目標管理制度の功罪

 2019.05.06  AJS株式会社

現在、多くの企業で導入されている、目標管理制度(MBO~Management by Objectives~)は、社員自らが目標を設定・管理し、達成度に対して評価を行うマネジメント手法です。有益だからこそ導入される制度ですが、デメリットも理解した上で運用しなければ、思うような功績を上げられずに、形骸化してしまう恐れもあります。今回は、目標管理制度のメリットとデメリットについて、ご紹介します。

目標管理制度(MBO)のメリット

導入理由となる目標管理制度のメリットには、どういったものがあるのでしょう。

モチベーションの向上

目標管理制度は、上司と相談しながら自ら目標を設定し、目標を達成するまでのプロセスも考え、さらに自己評価もするという、社員に自主性を求める手法です。上から降りてきたノルマの達成と違い、自分自身で考えた目標に向かって取り組むことで、社員のモチベーションの向上が期待できます。

また、目標は、会社の経営戦略や部門の目標と照らし合わせた上で設定します。目標の達成によって会社・部門への貢献度を感じることができるため、経営に対する参加意識も向上します。モチベーションや参加意識といった仕事に対する前向きな姿勢は、会社の業績だけでなく、社員の定着率にもつながっていくものです。

社員の能力を引き出す

目標管理制度における目標は、達成するためのプロセスや難易度も設定します。

容易に達成できる、あるいは到底無理であろう目標ではなく、創意工夫等の努力によって成し遂げられる、「チャレンジ精神を育む」難易度に設定することで、社員の能力を引き出すことが可能です。

ちなみに、能力向上の対象は一般社員だけでなく、上司も含まれます。

目標の設定には上司との擦り合わせ・相談が欠かせませんし、目標達成のプロセスも評価対象となるため、上司は部下の行動について、常に気を配る必要があります。

評価結果を通知する際も、普段からコミュニケーションをとり、部下との信頼関係を構築していなければ、次の評価期間に向かって、モチベーションを上げるような面談は難しいでしょう。

目標管理制度は、管理職のマネジメント能力についても期待できる手法という訳です。

会社と個人の双方にメリット

評価期間が定められ、明確な目標や達成基準を設定・評価する制度のため、昇給や昇格などの人事処遇に利用しやすいことも、メリットと言えます。

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「人事評価制度見直し」決断する前にやること

また、評価を繰り返すことによって、社員個々の成長や能力データが蓄積されていくことから、雇用計画などへの利用も可能となっていきます。

社員個々の「モチベーション向上」「能力向上」は、会社全体の業績を向上させ、組織として成長する要素です。また、明確な根拠となる評価結果を人事処遇に活用すれば、社員の納得度も上がり、従業員満足度が向上します。

目標管理制度のメリットは、会社だけでなく、社員にも返ってくるメリットであると言えるでしょう。

目標管理制度(MBO)のデメリット

目標管理制度を有効に運用するには、デメリットに対する意識も必要です。

ノルマ管理となってしまう可能性

本来の目標管理制度は、目標の達成よりもプロセスを重視し、社員や会社の継続的な成長に期待するマネジメントツールですが、「評価は人事処遇の判断材料に過ぎない」という間違った認識が、目標管理制度を目先の利益を追う「ノルマ管理」にしてしま可能性があります。

目標が明確で、達成の有無が明白であるメリットも、「ノルマ管理」という誤認に陥りやすい点でしょう。その結果、社員は目標としている業務以外を軽視し、周囲との協力体制やコミュニケーションの構築が崩れてしまう恐れがあります。

このデメリットを回避するには、目標設定項目にプロセス要素を盛り込むこと、協力や教育についての目標項目を置くこと等の対策が考えられます。また、目標管理制度自体の目的・意義を理解する機会を設けることも大切です。

モチベーション低下

人の思考は千差万別です。

目標を掲げたことで気合いの入る社員もいれば、「達成できないかも」と不安に駆られ、モチベーションを下げ、パフォーマンスダウンする社員もいるかもしれません。

目標を上司に押し付けられた場合も、社員の自主性が尊重されないことから、同様の恐れがあるでしょう。

これらモチベーション低下の対策には、上司が目標管理制度の目的を理解し、いかに部下の不安を払拭するか、社員にとって最適な難易度の目標を共に作り上げるかがポイントです。

また、モチベーション低下は目標設定時とは限りませんから、部下の業務の進捗状況を把握し、必要に応じたフォローやアドバイスも欠かせません。

部下のモチベーション維持は、上司のマネジメント能力が問われるポイントでもあるでしょう。

導入・運用の難しさ

目標管理制度を導入するにあたり、会社に合った形で運用する難しさというのも、考え方によってはデメリットかも知れません。

「評価業務の比重を増やすことに不満が上がりそう」

「評価者のレベルを一定にすることは困難では」

導入にあたり上記のような不安が考えられますが、導入の目的・意義を共有する説明会や、評価者研修の実施などの方法があります。これらにより、目標管理制度がもたらすメリットを理解・納得できれば、導入・運用の壁も低くなるはずです。

社員個々のモチベーションや能力の向上から、強い組織作りを期待できる目標管理制度ですが、誤った運用をすれば、形骸化するどころかマイナスに働くリスクも秘めています。

目標管理制度の目的・意義を理解し、リスクを知った上で正しい運用をすることが重要です。

<< コラム監修 >>
株式会社サクセスボード 萱野 聡
日本通運株式会社、SAPジャパンで採用・教育を中心とした人事業務全般に幅広く従事。人事コンサルタントとして独立後、採用コンサルタント、研修講師、キャリア・アドバイザーとして活躍中。米国CCE Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー、産業カウンセラー
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