「リフレクション」という言葉は聞いたことがあるものの、具体的に説明するように言われると少し自信がない、という方もいらっしゃるかもしれません。
本記事では企業の人事担当者の方々に向けて、リフレクションの意味やメリット、実施する際の方法や注意点について解説します。
リフレクションの意味
リフレクションは英語の「reflection」から来ていて、一般的には「反射」や「反映」などを意味する言葉です。人材育成関連の言葉としては、業務のプロセス、取り組み、行動、成果など、自分の行動について客観的に振り返ることを指し、「内省」とも表現されます。
自分が行った判断は良かったのかどうか、結果をどのように受け止めるのか、などを自問自答し、改善点が見つかればそれを次回に生かしていくためのものです。自分の判断や業務への姿勢などを客観的な立場に立って振り返り、再考する手法として知られています。今後の仕事への向き合い方や、同じような状況になったときにどのように対応すべきかなどの知見を広げる意味も含んでいます。
反省との違い
リフレクション(内省)と似た言葉に「反省」という言葉があり、言葉自体は似ているため、混同する人もいるかもしれません。
どちらも自分の行動や考えを振り返る点は同じですが、内省は失敗したことだけでなく、成功したことについても見つめ直します。改善すべき点があれば次回に活かせるようにするだけでなく、良かった点からも新しい発見を得て、今後に活かせるようにするのです。また、客観的な立場で、いわば外から自分の行動を見つめ直すという点も特徴といえるでしょう。
一方、反省は振り返りを行った際に気付いた誤りに注目し、なぜそのような行動や判断をしたのかを考えます。理由や原因を分析して、同じミスを起こさないように正していくことを目的に実施されるものです。
このようにリフレクションは、過ちの改善に重きが置かれてはおらず、過ちを犯した人を責める意味合いはないという点で、反省とは異なります。
リフレクションにより期待できる効果
期待できる効果にはさまざまなものがあります。社員への効果と企業への効果に分けて説明しましょう。
社員への効果
社員への効果としてはまず、意識や行動の変化が起こることが挙げられます。内省を行うことで、自分自身の行動や考えを客観的に振り返ることができ、それにより自分への理解を深めることが可能です。さらに、自分の行動や感情をコントロールする意識が芽生えることで、日々の意識や行動に自律性が生まれていくでしょう。
また、客観的に振り返りをすることで自分の良い点や悪い点を冷静に見つめられます。良い点をさらに伸ばしていくためにはどうすれば良いかを考えることはもちろん、悪い点に対しても、今後同じことを繰り返さないようにするために、何をどのように改善すれば良いのかを考える機会になるのです。その結果、更なる能力アップも期待できるでしょう。
さらに、モチベーション向上にも効果があります。リフレクションは、上司によって行われる評価とは異なり、自分自身による評価であるため、素直に受け入れやすいものです。仕事に対しても、前向きに主体的に取り組もうという気持ちになりやすいでしょう。
企業への効果
企業への効果としては、第一にリーダーを育成する教育的効果が挙げられます。リーダーになるためには、チーム全体を冷静に見て判断することが求められます。リフレクションを習慣化し、自分自身の行動や考えを客観視して物事を改善する力をつけることで、リーダーに必要な能力が無理なく身につきます。
第二に、会社全体の生産性向上が期待できる点も見逃せません。「個人への効果」の段落でも述べたように、内省を行うことで従業員一人一人が仕事に対する意識を高く保てるだけでなく、振り返りを続けながら業務にあたることで能力向上が図れます。個人の能力が向上すれば、チームや会社としての生産性アップにもつながるでしょう。
リフレクションは、社員個人にとってはもちろん、企業としても生産性を高めることにより成長を可能にします。双方の観点から役に立つ手法といえるのです。
リフレクション実施において人事が知るべき5つのポイント
リフレクションをどのように実施できるでしょうか?ここからは、企業の人事担当者が知るべきポイントを5つ紹介します。
振り返り方法
振り返りを行うときは、「出来事」「状況」「行動」の順で、段階を踏みながら考えましょう。
- 「出来事」については自分が体験した事実のみを思い返します。起こった出来事に何らかの感情が湧いていたとしても、両者を切り離して考えることが大切です。そのような意識を持つことで、たとえ怒りが伴う出来事を振り返るときでも、他者のせいにして検討が進まなくなることなどを避けられるでしょう。この段階では、起きたことに良し悪しの判断をするのではなく、ただ事実を思い返すことだけに集中します。
- 次に出来事の背景にある「状況」を振り返ります。なぜそのような出来事が起きたのか、周囲の人の行動や反応、環境などを含めて思い返しましょう。
- 最後は「行動」についてですが、出来事に対してそのとき自分がとった行動そのものについて振り返るだけでなく、考え方も振り返ることがポイントです。自分の行動は良かったのか悪かったのか、また、自分の役割はどのようなものだったのかなどについて考えます。なお、リフレクションは自己成長のために行うものでもあるため、今後どのような行動や思考をすれば良いのかなど、未来志向で考えを整理すると良いでしょう。
過去の出来事を振り返るときは、出来事と状況だけ思い返す場合が多くありますが、今後の成長に必要なことは、最後に挙げた自分の行動を振り返ることです。これを行うことで新しい発見を得られる可能性が高まります。
フレームワーク
リフレクションには「Keep」「Discard」「Add」の頭文字を取って名付けられた「KDA」というフレームワークがあります。フレームワークは、問題を解決するために取り組む方法を体系化した枠組みのことです。
「KDA」のうち、「Keep」は今後も続けていくこと、「Discard」は今後やめること、「Add」は今後始めることを意味します。出来事を振り返るときは、これら3つの観点に当てはまるものをそれぞれ書き出していきましょう。思いつくままにどんどん書き出していくことが大切です。そのため、振り返る対象の業務が終わったら、細部を忘れないうちにこのフレームワークに取り組んでください。
組織としての取り組み
組織として取り組む場合、リフレクション会議(ミーティング)という、複数のメンバーで実施する方法もあります。リフレクションは本来、個人単位で自分自身について振り返り、出来事の経験から今後への活かし方を学ぶもののため、個人作業で完結できるものです。しかし、個人の内省についてメンバーで共有することで、他の人の考え方や取り組み方を知ることができます。それにより、自分だけでは気付かなかったことや見方を発見する可能性が高まり、内省をより効果的に行えるようになるでしょう。
注意点
リフレクションは間違ったやり方もあるので注意しなくてはいけません。実施する上では、反省と混同し、間違いや失敗ばかりに注目してしまい、新しい発見を得られずに学習が滞ってしまうことのないよう注意してください。
また、誰が悪かったのか犯人捜しをし、失敗した人にフォーカスして、反省させることを目的としてしまったりすることがないように気を付けましょう。特定の人を責めることは、社員の自由な発言を妨げかねません。
リフレクションでは、起こった出来事とそこへの向き合い方、今後より良い行動や思考をするための方法を考えることに意識を集中させることが重要です。
まとめ
リフレクションを習慣的に行うことで、社員の能力やモチベーション向上につながるだけでなく、企業にとってもリーダーの育成促進や生産性向上の効果が期待できます。本記事で紹介した5つのポイントや手法、実施する際の注意点を参考に、ぜひ導入してみてはいかがでしょうか?
<< コラム監修 >>
株式会社サクセスボード 萱野 聡
日本通運株式会社、SAPジャパンで採用・教育を中心とした人事業務全般に幅広く従事。人事コンサルタントとして独立後、採用コンサルタント、研修講師、キャリア・アドバイザーとして活躍中。 米国CCE Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー、産業カウンセラー。
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