人事評価には、さまざまな基準とやり方があります。「成績」「能力」「情意」を基準として評価する手法もそのひとつです。当記事では、これらを用いた人事評価の方法や、策定のポイントなどについて解説します。あわせて「コンピテンシー」を用いた評価や相対評価、絶対評価についてもご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
人事評価基準策定の要素とは
自社内で人事評価を行う場合、まずは明確な評価基準を策定することから始まります。まずは、その評価基準を策定する上で注目すべき要素について解説します。
成果・業績評価
「成果・業績評価」では文字通り、一定期間中における業務の成果や結果に基づいて、従業員を評価します。具体的な評価項目は以下となります。
- 正確さなど仕事の質
- 成果を達成するまでの効率性
- 成果達成スピード
- 対応案件数
- プロジェクト全体への貢献度
- 期初に設定した目標の達成度
この手法の利点は、人事評価の基準を成果や業績など分かりやすい部分に設けることで、従業員は昇進や給与アップを目指し、成果・業績のさらなる向上に努めるようになります。従業員の労働意欲の高まりを、直接的に企業の業績アップと経営利益の向上に結びつけることが可能です。
また、成果・業績評価であれば年功序列制度から脱却し、結果を残せない場合には減給措置をとることができます。従来、多くの企業では年功序列制度を採用していたため、勤続年数が長い社員には、主だった成果を上げられずとも高給を支給していました。それが評価制度の見直しによって是正されれば、人件費の削減にもつながります。
能力・プロセス評価
「能力・プロセス評価」では、与えられた職務を遂行する能力に対して評価を下します。主な評価項目は以下となります。
- 理解力の有無
- 企画力の有無
- 実行力の有無
- 折衝能力の有無
- 結果に至る過程が成果につながるものであったか
この手法の利点は、成果・業績評価の欠点を是正できる点です。極端な話、成果・業績評価では結果がすべてであるため、月ごとや半年ごとなど短いスパンでの成果を評価されるケースが多いです。例えば、査定のある月にキャンペーンを展開し、一時的に売上金額を底上げするような行為も行われる可能性があります。
能力・プロセス評価では長期的な視点での評価を行うため、成果・業績評価にて見落とされがちな個人のスキルや努力、成長性などを正しく評価することができます。それゆえ、適切に運用できれば人材育成にも有効とされている手法です。
情意評価
「情意評価」では勤務意欲や職務に臨む姿勢、いかに会社のビジョンに沿った行動をとれているかなどの観点から、従業員を評価します。
主な評価項目は以下となります。いずれの項目も数値化しにくいものですが、企業のカラーをも決める重要な指標といえるでしょう。
- 規律性
- 協調性
- 積極性
- 責任感の有無
- 何事にも感謝できる姿勢
- 地域貢献活動
- 思いやりの有無
情意評価の利点は、能力・プロセス評価と同様に、成果・業績評価において見落とされがちな部分を適正に評価できることにあります。職種や役職を問わず、組織人・社会人としての行動や態度を見極めるため、従業員一人ひとりの人間性を推し測ることができます。
一方で、評価者の主観が混じりやすいデメリットを持ちます。寛大化や中心化といった心理的な評価エラーが発生する可能性も高いため、評価者の適性が問われる手法でもあります。
情意評価は短期的には効果を見込めないものの、個々人の人間力に着目することで人材確保や従業員のモチベーションアップにつながるなど、長期的な観点から優れた評価方法とされています。
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コンピテンシーを評価基準とすることも
近年では、上述の項目のほかにも「コンピテンシー」を人事評価の基準として採用する企業が増えてきています。ここからは、新たに注目を集めているコンピテンシーについて解説していきます。
コンピテンシーとは
コンピテンシーとは、「優れた業績を残す社員に共通する能力や行動特性」を指します。
この概念の提唱者であるハーバード大学教授デイビッド・C・マクレランド(David C. McClelland)氏は、1970年代初頭、米国務省からある調査依頼を受けました。
それは「トップクラスの大学の卒業生かつ知能・適性テストの成績が優れた人材だけを外交官として採用しているのに、在勤期間中の業績に差異が生じるのはなぜか」を調査するものでした。
同氏は、高い業績を上げている人材を抽出し、彼らの考えや行動を分析した結果、高業績を生み出す人には共通の行動特性(コンピテンス)があると結論づけました。これがコンピテンシーの始まりです。
この概念は今や世界中に広まり、日本でも人事評価や人材育成において採用されるケースが増えつつあります。
コンピテンシー評価のしくみ
「コンピテンシー評価」では、好業績者に共通する行動特性を評価項目として設定し、人事評価に組み込みます。
まずは理想の状態をコンピテンシーモデルとして定め、そのモデルになるために必要な要素を洗い出します。これらの要素が評価項目となります。
次に、各従業員はコンピテンシーモデルに近づくための目標を設定します。年度末などに自己評価を行い、上司などによる第三者評価を受けます。
共通基準と個別基準の2つの評価尺度
評価は評価項目に沿って行いますが、重要なのが各項目の達成度を計る評価の尺度で、これには「共通基準」と「個別基準」の2つがあります。
共通基準
共通基準とは職種や役職によらず、全員に共通する基準をいいます。
一般的にはS・A・B・C・Dの5段階評価によって判定されます。例えば、期待を大きく上回っている場合はS、期待したとおりにできていればBといった具合です。
個別基準
所属する部門の業務や役割など、従業員ごとに異なる評価基準を設ける方法です。
例えば、誠実さ・自己革新・コスト意識は全社員の共通基準としても、プレゼン力は営業部門で論理思考は企画部門で重要視されるとすると、それらプレゼン力・論理思考が個別基準となります。
特に評価者が個別基準の考え方を習得することで、評価結果をフィードバックする際、その理由を理論的に説明できるようになります。
ただ実際には、個別基準の数が多いと、基準の設定にも評価にも時間がかかりすぎてしまうため、あまり現実的ではありません。共通基準と個別基準をバランスよく取り入れることが大切です。
評価項目の例
理想の状態として定めたコンピテンシーモデルから導き出された評価項目には、以下のようなものがあります。
- 自己成熟性:冷静さ、誠実さ、几帳面さ、ストレス耐性、ビジネスマナーなど
- 変化行動・意思決定:自立志向、自己革新、チャレンジ性、素直さ、柔軟な思考など
- 対人・営業活動:親密性、プレゼン力、人脈、新規開拓力など
- 組織・チームワーク:同僚との関係、ムードメーカー性、政治力など
- 業務遂行:専門知識、文章力、コスト意識、計画性、処理速度など
- 戦略・思考:視点の広さや深さ、論理思考、リスク管理、アイデア思考力など
- 情報:情報の収集、整理、伝達、活用など
- リーダー:上司との関係、部下への配慮、公平さ、システム管理力など
人事評価基準策定のポイント
人事評価基準を策定する際には、いくつか注意すべきポイントがあります。ここからは、評価基準の策定時に押さえておきたいポイントについて解説します。
職種ごとに最適な評価基準を設計する
職種ごとに期待される成果は全く異なるため、評価基準も職種ごとに最適化する必要があります。
例えば成果・業績評価の場合、営業職では売上額など営業成績に関係する項目が多くを占める一方で、技術職では研究開発の優位性・正確性など製品の性能や研究成果に関係する項目が多くなります。
また事務職の場合は、業務の成果が数値化しにくいため、評価基準の設定時にも考慮する必要があります。
経験や役割ごとに異なる基準を設計する
新入社員と入社5年目の中堅社員、入社10年のベテラン社員とでは、成果の質に差が出て当然です。経験年数が違う従業員に対し、同一の評価基準を設定していては、新入社員は正しく評価されずに意欲が下がるばかりです。
部門として達成すべき大目標は同じとしても、経験や役割ごとに評価基準に重みをつけることが必要になります。
例えば、経験年数が長い社員は「成果評価で80%、プロセス・行動評価で20%」、新入社員は「成果評価で20%、プロセス・行動評価で80%」といった具合です。
先述のとおり、プロセス評価は長期的な視点で評価するため、人材育成の観点からも経験年数の浅い社員においては、重きを置いて評価することは理に適っています。
評価段階を検討する
これまで企業だけでなく学校などにおいても、5・4・3・2・1などの5段階評価が採用される場面が多くありました。
ただ日本人の気質上、一番上の5や最低の1と評価することを避ける傾向があります。結果、中間の3が多く選ばれ、従業員間で評価にほとんど差が生じない、いわゆる「中心化傾向」に陥っていました。階数を減らした3段階評価でも、この傾向は変わりません。
このような理由から、近年では中間の3が生じない4段階評価を用いることもあります。4段階評価であれば中庸な評価ができなくなり、最高の4や最低の1もつけやすくなります。
理想としては、従業員間で評価の差が明確になる4段階評価を採用すべきですが、自社で採用するにあたり問題がないか、十分検討してから採用しましょう。
絶対評価か相対評価か
人事評価において、絶対評価と相対評価のどちらを採用するか、大きな方針として決定しておく必要があります。
絶対評価
絶対評価では、事前に決めておいた評価要件を達成できたかを基準に評価します。絶対評価では、達成すべき評価要件と比較することで、対象者一人ひとりに対し、客観的な評価ができます。
絶対評価は評価基準が一定であるため、客観的で公正な評価となり、従業員のモチベーションアップや、個人の課題発見につながりやすいとされています。一方で、評価要件を満たしていれば何人にでも最高評価Sをつけることができるため、人件費が上がりやすいともいわれています。
相対評価
相対評価では、他者との比較によって評価を決定します。日本企業では従来から採用されていた評価方法です。
母集団の中で相対的に優劣をつけ、それに応じた評価が下されます。実際には、Sを上位10%、Aを20%、Bを40%といった具合に、それぞれのランクに何人振り分けるか割合が決められています。
相対評価は、評価要件を事前に決定しておく必要がなく、従業員同士の比較のみで評価ができるため、評価者への負担が少ないのがメリットです。一方で、常に他者との比較となるため、被評価者は不公平さを感じやすく、足の引っ張り合いが起こる可能性もあります。
絶対評価と相対評価のどちらを採用するかについては、企業規模や風土などを考慮し、自社に適したほうを選ぶとよいでしょう。
まとめ
人事評価には成績・能力・情意を基準とする手法や、コンピテンシーに基づいた手法、さらには相対評価や絶対評価など、さまざまな基準とやり方があります。いずれも違った評価基準やメリット・デメリットを持つため、自社の状況とよく照らし合わせて、最も効果的な方法を検討することが大切です。
<< コラム監修 >>
株式会社サクセスボード 萱野 聡
日本通運株式会社、SAPジャパンで採用・教育を中心とした人事業務全般に幅広く従事。人事コンサルタントとして独立後、採用コンサルタント、研修講師、キャリア・アドバイザーとして活躍中。 米国CCE Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー、産業カウンセラー。
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