終身雇用制度の崩壊や非正規従業員の増加、あるいは新型コロナウイルスの影響を受けたテレワークの普及などにより、日本では成果主義の導入を検討する企業が増えています。そこで本記事では、成果主義の基本的な特徴やメリット・デメリット、導入におけるポイントなどを解説します。
成果主義とは?
「成果主義」とは、仕事の業務遂行の過程と結果に応じて昇給や昇進などの待遇を決定する仕組みをいいます。成果主義において重視されるのは、勤続年数や年齢などよりも、会社への具体的な貢献度です。成果主義を導入する会社では、生え抜きで何十年も頑張ってきた従業員よりも、中途入社した新人のほうが先に昇格するといったことも起こり得ます。
また、コロナ禍に伴いテレワークを導入した企業においても、成果主義は有効な人事評価方法のひとつとして注目を集めています。というのも、従業員が各々自宅などから業務を行うテレワークでは、従来のように従業員の勤務態度や業務過程を上司が逐一チェックすることが難しいからです。その点、成果主義ではプロセスだけでなくその結果も基準として従業員の評価を行うため、テレワークによる影響を受けにくいと捉えられています。
なぜ今、成果主義が注目されるのか
欧米に比べたらまだまだですが、それでも成果主義を導入する日本企業はかつてより大幅に増えています。もともと成果主義が注目され導入され始めたのは、バブル経済が弾けた1990年代に入ってからです。
公益財団法人 日本生産性本部が2019年に発表した「第16回 日本的雇用・人事の変容に関する調査結果」では、調査年ごとの賃金制度(体型)の導入状況の推移を以下の図のように報告しています。
(画像出典:公益財団法人 日本生産性本部「第16回日本的雇用・人事の変容に関する調査結果」 p.9)
年功序列制度では年齢が高い・勤続年数が長い従業員ほど安定した収入が約束されます。一方で企業にとっては年長者が増えれば増えるほど支払う給与が上がり、人件費が莫大になっていきます。年長者で成果を上げていない社員がいたとしても、給与を下げるわけにはいきません。
かさむ人件費を削減するための方法の一つとして、成果主義を導入する企業が増えてきているのが現在の状況です。
また、契約従業員や派遣従業員の増加など、雇用制度が多様化したことも成果主義を重視する流れに拍車をかけました。契約従業員や派遣従業員は基本的に更新制の契約となるため、短期間で離職する人も多数出ます。つまり、「1つの会社に正規従業員として雇用され、長期間働き続ける」ことを前提とした年功序列制度の根幹が、今日ではなかなか通用しづらくなってきているのです。
さらに、政府が推し進めている「働き方改革」も成果主義を加速させています。働き方改革では長時間労働の是正・長時間労働削減に向けた取組が実施されています。しかし企業にとって、業績を維持しつつ長時間労働をなくしていくには、時間当たりの生産量ないしは労働成果を上げていくほかありません。
この点でもやはり、成果主義は今の時代にマッチしているといえるでしょう。ここに加えて、すでに触れたように、新型コロナウイルスの感染予防対策の一環としてテレワーク導入が普及したことで今日の状況が生じているのです。
成果主義のメリット
成果主義を導入することは、企業にとって次のようなメリットがあります。
明確な評価でモチベーションがアップ
成果主義は業務の結果や、その結果に至るまでのプロセスを評価してもらえるため、従業員のモチベーションアップにつながる点がメリットです。
年功序列制度では給与アップがその人の能力や成果に見合っているかどうかはわかりません。
その点成果主義は、年齢や勤続年数に左右されることなく、成果を上げれば上げるほど認められ収入アップにもつながります。優秀な人材ほど励みになるでしょう。
人件費やコストの削減
成果主義には、人員コストを削減できるという効果もあります。成果主義では個々の従業員に対し、その業績に応じた報酬が支払われます。成果主義を導入すれば、高い成果を上げられない社員に対して高い給与を支払う負担を減らすことができます。
業務が効率化されて生産性がアップ
成果主義を導入することで、職場には成果にコミットした働き方が自然と浸透するため、働き方が効率化されて生産性の向上につながります。仕事への姿勢や協調性ばかりが重視されると、上司に合わせて不要な残業をする従業員が出るなど、仕事や人件費に無駄が発生してしまう恐れもあるでしょう。
その点成果主義なら、「成果に伴う仕事をしよう」という共通認識が社内に浸透するため、従業員は業務の本質から逸れることなく、仕事に専念できます。
成果主義のデメリット
このようなメリットを有する成果主義ですが、以下のようなデメリットもあるため、運用の際は注意が必要です。
職種によって評価基準を数値化するのが難しい
成果主義は、数字で成果を示せる職種に対して特に有効な評価方法ですが、企業の中には人事部や総務経理、営業支援など、評価基準を数字として可視化しにくい部署もあります。また、長期間の開発や研究など経てはじめて成果が現れる仕事の場合、途中段階ではっきりとした成果を認められないケースもあります。
チームワークが育たず、従業員が個人主義に走ってしまう可能性がある
成果主義は、従業員間の競争心を刺激しやすい性質ゆえ、自分の成果を上げるために個人主義に走ってしまう恐れがあります。チームワークが必要な業務の場合は弊害が出たり、場合によっては足を引っ張り合ったり、業績アップにつながらない仕事を軽視したりなど、職場の雰囲気が悪化することも起こり得ます。
従業員の定着率が悪化する恐れがある
成果主義では有能な人ほど高く評価される反面、思うように成果を上げられない従業員や、職種上評価されにくいと感じる従業員は会社での居場所を失いやすく、状況によっては離職してしまう懸念もあります。
成果主義の評価制度導入で失敗しないためのポイント
成果主義の導入で失敗しないためには、どのようなポイントが挙げられるでしょうか。以下では、成果主義のメリットを最大化する、あるいは成果主義のデメリットを緩和するポイントについて解説します。
評価基準の明確化と共有
成果主義に限った話ではありませんが、人事評価制度を導入する際は、自社での評価基準を明確化し共有することが大切です。とりわけ重要となるのが、「評価者によって偏った評価にならないこと」「被評価者が納得できる基準であること」です。
先述したように、企業には成果主義で評価しやすい部署と、そうでない部署が存在します。また役職によっても、そこで求められる成果の内容は異なるでしょう。そのため、成果主義による評価基準を策定する際は、部署や役職ごとに評価の仕組みを変えた制度で評価の細分化を図り、できるかぎり公平・公正な評価体制を整備する必要があります。
評価者のマネジメント能力の育成
評価基準が明確化できたら、ルールに従って正しく従業員の業務を評価できる人材を育成することも重要です。成果主義は、従業員の実績をメイン軸に評価を行うものです。しかし、評価者がその原則を理解していないと、同じ成果でも評価者によって評価基準にばらつきが生じかねません。人事評価の機能不全が常態化すれば、従業員は「頑張っても認められない」と感じ、モチベーションが下がってしまう可能性も考えられます。成果主義を新たに導入したり、従業員を評価する側の管理職に昇進させたりする際は、適切な社内研修などを実施することをおすすめします。
賃金制度の整備と可視化
成果主義の大きな特長の1つとして、従業員の評価と報酬を連動させやすいことが挙げられます。その特性を活かすために、成果主義を導入する際は成果に応じた賃金制度を整備することが大切です。
成果を上げるほど高い賃金が得られることは、従業員のモチベーションを大いに喚起することでしょう。ただし、賃金制度の変更は、従業員の生活によくも悪くも多大な影響を与えます。万一にも、成果を上げられなかった従業員が生活に窮するような事態にならないよう、慎重に検討しましょう。
成果とプロセスをセットにして評価
成果だけでなくプロセスも評価することが成果主義の考え方です。
「企業」「チーム」「個人」の目標をリンクさせて、その目標達成状況を人事評価に反映させる方法もありますが、注意点もあります。
目標達成できなければ評価が下がるからと、簡単に達成できるような目標を設定してしまったり、プロセスを公開しては自分の成果を上げる強みを無くしてしまうから、と行きすぎた成果主義に走ってしまい、導入に失敗した事例も存在します。
成果主義の導入が従業員個々人のスキルアップだけでなく、会社全体の業績アップにもつながることを評価する側もされる側も念頭に置くことが、成果主義を浸透させるポイントになります。
まとめ
成果主義の導入にあたっては、従業員の成果を数値などによって可視化し、従業員が納得しやすい公平・公正な評価体制を築くことが大切です。AJS株式会社が提供する「人事評価システムP-TH/P-TH+」は、エクセルで運用している人事評価を、システムを変えることなく可視化することができるITソリューションです。人事評価システムの見直しを図っている企業の方は、ぜひ導入をご検討ください。
- カテゴリ:
- 人事評価
- キーワード:
- 評価制度