成果だけではなく、成果を生み出すためのプロセスを重視した人事考課方法として「行動評価」という方法があります。本記事では、人事考課における「行動評価」について、好成績者の行動特性をモデル化して用いる「コンピテンシー評価」と関連付けながら解説します。
行動評価は「成果」ではなく「業務プロセス」を評価するもの
人事評価の仕方は大きく、成果を評価する方向と、成果を生み出すまでの業務プロセスを評価する方向の2通りが考えられます。行動評価は、後者のように業務プロセスを重視する人事評価方法の一種で、従業員が仕事で成果を出すためにどのような行動を行なったか、その行動を評価の対象とする方法です。
プロセス評価の代表例としては「能力評価」が挙げられますが、能力評価の場合、「該当の従業員が業務遂行のために役立つ知識やスキルをどの程度保有しているか・あるいはそれをどの程度発揮できたか」が評価対象になります。
しかし、行動評価の場合は、例えば「取引先にひと月何回足を運んだか」など具体的な行動そのものを評価基準にするので、より実際的に従業員を評価することが可能です。
正確かつ妥当な行動評価を行う上で重要な「コンピテンシー」とは?
前項で述べた通り、行動評価においては従業員の行動プロセスを評価対象とします。しかし、客観的ないしは標準的に従業員の行動評価をするには、「どのような行動が業務において有益で、どのような行動が無益ないしは有害なものなのか」という基準が、事前に設定されなければなりません。
では、この行動評価の基準、すなわち目標とすべき行動特性モデルは何を参考に設定したらいいのでしょうか。この問いの答えになるのが、「コンピテンシー」ないしは「コンピテンシー評価」と言われる概念です。
コンピテンシーとは、特定の仕事を成功させたり、効率的に行ったりするための行動特性を指します。コンピテンシーモデルは、各企業・各職種によって異なるため、主に自社のハイパフォーマー(好成績者)を参考に作成されます。あるいは、理念的な行動特性モデルを作ることや、理念的モデルを実在のハイパフォーマーたちを合成して、自社独自のコンピテンシーモデルを規定することもあるでしょう。
いずれにせよ、コンピテンシー評価とは、「このように行動すれば成功を収めやすい」という行動特性モデルを設計し、各従業員がそのモデルをどのくらい実践できているかを基準に評価するものです。コンピテンシーを分析・モデル化して、チーム全体ないしは企業全体で遵守することによって、組織全体のパフォーマンスの底上げを図れます。
なお、コンピテンシーモデルは、すべての従業員に適用できるような一般的なものと、組織内の特定の役割に特化したものとに分けて考えることが可能です。
コンピテンシーは元々、主にアメリカで活用されていた人事評価方法ですが、1990年代には日本でも導入する企業が出始めて、2000年代には大企業をメインに導入する企業が増えました。例えば、1990年代後半にはソニーが、2000年初めにはJTBがそれぞれコンピテンシー評価を取り入れています。
企業が人事考課に行動評価項目を取り入れるメリット
行動評価ないしはコンピテンシー評価を取り入れることによって、企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか。以下ではこれらを導入する3つのメリットをピックアップして解説していきます。
従業員側の不満を払拭できる
行動評価ないしはコンピテンシー評価は、人事評価制度に対する従業員の不満を払拭することに寄与します。人事評価においては、「自分で思う自己評価と、実際に下される評価のギャップ」や、評価基準の不透明さから来る不信感などから、従業員はしばしば制度に対して不満を持ちがちです。とりわけプロセス評価は成果評価に比べて評価基準が曖昧になることが多いので、評価の公平性や評価基準の適切性については不満を持たれやすいでしょう。
しかし、行動評価はプロセス評価の中でも実際にためされた行動を対象とするものなので評価も具体的にしやすく、被評価者も「自分にはどのような行動が足りないのか」と具体的に課題をイメージできるので納得感を得やすいのです。しかも、コンピテンシー評価の場合の評価基準は、現実に成果を出している人物をモデリングしたものであることが多いので、従業員もどう言った人物像を求められているのかがイメージしやすく、前向きに捉えやすいというメリットがあります。
人事評価に対する不信感の払拭や、コンピテンシー評価による好成績の達成がなされれば、自社へのエンゲージメントの改善から来る離職率の低下や、業務へのモチベーションの向上も期待できるでしょう。
公正かつ効率的な人事評価が可能になる
上記の内容と関連して、公正かつ効率的な人事評価が可能になるというのもコンピテンシー評価の大きなメリットです。コンピテンシー評価においては、ハイパフォーマーの有益な行動特性を項目化して評価シートを作っていきます。それゆえ、評価のための明確な基準が設定しやすく、評価者の意識的・無意識的な主観がバイアスとしてかかりにくいのです。
また、評価シートを作成する人事担当者にとっても、現実のハイパフォーマーという具体例を参考にできることによって、一から理想的な行動特性モデルを考えるより遥かに手間を省けるというメリットがあります。このように、コンピテンシー評価は適切かつ効率的な人事評価を実現するのに寄与します。
人材育成・教育に効果的
行動評価やコンピテンシー評価の最大のメリットとも言えるのが、従業員の人材育成に非常に効果的であることです。単に結果の良し悪しだけを見て評価を決定する成果評価に比べて、行動評価やコンピテンシー評価は優れた成果を生み出すための土壌となる業務プロセスを評価対象とします。
つまり、行動評価やコンピテンシー評価は、単に「結果を出せ」と従業員の尻を叩くような評価方法ではなく、「このように行動すればよい結果を見込める」という行動指針を示すものであると言えるでしょう。行動評価やコンピテンシー評価を導入し、各人のプロセスや仕事のスタイルを一定の基準に基づいて評価・フィードバックする体制を築くことで、大きな人材開発効果が期待できるのです。
行動評価項目を導入する際のポイント・注意点
上記のように、行動評価やコンピテンシー評価を導入することは、企業にとって大きなメリットです。それでは、行動評価を人事評価の項目に導入する際には、どのようなポイントに注意すべきでしょうか。
まず一番重要なのが、行動評価やコンピテンシー評価の導入によって目指す最終目標は、従業員の成長や成果の向上だということです。これは評価項目の策定の際にも注意すべきであり、人事評価を従業員にフィードバックする際にも気をつけなければいけません。企業としてのメリットが見込めない行動特性を評価項目にしても意味はありませんし、それを押しつけたところで従業員の反発を生むだけでしょう。
また上記と関連しますが、コンピテンシー評価に際して、「実際のところ何がハイパフォーマーの成功要因であるのか」という点を、正確に抽出するのは難しいのです。ハイパフォーマーの成功要因の中には、本人でさえ特に意識していなかった行動も含まれているかもしれません。それゆえ、コンピテンシーモデルは過信できるものではなく、実際にその行動特性が成果につながっているかどうか定期的に見直さなければなりません。
あるいは、「過去にはそのコンピテンシーモデルが正しかったものの、今では別のモデルの方がよい」といった場合もあるでしょう。コロナ禍に象徴されるように、社会情勢の変化が激しい時代において、最適な働き方は常に変動しています。どのような人事評価の手法を取り入れるにせよ、現代の人事担当者にはそうした社会情勢や時代の変化に敏感であることが求められるのです。
まとめ
本記事では行動評価やコンピテンシー評価の概要について解説しました。コンピテンシー評価は、職場におけるハイパフォーマーの行動特性をモデルに評価項目をつくる人事評価の方法です。これを導入することで従業員は成果につながる業務プロセスを学び、より会社に貢献しやすくなります。公正かつ効率的な人事評価体制の構築に取り組んでいる企業の方は、ぜひ「人事評価システムP-TH/P-TH+」の導入をご検討ください。
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