めるだけでなく、国や自治体、金融機関から優遇措置を受けられるなどのメリットがあります。
健康経営に企業が取り組むメリット
健康経営に取り組むことで、企業は従業員の健康を守るだけでなく、職場全体のパフォーマンスを高め、業績向上につなげることが可能です。
生産性が上がり、業績が上がる可能性がある
従業員の健康状態は生産性に直結します。病気にかかったり、疲労が蓄積したりしていると、仕事に必要な集中力を維持できず、作業効率の低下やヒューマンエラーの増加などの問題が生じやすくなります。このような出勤こそしているものの、不調を抱えて十分なパフォーマンスを発揮できない状態を「プレゼンティーイズム」と言います。
健康経営に取り組むことは、このプレゼンティーイズムを改善するために有効です。従業員が心身ともに健康な状態で働けるようになれば、業務効率や作業品質が上がり、結果として会社全体の業績向上につながる可能性があります。
離職率の低下から採用コストが下げられる
心身ともに健康に働ける環境は、従業員にとっては当然喜ばしいものです。そのため、従業員の離職率の低下も期待できます。実際、経済産業省が公表した資料※1によると、「健康経営優良法人2023」に認定された法人の平均離職率は4.6%で、これは2021年の全国平均11.1%の半分以下です。また、同資料によると就活生および転職者に対して実施したアンケート調査において実に60.4%が、「健康経営に取り組んでいることが就職先を決める際の決め手になる」と回答しています。これらのデータからもわかるように、健康経営に取り組むことで離職率の低下や求職者への訴求効果が期待でき、採用コストの削減にもつながります。
(※1 参照元:経済産業省「健康経営の推進について」56~57ページ)
企業イメージが良くなる
人的資本経営やESGなどが注目される現在、健康経営に取り組んでいることは株主や投資家からの信頼につながります。また、前段で述べた通り、健康経営に注力する企業は、求職者からも「働きやすい企業」として評価されるので、優秀な人材をひきつけやすいのもメリットです。優良企業というイメージが社会に浸透すれば、取引先や消費者からの信頼も高まり、ビジネスの長期的な成長を促進できます。
健康経営に企業が取り組む際のポイント
健康経営の効果を最大化するためには、以下のポイントを意識することが大切です。
不公平さがないように取り組んでいく
健康経営に取り組む際に陥りがちなのが、喫煙者や肥満体質の従業員など、特定の従業員にのみ支援を集中させてしまうことです。しかし、特定の従業員だけを支援するのは、従業員間に不公平感を生じさせるおそれがあります。
また、不健康な状態の従業員を健康な状態にするだけでなく、健康な従業員の健康を維持することも大切です。そのため、健康経営に取り組む際は、全ての従業員が平等に健康経営の恩恵を受けられるように配慮し、組織全体の健康レベルを底上げすることを心がけましょう。
長期的な目線で取り組んでいく
従業員の健康状態を改善し、その効果が労働生産性などのパフォーマンスに反映されるまでにはそれなりの時間が必要です。健康管理の成果は数値で捉えにくいことが多いため、費用対効果を慎重に評価しながら、継続的な改善を行っていくことが求められます。いきなり大規模な改革を行うのではなく、まずは低コストで始められる施策からスタートし、徐々に取り組みを拡大していくのがおすすめです。
社員情報を適切に管理する
従業員の健康情報を適切に管理し、健康経営に活用することは、効果的な健康経営を実施するうえで不可欠です。特に、健康状態に問題がある従業員に対しては、適切なサポートを行いながら、業務負担の調整などの措置を講じることが重要です。ただし、健康情報は従業員の重要な個人情報であるため、適切に管理できるシステムを導入するなど、その扱いには慎重さが求められます。例えば、人事評価システム「P-TH/P-TH+」は人事評価データだけでなく、従業員情報も安全に管理できるため、健康経営に役立てることが可能です。
社員の健康度に合わせた目標管理と評価を行う
当然ながら、従業員の健康度は一律ではありません。そのため、従業員の健康管理を行う際は、従業員一人ひとりの健康状態に応じて、適切な目標設定と評価を行うことが重要です。例えば、高齢者、妊婦、病人など、100%のパフォーマンスを期待できない状況にある従業員に対しては、それに見合った現実的な目標を設定し、適切に評価する必要があります。
このような健康状態に応じた柔軟なマネジメントを実現するためにも、人事評価システムは重要です。人事評価システム「P-TH/P-TH+」では、従業員情報の可視化や評価データの分析ができ、社員の健康度に応じた目標設定や評価を適切に行えます。これにより、従業員の健康を考慮した公正な評価が実現可能です。
まとめ
健康経営は単に従業員の健康を守るだけでなく、企業全体のパフォーマンス向上や持続可能な成長につながる重要な戦略です。少子高齢化やダイバーシティが社会全体で進む中、これからは従業員の健康状態も多種多様になっていくことが予想されます。そのため、従業員一人ひとりのパフォーマンスを最大化するには、個々の健康状態を考慮したうえで健康管理に取り組んでいくことが大切です。
<< コラム監修 >>
株式会社サクセスボード 萱野 聡
日本通運株式会社、SAPジャパンで採用・教育を中心とした人事業務全般に幅広く従事。人事コンサルタントとして独立後、採用コンサルタント、研修講師、キャリア・アドバイザーとして活躍中。 米国CCE Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー、産業カウンセラー。
- カテゴリ:
- 人事部門向け