以前のような終身雇用が崩れはじめ、転職へのハードルも下がっている中、人事として離職率の上昇を課題とする企業も多いでしょう。本記事では、離職率の定義について確認したうえで、離職率が高くなる要因や解決策などを解説します。
離職率とは
「離職率」とは、ある一定期間の中で就業した従業員のうち、退職した人の割合を指します。どの従業員を計算対象に含めるかについては、明確な基準がなく、例えば新卒社員だけを抽出し、その中で3年目の時点で退職率を計算することもあります。目安としては、ある年の期初に在籍する従業員をベースに、1年間あるいは3年間で退職した人数の割合を離職率とすることが多いです。
日本の少子高齢化が進み、人材確保の難易度が上がる中、離職率を引き下げる重要性は高まってきています。そのような背景もあり、近年では離職率への注目度が高まっているのです。
離職率の参考数値
人事などの担当として、自社の離職率は把握していても、世間的にはどれくらいが目安となるのか気になる方も多いでしょう。厚生労働省が発表した「令和元年雇用動向調査結果の概況」によると、令和元年における常用労働者の離職率は15.6%をマークしており、この数値がひとつの基準と言えます。令和元年に限らず、ここ数年においても14~15%を推移しています。
離職率の計算方法
離職率の基本的な計算式は、「離職者数÷従業員数」です。分子の離職者数は、1年間や3年間など一定期間内に離職した人数。分母の従業員数は、その期間の最初(期初)に在籍していた従業員数です。仮に1年間で40人が退職し、その期初に500人が在籍していた場合、その1年間における離職率は「50÷400=12.5%」となります。
また、新卒社員のみを計算対象として離職率を算出する場合、新卒社員の中で離職した人数を分子とし、その期間に新卒採用した従業員数を分母として、離職率を計算します。例えば、3年以内の離職率を計算するにあたり、過去3年の新卒者のうち離職者が30人、その3年間で採用した新卒者が100人だった場合、離職率は「30÷100=30%」となります。
離職率の「七五三(753)現象」
離職率について有名な現象が、「七五三(753)現象」と呼ばれるものです。これは、「就職後3年以内に離職する割合が高い」という問題に由来する言葉で、中卒者・高卒者・大卒者の3年以内の離職率がそれぞれ7割・5割・3割に及ぶことを表します。学歴による差こそありますが、いずれも高い離職率を示すことから、企業にとっては由々しき問題です。
離職率が高いことによる問題点
では、離職率が高いことで、企業にどのような影響を及ぼすのでしょうか。複数の観点から解説します。
人材育成の問題
離職率が高いと、企業の成長エンジンとなる「人材育成」に大きな悪影響があります。離職率が高いということは、すなわち「人材の入れ替わりの頻度が高い」ということです。せっかく時間やコストをかけて育成した人材も、3年程度で一定割合が離職し、そのぶん新たな人材を採用・育成しなければなりません。新卒にせよ中途にせよ、ある程度の採用コストと育成コストをかけている中で早々に離職されると、かけたコストが無駄になってしまいます。
また、人材育成の問題は、組織構造のバランスも悪化させます。例えば「新卒から3年以内の離職率が高い」という状態が続くと、勤続年数の高いベテラン社員と、1年目・2年目の若手社員ばかり多くなり、中間となる年齢の社員は少なくなります。
ベテラン社員はさまざまな業務を抱えており、若手社員の育成にさほど時間をかけられないケースも多いでしょう。若手社員が十分な教育を受けられなければ、結果として業務量はベテラン社員に偏り、ギャップを埋めるのがさらに難しくなるという悪循環に陥りかねません。また、中堅社員としても相対的な人数が少ないことから、会社への愛着心が希薄になり、さらなる離職を招く可能性が考えられます。
採用の問題
インターネットやSNSが浸透した今、特に悪い評判は高い拡散力を持ちます。採用においても同様で、離職率が高いと、世間に悪評が広まることもあります。このような評判が広がれば、応募を敬遠され始め、人材獲得は難しくなっていくでしょう。特に新卒採用においては、学校内での縦横のつながりから、企業の評判は伝播しやすい傾向にあります。
また、企業も際限なく採用コストをかけられるわけではありません。限りある予算の中、ある程度の期間活躍してくれることを期待し、それに見合うコストを投じて採用します。しかし、離職率が高い状態が続けば、1人あたりにかけられる採用コストは減る一方です。その結果、認知獲得が難しくなるなどの悪循環に陥りかねません。
離職率が高くなる要因
それでは、離職率が高くなる要因とはいったい何なのでしょうか。3つの観点から見ていきましょう。
待遇や評価
従業員が離職する主な動機として、まず待遇や評価への不満が挙げられます。自身の頑張りや成果に見合った待遇を得たいというのは、やはり自然な願望であり、モチベーションにも直結します。
以前のように終身雇用が当たり前ではなくなった今、転職という選択肢もより身近なものとなりました。そんな中、待遇や評価に不満があれば、すぐに転職の選択肢を頭に浮かべるのは無理ないことです。企業は、この点を前提とした施策を講じなくてはなりません。年長者を無条件に優遇する制度設計が残っていると、若手が不満を抱く要因になりやすいです。重要なのは、時代の流れに合わせた柔軟な制度設計を立てることでしょう。
職場環境
職場環境が合わないと感じて、離職されるケースも少なくありません。例えば「同僚とのコミュニケーションが取りづらい」「上司とそりが合わず言動にいちいち疲弊する」などの人間関係に対する不満があると、従業員はモチベーションを保てなくなります。
また、有給休暇を取得しづらかったり、福利厚生が悪かったりする場合も、従業員に不満を抱かせる要因となります。このような職場環境を放置していては、次第に従業員の企業に対する愛着心が希薄化していき、離職率の増加へとつながるでしょう。
労働条件
労働条件も従業員のモチベーション、ひいては離職率に影響する大きな要素です。具体的には労働時間や残業、休日出勤なども関係します。
例えば、週あたりの所定労働時間が40時間を超える場合、法令に反して残業代未払いとしていたり、サービス残業をさせていたり、休日出勤も多かったりする場合は、離職率が高くなります。長時間労働そのものも問題ですが、従業員から法令を守らない企業として捉えられ、イメージダウンする点も影響が大きいでしょう。
離職率を低くするには
最後に、離職率を低くするためのポイントについて解説します。
採用の精度を高める
離職を防ぐ効果的な方法のひとつが、「採用」の精度を高めることです。企業に就職するにあたり、給与などの待遇や職場環境、業務内容などさまざまな要素から求職者は判断します。応募時に聞いていた内容がいくら好印象でも、入社後に感じる実態が期待と乖離していれば、離職につながるリスクがあります。企業が掲げる理念や事業内容、求めているスキル、職場の雰囲気などを実態に基づき正確に発信することが大切です。
求人情報への掲載や面接時の説明はもちろん、選考がある程度進んでいれば職場見学なども取り入れ、求職者が働くイメージを持てるようにするのもよいでしょう。あるいは、現場の社員に協力してもらったり、定期的にヒアリングを行ったりすることも有効です。
働き方の改革の推進
労働観をはじめさまざまな価値観が多様化した現代では、企業に所属していることよりも、自身の成長や自己実現などが重要視されるようになりました。そんな現代で、長時間労働させられるような職場環境は、以前よりも離職につながりやすくなっています。よって、働き方の改善も離職を防ぐ大きなポイントです。
また、スキルアップやプライベート充実を目指して、就業時以外の時間を有効に使いたい従業員も多いはずです。そうした従業員のために、ワークライフバランスを整えることも大切でしょう。例えば、子育て中の従業員でも仕事を続けられる環境になれば、離職率の低下が期待できます。
制度や体制の見直し
従業員は、企業の制度や組織体制などに敏感です。特に、評価制度は給与などの待遇にも直結するため、従業員が納得できる正当な評価を下さなければなりません。そのためには、評価基準の見直しに加え、評価をコミュニケートする方法も改善する必要があるでしょう。
また福利厚生においても、従業員に有意義な制度を用意し、それを周知することが大切です。従業員が働きやすく成長しやすい環境を提供可能なように、福利厚生を設計しましょう。
組織体制に関しては、従業員が悩みなどを抱えた際にすぐ相談できるよう、活発なコミュニケーションを促したり、相談窓口を設けたりすると効果的です。決して1人で抱え込ませず、身近な同僚や上司、あるいは会社全体で相談を受けられるような体制づくりが、離職率の低下へとつながるでしょう。
まとめ
離職率とは、一定期間で従業員の総数と離職者の数を切り取り、離職者の割合を算出したもので、企業としての評価にも関わる重要な数値です。離職率が上がると、腰を据えた人材育成が難しくなったり、採用コストが増したりするなど、企業に大きな打撃を与えます。従業員が待遇や評価制度、職場環境などに不満を持つことが離職につながるため、これらを継続的に改善していく姿勢が求められるでしょう。
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<< コラム監修 >>
株式会社サクセスボード 萱野 聡
日本通運株式会社、SAPジャパンで採用・教育を中心とした人事業務全般に幅広く従事。人事コンサルタントとして独立後、採用コンサルタント、研修講師、キャリア・アドバイザーとして活躍中。 米国CCE Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー、産業カウンセラー。
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