アクティビティに基準を置いたワークスタイルとして「ABW」という働き方が注目されています。どのような働き方なのか、またどのように実現すればいいのか知りたいという方は多いのではないでしょうか。そこで、本記事ではABWの概要や導入のメリット、導入時の注意点について詳しく解説していきます。
ABWとは
ABWとは、「Activity Based Working」の略で、日本語でもそのまま「アクティビティ・ベースド・ワーキング」と読みます。アクティビティに基準を置いたワークスタイルで、従業員が仕事内容に合わせて最適な就労場所を選択できる点が特徴です。オランダをルーツとする概念で、欧米企業では人気が高く、日本でも柔軟な働き方への感度が高いグローバル企業を中心に採用され始めています。
仕事内容と就労場所との相性は業務効率に大きく影響します。「資料作りは個人ブース」「ブレストはアイデア出しに便利な設備のあるミーティングルーム」というように、仕事内容に合わせて作業場所を選べる点がABWの魅力です。場合によっては、自宅や近隣のサテライトオフィス、カフェなども選択肢に入ってくるでしょう。仕事内容に応じて、従業員自身が最適な場所を選ぶことで、業務効率を最大化するとともに、クリエイティブも存分に発揮できます。
ABWとフリーアドレスの違いとは
すでに導入している企業も多いフリーアドレスと、ABWの違いが気になるところです。
まず、フリーアドレスは従業員一人ひとりの席を固定化せず、個人がオフィス内の好きなデスクを選んで働くというワークスタイルです。席の固定化による仕事へのマンネリ感を低減し、創造性や革新性を促進するという目的については、ABWの方向性と同じです。
ただし、フリーアドレスの場合は、就労場所の選択肢はあくまで企業の管理が行き届くオフィス内のデスクに限られます。つまり、オフィス出社が前提としており、一般的なオフィスデスクの環境以外での導入は難しいと言えます。
ABWはフリーアドレスの進化系と言えます。仕事内容に合わせて多種多様なオフィスが提供され、リモートワークも可能です。フリーアドレスは創造性や革新性の促進などを目的とする「物理的な環境改善」に焦点が当てられているのに対して、ABWは「テクノロジーの活用」と「従業員の自主性」という2つの要素も重要視しており、より柔軟性の高い働き方を実現できます。
ABWのメリット
ここからABWの導入が企業にもたらすメリットを確認していきます。あらかじめメリットを整理し、従業員への事前説明をすることで、導入時に社内の理解・共感を得やすくなるでしょう。
企業の固定費の削減
ABW導入のメリットとしてまず挙げられるのが、固定費の削減です。オフィス出社の必要性が低くなれば、オフィスを維持・管理するための費用や従業員の通勤手当などを大幅に圧縮できます。出社人数に対して広すぎる会議室など、オフィス内の非効率なスペースを省き、代わりにサテライトオフィスを設置するなど、ワークスペースの合理化も進められます。
オフィス備品についても、数自体を減らせるだけでなく、リモートワークを前提にすれば全体的なスリム化も図れます。具体的には、デスクトップからノートPCに切り替える、インターネット回線や固定電話の契約を無線Wi-Fiやスマホの活用にシフトするなどの方策が考えられます。こうした固定費の削減が積み重なっていけば、結果的に企業の財務状況の改善にもつながるでしょう。
ワークライフバランスの実現
ABWの導入は、従業員のワークライフバランス実現にも効果的です。自宅で仕事ができれば通勤時間が不要になり、時間に余裕が生まれます。
特に効果を実感しやすいのは、子育て世帯でしょう。仕事と家事・育児を両立しやすくなり、子どもと向き合う時間も捻出しやすくなるでしょう。介護や闘病などと仕事の両立を目指す人にとっても、ABWの導入は価値があります。
ABWの導入によってワークライフバランスが改善され、結果的に業務の生産性が向上した事例も数多くあります。まず、時間にゆとりが持てることで心身の健康を維持しやすくなり、仕事に対するモチベーションが上がります。従業員一人ひとりの特性や要望にマッチする場所で働けるスタイルは仕事効率のアップにも貢献します。さらに、自主性が尊重される分、従業員に業務への責任感が芽生えるため、先を見据えて効率的なプロセスを自ら組み立てていける人材の台頭も期待できます。
人材採用がしやすい
ABWを導入している企業は、人材採用においても他社を一歩リードできるでしょう。なぜなら、ABWという従業員一人ひとりの働きやすさに着目した施策を取り入れている先進的な企業として、世間からのイメージが上がるためです。
優秀な人材にも就職先の候補として検討してもらえる可能性が高くなります。そのため、ABWの導入については、採用サイトや公式SNSなどを通じて積極的にアピールすべきです。
また、多様な属性や価値観を持つ従業員が自分らしく活躍できる環境の構築は、離職率の低下にもつながります。リモートワークという形で仕事とプライベートの両立が叶えば、育児や介護がある人でも仕事を続けやすくなるのは想像に難くないでしょう。従業員の定着率の高さは、働きやすい企業であるという証です。従業員満足度が上がれば、リファラル採用における候補者の増加が見込めます。
ABW導入の注意点
ABWの導入は会社が提供する労働環境を大幅に変えなければなりません。あらかじめ次の2つの注意点について対処法も考えておきましょう。
リモートワーク環境の構築にコストがかかる
リモートワーク環境の構築には相応のコストがかかります。在宅勤務用のIT環境の整備や仕事内容に合わせたワークスペースの提供などの初期費用がかかるため、全社一丸となって計画的に取り組む必要があります。
ほかにも職種によってはハイスペックのデスクトップパソコンや大型モニターなどが必要になってきますし、必要に応じてサテライトオフィスの設置も検討すべきでしょう。就労場所がオフィスの外へと広がるので、万全を期したセキュリティ対策も必要です。
環境整備だけではなく、従業員にABWという働き方を理解してもらうための教育コストも低くはありません。導入の意図や目的を従業員が理解していない状況では、導入前と同じワークスタイルで仕事をしてしまう可能性があります。そのため、導入後に従業員へのアンケートを実施して不満や改善点に対応していくなど、継続的な環境構築が求められます。
仕事の成果がわかる人事評価制度が求められる
ABWの働き方に見合う人事評価制度への見直しも必要です。リモートワークでは仕事のプロセスが見えにくくなるため、生産された成果物を適切に評価する仕組みが求められます。
また、働き方が変われば、仕事で重視されるスキルや能力の定義も変わってくるでしょう。ABWでは従業員の自主性に委ねられる割合が増えるため、従業員の自発性を評価する仕組みも検討が必要になるでしょう。
まとめ
ABWは効率的な働き方を実現する一方、従業員の自主性に委ねられるため、多くの場合、人事評価制度も個人の成果や自発性を評価するものに再考する必要があるでしょう。
しかし、その労力の半面、従業員の満足度向上や離職率の低下、明確な人事評価制度の構築に至るなど、メリットも多くあるでしょう。
日本での職場環境は大きな変革期を迎えています。これを機にABWの導入も真剣に検討してみてはいかがでしょうか。
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