多くの日本企業では、「目標管理制度(MBO)」をベースにした人事評価制度を設計しています。MBOとは従業員を正当に評価するための仕組みで、従業員自らが目標に向けて業務に取り組む社内体制を実現するマネージメント手法です。本記事ではMBOの特徴や導入メリット、実施方法について紹介します。
目標管理制度(MBO)による評価制度とは?
「MBO(Management By Objectives)」とは直訳で「目標によるマネージメント(管理)」を意味し、従業員が個人またはチームごとに設定した目標を基に、評価を決める人事評価制度のことです。
MBOでは、設定した目標の進捗や具体的な行動指針、達成率を組織ではなく個人またはチーム単位で管理します。そのため、トップダウンで目標を課す従来のノルマ制度と異なり、従業員の自律性が尊重されます。
MBOは通常、以下の手順で運用・実行されます。
- 従業員が個人またはチームでの目標を自主的に設定する
- 経営層や管理者と人事面談を行い、目標設定が適正か判断する
- 目標を達成に向けた活動を開始し、上長は経過観察をする
- 目標の達成状況を基に行動を評価する
従業員は直属の上司と面談を行う中で、目標設定に無理がないかを確認・調整しながら、達成に向けて業務に勤しみます。上司は従業員とのコミュニケーションを密に取り、経過観察を行いながら、モチベーションを維持できるように動機付けを行います。
達成状況に合わせて適正な評価を行い、給与面や役職等の処遇を決定することで、不公平性を排した納得性の高い人事評価が実現します。
目標管理制度(MBO)のメリット
MBOでは、設定した目標の達成度だけでなく、プロジェクトに対する貢献度や取り組み、勤務態度などを客観的な視点で評価します。これをベースに人事評価制度を設計することで、「モチベーションの向上」「人材育成」の点で大きなメリットが得られるのです。では以降、MBOの導入によって得られるメリットをそれぞれ解説します。
従業員のモチベーション向上
従業員自らが定めた目標の達成に向けて行動を起こす仕組み上、内発的な動機付けが起こりやすく、自身の内側から発生する関心ごとが動機として働きます。これにより、外的要因である報酬や名声といった動機よりも、パフォーマンスを継続して高めることが可能です。
また、MBOによって従業員は、目標に対して自発的な行動を起こすようになるため、目標達成に向けたモチベーションの向上が期待されるのです。モチベーションが上がることで生産性の向上に寄与し、組織活性化にも大きく貢献します。さらに、取り組む業務が明確になるため、作業効率の改善も見込めるでしょう。
従来のトップダウンで決められたノルマ制度では、従業員一人ひとりに適した目標になっていないことも多く、無理な設定になっていることも珍しくありませんでした。結果、組織に対する不満が溜まり、意欲低下を招いてしまう恐れへつながりました。そういった問題もMBOであれば改善することが可能です。
人材育成に役立つ
MBOの目標を設定する際は、簡単に達成できる内容ではなく、難しすぎない程度の少し高めの目標に設定することがポイントです。現時点の業務方法では達成することが難しい内容でも、上司や先輩のアドバイスとサポートによって、スキル向上を継続的に行える環境が構築できます。従業員のパフォーマンスを最大限に引き出すために、従業員の能力やスキルを考慮した目標を定めましょう。
また、上司と部下が定期的にコミュニケーションを取る場を作ることで、部下の能力を把握するだけでなく、部下のコミュニケーション力や情報収集力の育成も可能です。
さらに、自らの状況を客観的に見て、具体的な目標を自主的に定める環境は、従業員が自身の強みを認識して行動を起こすきっかけにもなり得ます。そのため、能力開発の面でもMBOは有効に働きます。なお、その際は、従業員の行動が間違った方向に向かっていないか確認できるよう、定期的に面談の場を設けましょう。
目標管理制度(MBO)の実施方法
MBOを自社で導入し、成果を出すためにはいくつかポイントがあります。ここでは、目標の設定方法から管理方法、フィードバックの仕方について紹介します。
目標設定
MBOにおいては、トップダウンではなく、「従業員個人やチームが自主的に目標を設定すること」が重要なポイントです。しかし、従業員が各々自由に目標を設定してしまうと、方向性が定まらず、目標設定の質にも差異が現れてしまいます。そのため、企業や部署など組織レベルでの目標を確認し、組織としての目標を従業員全体と共有することが大切です。
公正な評価ができるよう、従業員一人ひとりの能力をしっかりと把握し、現状の課題や勤務態度、業績などを考慮しながら設定しましょう。また、個人の能力開発を実現するためにも、無理のある目標ではなく、ある程度の壁はありつつも達成可能なレベルで設定することが重要です。
適切な難易度は達成に向けた行動を喚起しやすく、従業員のパフォーマンス向上や生産性向上が期待できます。ひいては組織への貢献にもつながり、業績の向上や組織活性化といったポジティブな変化が見込めます。
目標管理シート作成
目標を設定したら、次は「目標管理シート」を作成して管理しましょう。目標管理シートはMBOで定めた個人目標を管理し、進捗や達成度合いなどのプロセスを記録して、人事評価に活用する役割があります。
行動計画を組み立てるときや進捗状況の確認、フィードバックでも利用されるため、必ず作成し保管しておくことが重要です。また、管理シート自体は紙である必要はなく、Excelなどでも問題ありません。最近では人事評価システムの中に管理シート機能が含まれているケースもあります。目標管理シートには以下の項目を含むことが望ましいでしょう。
- 個人目標
- ウェイト(重要性・時間)
- 評価基準
- 評価欄(自己評価とフィードバック)
- コメント欄(振り返り)
なお、人事評価の材料としても活用する際は、「達成度次第で具体的にどういう評価になるのか」を明確にしておくことも大切です。
定期的な進捗確認
目標を設定し、管理シートを作成したら、その目標の進捗状況を定期的に確認する仕組みを必ず作りましょう。わかりやすい例でいうと、定期的な面談の場を設けるなどが挙げられるでしょう。面談の頻度は組織の規模や企業によって異なりますが、多いところでは月1回のペースで行ったり、企業によっては四半期や半年に一度と開催時期を決めて行ったりしています。
面談では、進捗状況の確認はもちろんのこと、設定した目標に対してどのような行動を取っているかの確認や、ヒアリングによって個人が抱えている課題の抽出なども同時に行います。また、状況に合わせて目標の調整やサポートなどを一緒に行えば、従業員のモチベーション維持の役割を担う場としても機能します。面談を導入する際は、進捗確認を行う頻度や確認事項を事前に明示しておきましょう。
また、面談を実施する上司には、目標管理シートに基づく従業員一人ひとりの適切な目標管理が求められます。トップダウンで面談を進めてしまうと、従業員のモチベーション低下につながりかねません。上司が一方的に部下に話をするのではなく、あくまでヒアリングに重点を置き、部下の話や考えにきちんと耳を傾けるよう心がけましょう。
評価とフィードバック
面談を行う際は、フィードバックを徹底することが大切です。従業員の自己評価と客観的評価とのギャップを正しく理解してもらえるように、必ず上司側の評価を伝えましょう。目標達成までのギャップを理解することで、従業員の成長につながり、与えられた評価に対しても公平性を感じてもらえます。
ギャップを理解してもらえない場合、従業員は評価に納得できず、「しっかりと自身の行動を見てもらえていないのでは?」という不満感を抱いてしまう恐れがあります。評価に対して納得してもらうためにも、フィードバックはしっかりと行いましょう。
また、フィードバックをする際は、数値や成果だけを評価するのではなく、結果に至るまでのプロセスも加味して評価することがポイントです。併せて、組織が従業員に対してどのような成長を期待しているのかも、しっかりと伝えましょう。
まとめ
MBOベースの評価制度を構築することで、従業員一人ひとりに対して適切な目標を設定し、それぞれのパフォーマンスを管理・評価できます。なお、MBOを効率的に行いたい場合は、株式会社AJS提供の人事評価システム「P-TH/P-TH+」の導入がおすすめです。評価制度をシステム化することで、管理シートや評価の進捗確認の効率化が可能です。人材情報を可視化できるため、より適切な評価を行えるようになるでしょう。
- カテゴリ:
- 人事評価
- キーワード:
- 目標管理