従来は、企業が一方向的に従業員の配置や仕事内容を決めるスタイルが一般的でした。しかし、昨今は従業員のモチベーションや志向性が重視されるようになり、マネジメント手法にも変化が生まれています。そのうちのひとつがタレントマネジメントの導入です。本記事では、タレントマネジメントの概要および導入のメリットについて解説します。また、導入にあたり注意すべき点をご紹介します。
タレントマネジメントとは
ビジネスの成果を最大化させるため、従業員が持つスキルや才能を最大限に引き出して、戦略的な組織編成や人材の配置、育成を行うマネジメントの手法を「タレントマネジメント」といいます。「タレント」とは、それぞれの従業員が持っている能力や経験値を指します。
欧米では1990年ごろからタレントマネジメントの導入が始まり、2000年代に広がりました。日本では、2011年ごろから注目されるようになったと言われています。
従来の人材確保では、優秀な人材をいかに囲い込むかが重視されていました。しかし、グローバルなビジネス競争が激しくなるなか、現場のニーズに合った従業員を適切に配置することがより重要視され、現場の課題を解決することができる特定のタレントを持つ人材を積極的に採用する流れが生まれました。その他、現在雇用している従業員の持つスキルを情報として管理し、人材配置に活かすことが求められるようになりました。
タレントマネジメントの目的や目標
タレントマネジメントの考え方は、特定のポジションに相応しいタレントを持つ人材をすばやく配置することで、企業の成長や迅速な事業拡大を目的とします。また、適性に合った仕事に従事させることで、従業員の意欲が伸び成長することにもつながります。
タレントマネジメントの実践
では具体的には、どういったことに気を付けて導入すればよいのでしょうか。ここからは、タレントマネジメントを実践するためのポイントを、さまざまなメリットと共に確認してみましょう。
人材情報の見える化
最適な人材の配置と育成を行うためには、そもそも自社にはどんなスキルや能力を持った人材が所属しているかを把握することが欠かせません。つまり、タレントマネジメントのベースは、「自社の持つ人材についてその情報を可視化し、管理しやすくしておくこと」です。
従来であれば、各従業員が配属された後の働きぶりに対して評価した内容が蓄積されるだけです。一方で、タレントマネジメントでは、配属する前に従業員が持つタレントのリストアップをあらかじめ行います。それを参照し、現場のパフォーマンス向上に役立つ人材を配属させます。
最適な人材配置
相応しいポジションへ従業員を配置するためには、従業員の人材情報を見える化し、社内の人材データによるタレントプールを作成したうえで、それらを経営戦略や人事戦略に紐づけることが必要です。これを通じて最適な人材配置が行え、より大きなビジネス成果を生み出すことにつながります。
最適な人材配置を行うには、従業員の適正ポジションを判断する必要があります。人事担当者、管理者、経営者は、現場の声を取り入れ、ニーズをきちんと理解したうえで、それに応えられるタレントを持つ人材を配属させることが大切です。そうすることで、人材配置の精度が高まります。
能力を高めるための人材育成
人材の配置だけでなく、育成の要素も含むのがタレントマネジメントの特徴です。現場で要求されるスキルや能力に基づき配置した従業員が、より適応できるよう能力開発を行います。
各従業員を、それぞれ適応しやすい現場へ迷うことなく配属できれば、それに越したことはありません。しかし、従業員の潜在能力を推し量った上で、現時点では“誰が見ても適性がある”とは言えない状況で現場に配属を決定することもあると思います。そうした場合でも、企業側が積極的に研修を行うなどして、従業員がそのポジションに適応できるようにすることが大切です。
能力に応じた適正な評価
タレントマネジメントの結果、従来と異なるポジションに配属される従業員が出てくることもあります。これは従業員にとっては新しいポジションで成果を出し、より高い評価を得るチャンスです。しかし、中には所属変更に不安を感じる従業員もいるでしょう。
そこで、新しいポジションについた従業員がポジティブに業務に取り組めるようにするためにも、企業側が努める必要があります。具体的には、先述の積極的な研修などが含まれるでしょう。従業員それぞれの持つ能力を、不安を感じさせずに発揮できる環境づくりをし、その上で適切な評価を与えられるようにするのが肝要です。
適切な評価を与えるためには、当然基準が必要です。そのポジションで必要となるスキルや求められることを踏まえて、タレントマネジメントによる配置は行われます。そのため評価基準も自然と明確化し、適正な評価がしやすくなります。
タレントマネジメント成功のポイント
最後に、タレントマネジメントの導入を成功させるポイントを2つご紹介します。
従来型の人材管理方法との違いを明確に理解する
タレントマネジメントの実践にあたっては、その意義をしっかりと理解することが重要です。そのためには、従来型の人材管理との違いを整理しておくといいでしょう。両者を混同すると、本来の目的を果たせなかったり、メリットを活かせなかったりします。
従来型の人材管理では、人事情報などの人材の情報を管理し蓄積していましたが、その目的は主に給与計算などを行うことでした。一方、タレントマネジメントでは、従業員の能力をデータ化したものを人材配置に反映させ、企業経営の効率化を目指します。
つまり、人事情報の管理や整理を行うのみである従来型の人材管理と、人材の配置を最適なものにし経営効率を高めようとするタレントマネジメントでは、目的が全く異なるのです。もちろん、従来型の人材管理も給与計算などのためには必要な管理方法なので、両者のどちらかだけを選ぶべきということではありません。
従来型の人材管理もあった上で、タレントマネジメントの概念を理解し、実践することで、従業員それぞれのスキルや能力、マインドなどを「資産」として捉え、自社の成長につなげることが可能になります。
導入目的の明確化と必要な情報の定義が重要
「どのような成果を得たいか、そのためにどのような人材情報を集めたいか」。タレントマネジメントに取り組むなら、こうした目的をまず定めておくことも重要です。企業としての理念やビジョン、ミッションに照らし合わせながらタレントマネジメントを位置づけ、従業員にも浸透させていきます。それにより、マネジメントの目的が実現されるでしょう。
まとめ
タレントマネジメントとは、従業員それぞれの才能やスキルを最大限引き出せるような人材配置や育成を行うことで、企業としても成長できるようにするマネジメント手法です。インターネットが普及し、ビジネス環境や労働への価値観が多様化するなかで注目されています。
タレントマネジメントを導入することで、自社が抱える人材という資産を、より高い解像度で把握することができます。そうすることで、全体から見て最適な人材配置を行うことが可能となります。その結果、企業としても高い競争力を保てるでしょう。
また、従業員を能力に応じて配置するため、評価基準は明確化しやすくなります。もちろん、従業員本人が納得できる評価を具体的に表示すれば、従業員のモチベーション向上にも繋げられるでしょう。
このように、タレントマネジメントを導入することで様々なメリットが得られます。導入の際は、導入目的を明確化することが重要です。目的を明確にすることで、目的達成のために必要な人材情報を定義することができ、タレントマネジメントを導入するメリットをより実感することができるでしょう。
<< コラム監修 >>
株式会社サクセスボード 萱野 聡
日本通運株式会社、SAPジャパンで採用・教育を中心とした人事業務全般に幅広く従事。人事コンサルタントとして独立後、採用コンサルタント、研修講師、キャリア・アドバイザーとして活躍中。 米国CCE Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー、産業カウンセラー。
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