
近年、注目されている「静かな退職(Quiet Quitting/クワイエット・クィッティング)」。
実際に退職するわけではなく、必要最低限の仕事しかしない働き方を指します。
一見すると問題がないように見えますが、企業にとっては、生産性の低下や組織活力の減退につながる可能性もあるため、正しい理解と対応が求められます。
こちらの記事では、静かな退職の意味や広がる背景、企業に与える影響、具体的な対応策までをわかりやすく解説します。
“辞めていないから大丈夫”では済まされない、企業が向き合うべき新たな組織課題を整理していきましょう。
静かな退職とは

静かな退職とは、実際に会社を辞めるわけではなく、従来の熱心な勤務姿勢を捨て、必要最低限の業務だけを行う働き方を指します。
昇進や積極的な貢献を目指すことなく、仕事よりもプライベートの充実や心身の安定を優先するスタイルが特徴です。
20代〜30代の若手層を中心に、『過度なストレスを抱えたくない』という自己防衛の手段として広がっていると言われていますが、40代〜60代の中堅・ベテラン層にも見られます。
キャリアが成熟し、これ以上の昇進や地位を強く望まない層が、安定した生活を維持することを優先して『必要以上の責任は負わない』という選択をするケースも少なくありません。
つまり、静かな退職とは、ワークライフバランスや持続的な働き方を実現するために、過剰な負担から自らを守る割り切った考え方ともいえます。
企業にとっては見えにくい変化であるからこそ、その本質を正しく理解することが重要です。
サイレント退職との違い
静かな退職と似た言葉に、「サイレント退職」がありますが、両者は意味が大きく異なります。
静かな退職は、実際に退職するのではなく、仕事に対する積極性や献身性を抑え、求められた範囲の業務のみを行う働き方を指します。つまり『在籍し続ける選択』です。
一方、サイレント退職は、外部には不満や兆候をほとんど示さず、ある日突然退職を決断する行動を指します。こちらは『実際に会社を辞める』という点で、企業への影響はより直接的です。
なぜ今「静かな退職」が増えているのか
静かな退職が増えている背景には、『働くことに対する価値観の変化』があります。
- ワークライフバランスの充実:
仕事中心の生活を見直し、私生活の充実や自身の健康を優先する - 自己防衛:
過剰な業務負担や強いプレッシャーによる燃え尽き症候群(バーンアウト)を避ける - タイパ(タイムパフォーマンス)の重視・効率主義:
若年層に特有の考え方で、対価に見合わない労働や、曖昧な評価制度のもとで努力することを避ける - 待遇や評価への不満:
努力が報われない環境では、「頑張るだけ損」という諦めの気持ちが生まれる
静かな退職という選択は、個人の怠慢ではなく、“自分を守るため”の合理的な判断や働き方、組織環境の変化が生み出した現象ともいえます。
静かな退職が企業に及ぼす影響・デメリット

ここからは、静かな退職が企業に及ぼす影響・デメリットについて解説します。
周りの従業員の士気が下がる
静かな退職が企業に及ぼす影響としてまず挙げられるのが、周囲の従業員への波及効果です。
必要最低限の仕事しかしない従業員が増えると、他の従業員がその分の業務や責任を負うことになり、不公平感や疲労感が増大します。
一部の従業員に負担が集中することで、チームワークは徐々に劣化していき、組織全体の士気の低下を引き起こす可能性があります。
組織の生産性の低下
静かな退職を選択した従業員は、積極的な提案や発言を控え、指示された業務のみを淡々とこなす受動的な働き方へと変化します。
その結果、チーム内での意見の多様性や創造的な対話が減少し、従業員同士のコミュニケーションも形式的なものになります。
静かな退職は、職場のコミュニケーションや人間関係に負の影響を及ぼし、長期的には、組織の生産性の低下につながるリスクをはらんでいます。
イノベーション・競争力の停滞
静かな退職が組織内に広がることで、従業員の挑戦意欲や学習意欲が徐々に薄れていき、若手や将来有望な人材が十分な成長機会を得られなくなることが懸念されます。
新しいことに積極的に挑戦する空気が弱まれば、成長意欲の高い人材ほどストレスや物足りなさを感じやすくなり、より成長できる環境を求めて転職していく可能性もあります。
企業には現状維持を望む受動的な人材だけが残り、結果として、組織のイノベーションの停滞や競争力の衰退を招いてしまうでしょう。
「静かな退職」状態になる従業員の兆候とは
静かな退職は、明確なトラブルや問題行動を起こすことはないため、早期に気づくことが重要です。
従業員の行動や態度に、以下のような変化が見られる場合は、注意が必要かもしれません。
- 新しい課題や責任を避け、言われたことだけを行う
- 自分から意見やアイデアを出さず、コミュニケーションが減る
- 業務上必要な場合でも、毎日定時で退社する
- 仕事への熱意や成長意欲が見られない
一時的な疲労や体調不良による変化の可能性もありますが、継続的に見られる場合は「静かな退職」状態に入っているサインと考えられます。
静かな退職を防ぐために企業ができる対策
こちらでは、静かな退職を防ぐために企業ができる3つの対策についてご紹介します。
業務と役割を再設計する
静かな退職を防ぐためには、業務と役割を明確にし、必要に応じて再設計することが重要です。
『自分は何を期待されているのか』『どこまでが自分の責任なのか』が曖昧な状態のとき、従業員は主体的に動くことができません。
役割が不明確なままでは、指示されたことだけをこなす受け身の姿勢に陥りやすくなります。
一方で、役割と責任の範囲が明確になれば、従業員は自分の仕事の意味を理解しやすくなります。
『自分の業務が組織全体の成果とどうつながっているのか』が見えることで、納得感が生まれ、やらされ感は軽減されます。
また、役割がはっきりすると、自分の業務が組織でどのように貢献しているのかを実感しやすくなり、当事者意識も向上します。
その結果、指示されたことだけをこなす受け身の姿勢・必要最低限の働き方にとどまるリスクを抑え、エンゲージメントの向上をもたらします。
人事評価制度を見直す
静かな退職の背景には、『頑張っても正当に評価されない』という不公平感があります。
そのため、公正で透明性のある人事評価制度を確立することも大切です。
具体的には、評価基準や昇格条件を明確に提示し、『何をどこまで達成すれば評価されるのか』を可視化します。
評価プロセスをブラックボックス化しないことで、従業員が人事評価制度に対して納得感を持てるようになります。
納得できる評価体系が確立されていれば、『頑張るだけ損』という諦めも生まれにくくなり、モチベーションの維持につながります。
また、私生活を充実させつつ、仕事でも成果を出して正しく評価されている従業員がいる環境は、『この会社でなら成長できる』という成長意欲の向上に寄与します。
定期的に1on1ミーティングを実施する
静かな退職を防ぐためには、従業員の満足度や仕事への熱意(エンゲージメント)を定期的に把握することが欠かせません。
そのために有効なのが、上司と部下による定期的な1on1ミーティングです。
形式的な面談ではなく、日頃の悩みや不安、キャリアの希望について率直に話せる場を設けることで、心理的安全性を確保できます。
また、コミュニケーションの機会が増えることで、モチベーションや態度の小さな変化にも気づきやすくなります。
1on1ミーティングによる対話は、静かな退職の兆候を早期に察知し、結果として、静かな退職の未然の防止や、組織全体の生産性向上にも好影響をもたらします。
適切な人事評価とコミュニケーション機会の創出に。
人事評価システム「P-TH/P-TH+」
静かな退職を防ぐためには、公平性と透明性のある人事評価制度の構築、そして継続的なコミュニケーションの場づくりが欠かせません。
そこでおすすめするのが、慣れ親しんだExcelの評価シートをそのままシステム化できる人事評価システム「P-TH/P-TH+(ピース/ピースプラス)」。
P-TH/P-TH+(ピース/ピースプラス)を導入することで、手間のかかる集計作業や、煩雑になりがちなシート管理が無くなり、人事評価にかかる作業やリスクを大幅に圧縮することが出来るため、個人の成長や課題と向き合う丁寧な人事評価を実現できます。
さらに、P-TH/P-TH+(ピース/ピースプラス)には、上司と部下のコミュニケーション機会を創出できるよう『1on1機能』も標準搭載されています。
進捗確認だけでなく、業務負担に関する相談や悩み、キャリアに対する不安などをこまめに共有することで、従業員の変化に気づき、適切なサポートが可能です。
半期や四半期に一回の人事評価だけでなく、1on1のようにもっと短いスパンでのフィードバックは、従業員の当事者意識やエンゲージメントを高め、静かな退職の未然防止にもつながります
個人と組織の健全な成長を支える仕組みづくりに、制度と対話の両輪「P-TH/P-TH+(ピース/ピースプラス)」は効果的な手段の一つといえるでしょう。
まとめ
静かな退職は、実際に退職するわけではないものの、仕事への情熱や積極性を抑え、必要最低限の業務にとどめる働き方です。
その背景には、ワークライフバランスの重視や自己防衛意識の高まり、評価や待遇への不満など、働く価値観の変化があります。
静かな退職は、単なる“個人のやる気の問題”ではなく、組織環境やマネジメントの在り方が大きく影響している現象でもあります。
「辞めていないから大丈夫」と考えるのではなく、従業員の心が仕事から離れていることや、仕事への向き合い方が少しずつ変わっていることを見逃さないためにも、従業員一人ひとりに目を向けるよう心がけることが大切です。
それは、静かな退職を防ぐだけでなく、持続的に成長できる組織作りの第一歩にも繋がるでしょう。
<< コラム監修 >>
株式会社サクセスボード 萱野 聡
日本通運株式会社、SAPジャパンで採用・教育を中心とした人事業務全般に幅広く従事。人事コンサルタントとして独立後、採用コンサルタント、研修講師、キャリア・アドバイザーとして活躍中。 米国CCE Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー、産業カウンセラー。
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