福祉・介護関係者の離職率はなぜ高いと思われているのか?

 2021.07.30  AJS株式会社

少子高齢化が進む日本において、福祉・介護職の需要はますます高まりを見せています。その一方で離職率が高いとの声もよく耳にしますが、果たして事実なのでしょうか。本記事では、福祉・介護職の離職率に関する真実や、なぜ離職する人が多いと思われているのかについて解説します。

福祉・介護業界での、実際の離職率は?

福祉・介護職は、一般的に離職率が高いと考えられています。しかし「業務量が多い」や「身体的負担が大きい」などマイナスイメージだけが先行し、実態について把握されている方は少ないかもしれません。ここでは、実際の離職率がどの程度なのか実態調査のデータに基づき紐解いていきます。

福祉・介護職の離職率は、実はそこまで高くはない

公益財団法人介護労働安定センターが2019年10月に実施したアンケート調査「介護労働実態調査」によると、回答のあった9,126事業所のうち、訪問介護職員・介護職員の1年間(2018年10月〜2019年9月)の採用率は18.2 %だったのに対し、離職率は15.4%でした。過去5年間のデータをみても、いずれも離職率よりも採用率が上回っている状況がうかがえます。加えて、離職率は2017年が16.2%、2018年が15.4%とほぼ横ばいで推移しており、突出して離職率が上昇している状況ではないことがわかります。

ここで、厚生労働省が2020年9月に発表した「2019年(令和元年)雇用動向調査結果の概況」のデータと比較してみます。同調査によると、2019年のすべての業界の労働者に対しての採用率は16.7%、そして離職率は15.6%でした。

したがって、福祉・介護職の離職率は全産業からみても極端に高いわけではなく、平均的な割合で推移していることがわかります。むしろ採用率はやや高く、職場を去る人よりも新たに採用されて入ってくる人材のほうが多いのです。

なぜ「離職率が高い」と思われているのか?

それでは、なぜ一般的に離職率が高いと思われているのでしょうか。公益財団法人介護労働安定センターがまとめた「介護労働の現状について(令和元年度 介護労働実態調査の結果と特徴)」によると、勤続3年未満の離職率が離職者全体の6割を占めていることがわかります。さらに、勤続1年未満は4割弱となっており、比較的短期で辞めてしまう傾向があるため、それらが「介護の仕事は長続きしない」「離職率が高い」といったイメージを持ってしまう原因となっていると考えられます。

また、前述の厚生労働省「2019年(令和元年)雇用動向調査結果の概況」によると、社会全体において「定年・契約期間の満了で退職する」割合は男性19.7%、女性11.6%となっていますが、介護職では男性2.9%、女性4%となっています。つまり、介護の世界では定年や契約期間満了を迎える前に、職場を去る人の割合が高く、これらも長続きしないと捉えられる要因の1つであると言えるでしょう。

福祉・介護職においても、他の業界と同様に一定の離職者がいることは事実です。しかし世間が抱いているイメージに比べると離職率は平均並みの数値であり、極端に辞める人が多いわけではありません。離職の割合ではなく、「なぜ、そこを辞めるに至ったのか」という理由の部分に重きを置き、それらについてきちんと対策をすることが重要です。

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主な離職理由を紹介

福祉・介護職における離職理由は人によってさまざまです。では、実際にどのような理由で離職するに至ったのでしょうか。ここでは、福祉・介護職における主な離職理由について解説します。離職理由について理解し、これらについて積極的に対策を講じているかが1つの指標となりますので、参考にしてみてください。

男女別で理由に差がある

公益財団法人介護労働安定センター「介護労働の現状について(令和元年度 介護労働実態調査の結果と特徴)」によると、最も多い離職理由が「現場の人間関係に問題があったため」で、男性は25.2%、女性は22.6%でした。男女ともに人間関係がうまくいかず離職してしまうケースが散見されます。

一方、男女別で数字を読み解くと、その違いが見えてきます。離職理由の中で、「自分の将来の見込みが立たなかったため」と答えた男性が29.0%なのに対し、女性は13.1%でした。また、女性の離職理由で一番多いのは、「結婚・妊娠・出産・育児のため」で24.8%、男性は4.1%でした。これらの数値からも、男性と女性では福祉・介護職の仕事から離れる理由が大きく異なるのがわかります。

共通理由「人間関係がうまくいかない」

どのような業界においても、人間関係がうまく立ち行かないと仕事やモチベーションにマイナスの影響を与えてしまいます。特に、福祉・介護職は職員同士のチームワークや共同作業が求められる場面が多いため、人間関係の不和が業務に影響してしまう可能性が高いと考えられています。逆に言えば、人間関係が良好な職場であれば、快適に長く働くことができ離職率が低くなることが期待できます。

また、人間関係の問題は同僚などにも相談しづらく、自分の内に秘めてしまうことが少なくありません。こうした職場における人間関係の解決のカギを握るのが、「相談窓口」の存在です。後述しますが、相談窓口の設置は人間関係の不満や悩みを相談できる受け皿となり、離職に至る前段階でそれらの問題を解決できる手助けが可能となっているのです。

男性最多理由「自分の将来に見込みが立たない」

介護職は、やりがいのある仕事ですが大変な業務です。その大変さゆえに、収入に見合わないと感じる人も多いでしょう。専門職であるにもかかわらずきちんと認められていない、キャリアアップが望めないと感じてしまい、職場を離れる方も少なくありません。また男性は結婚や育児などのライフイベントがきっかけとなり、より高い収入を得たいと考えて転職するケースが多く見られます。

公益財団法人介護労働安定センターの同データによると、将来性を鑑みて離職する女性は1割強と男性ほど多くありません。しかし性差に関係なく、福祉・介護職に将来性を見出せないと感じ辞めてしまう人が一定数いるのは事実です。そのため、キャリアアップや賃金向上など将来性が担保されているか、またキャリアプランが形成できるかといった部分が重要になってきます。

女性最多理由「結婚・妊娠・出産・育児」

前述のとおり、女性が退職するきっかけとして「結婚・妊娠・出産・育児」が24.8%と最大の理由であるのに対し、男性はわずか4.1%です。

近年では、男性の育休制度などを整えている企業も増えていますが未だ結婚や出産により環境が大きく変わるのは女性のほうが多い傾向にあります。そのためこれはある意味では、当然の結果とも言えるかもしれません。福祉・介護職の業務はテレワークが可能な状況は少ないため、出産や育児などでライフスタイルが大きく変わると、今までと同じように出勤するのが困難となる場合が多いのです。

この問題は社会全体の課題として捉えられており、厚生労働省は2022年4月1日から改正法「育児・介護休業法」を施行する計画です。さらに、「令和3年度介護報酬改定」においては、育児や介護による短時間勤務に対して「常勤」として扱うなど、離職せずに働き続けられる環境づくりを進めています。そのため、職場の環境づくりが進められれば、今後はライフイベントに左右されずに柔軟に働き続けられるようになることが期待できます。

事業所側が実践する離職防止策とは?

近年、事業所では離職率を下げ、より長く働き続けることができるようにさまざまな取り組みを行っています。ここではそれらの代表的な取り組みについてご紹介します。

従業員向けの相談窓口を設置

公益財団法人介護労働安定センター「介護労働の現状について(令和元年度 介護労働実態調査の結果と特徴)」によると、「職場での人間関係について特に悩み、不安、 不満等は感じていない」と回答した人の割合が、相談窓口がある場合は40.4%なのに対して、相談窓口がない場合は21.4%と大きく差があることがわかります。

つまり、いつでも相談できる場を設けることで、スタッフの抱えるさまざまな悩みや不満を軽減できることが見えてきます。これは、離職防止に大きく寄与できると考えられ、積極的に相談窓口を置く事業所が増加しています。

また、「経営層や管理職等の管理能力が低い、業務の指示が不明確、不十分である」といった不満を持つ従業員の割合は、相談窓口がある場合は12.2%、相談窓口がない場合だと29.0%でした。これは相談窓口を通じて、経営陣や管理職への不満を具体的に伝えられ、事業所全体の問題として状況改善を図れることが期待できます。男女ともに離職理由として高かった人間関係の問題を、窓口の設置により解消しやすくなると言えるでしょう。

キャリアパスで具体的な人材育成を実行

特定の役職や職位までの道筋を明確に示すことで、スタッフのモチベーションアップを図る事業所も増えています。現在では、多くの企業がキャリアパス制度を導入しており、介護職でも離職率を下げる施策として有効だと考えられています。加えて、これらを画一的に評価する人事評価制度を整えている事業所もあります。

具体的には、「職位・役職に就く道筋の明確化」や「スキル・資格による給与などの明確化」などに取り組んでいるところが多くみられます。自分自身でキャリアプランが立てられることで離職を防止できるとともに、優れた人材の育成にもつながるメリットがあります。

産休・育休制度を完備

最近では産休や育休制度を完備し、取得実績を公開している事業所も増加しています。これらの動きが広がれば、今後、福祉・介護職は産休や育休を取得しづらい、といったイメージを払拭し、新たな人材の獲得も期待できます。

また、男性の育休取得者を積極的に応援している事業所もあるほか、育休後の勤務日、時間などを柔軟に調整し、職場復帰しやすい環境の整備に努めているところもあります。このような事業所なら、女性も長く安心して働き続けることができます。

一方で日本国内では今後、より一層人材不足が進むと言われています。そのため従業員が休暇を取得しても業務が滞ることがないように、入居者の異常を感知する見守りシステムなどAI技術を取り入れた介護ロボットなどが登場しています。これらの技術を活用することは省力化につながり、人材不足を補う手段として有効だと考えられています。

支援金制度を利用し、介護職への復帰を促そう

介護職の方を対象とした支援金制度の活用も有効です。厚生労働省では貸付金制度を提供しており、介護職へ復帰するための資金として最大40万円を借りることが可能です。子どもの預け先を探すための資金や転居費用、通勤用のバイクや自転車の購入費などが対象です(「再就職準備金貸付制度」)。

この制度の特長は、介護職へ復帰し2年間業務に従事すれば、貸付金の返済が全額免除となる点です。厚生労働省のほか、東京都社会福祉協議会にも同様の制度(「離職介護人材再就職準備金貸付事業」)もあります。このような支援を活用し、福祉・介護職への復帰を促してみてはいかがでしょうか。

まとめ

福祉・介護職において離職率が高いイメージがあるものの、実際のデータなどを見ると突出して高いわけではありません。ただ、人間関係などさまざまな理由で早期に離職するケースが一定数存在するのも事実です。

福祉・介護業界の離職率よりも離職理由をきちんと理解し、対策を行うことが大切です。そのうえで、人事評価制度を充実させ、スタッフが働きやすい環境の整備に努めていくとよいでしょう。

株式会社サクセスボード 萱野 聡<< コラム監修 >>
株式会社サクセスボード 萱野 聡
日本通運株式会社、SAPジャパンで採用・教育を中心とした人事業務全般に幅広く従事。人事コンサルタントとして独立後、採用コンサルタント、研修講師、キャリア・アドバイザーとして活躍中。 米国CCE Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー、産業カウンセラー。
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