同一労働同一賃金ガイドライン案における給与および賞与、福利厚生の待遇差について

 2018.08.13  AJS株式会社

一億総活躍社会に向けた、最大のチャレンジとして位置付けられる「働き方改革」。

労働者側からみると残業時間が抑制されたり、賃金格差が是正されたりとメリットばかりが目につきますが、企業はどのような影響を受けるのでしょうか。

本コラムでは、働き方改革の柱のひとつであり、企業に大きな影響を及ぼすことが考えられる「同一労働同一賃金」について紹介します。 

同一労働同一賃金と何か

同じ労働に対し、同じ賃金を支払うべきとするのが「同一労働同一賃金」の基本的な考え方です。

かねてより、年齢や性別、国籍などの差別待遇を禁止するための原則として使われてきましたが、働き方改革においては、正社員と非正規社員(パート・契約・派遣)の待遇格差に焦点が当てられています。

同一労働同一賃金の目的

働き方改革における同一労働同一賃金の導入は、正社員と非正規社員間の、不合理な待遇の格差解消を目指しています。

非正規社員にとっては、「納得の得られる処遇」や「多様な働き方の選択」が享受できるため、言うなれば、非正規社員の待遇改善のための導入と考えられますが、真の目的は、その先にあります。

非正規社員は、今や労働人口の約4割を占めています。

日本では、非正規社員の賃金が、正社員の時給換算時の約6割であり、欧州の8割と比較して、かなり低い水準にあるのです。

この4割を占める労働者の賃金アップが実現すれば、消費アップも想定できます。

非正規社員の待遇改善は、経済の活性化を目的とした大きなミッションと言えるでしょう。

ガイドラインの内容/今はどうなっているのか

同一労働同一賃金の実現のために、政府は、2016年12月に『同一労働同一賃金ガイドライン案』を公表しました。

ガイドライン案は、「基本給(昇給含む)」「手当」「福利厚生」「教育訓練」の均等・均衡の確保や、「派遣労働者の取り扱い」について、考え方だけでなく、待遇格差がどのような場合に不合理とされるのか、事例で示した内容となっています。

このガイドライン案を基に様々な検討がなされ2018年6月29日に、『働き方改革関連法』が参院本会議で与党などの賛成多数で可決、成立しました。

『月刊人事マネジメント』事例掲載
「人事評価制度見直し」決断する前にやること

同一労働、同一賃金については、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保のため、パートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法が改正され、大企業は2020年4月から、中小企業は2021年4月から導入することとなりました。

改正された内容は以下の3点です。

  1. 不合理な待遇差を解消するための規定の整備
  2. 労働者に対する待遇に関する説明義務の強化
  3. 行政による履行確保措置及び裁判外紛争解決手続(行政ADR)の整備

この制度では、勤続年数や成果、能力が同じなら同額の給料を支払う必要があるほか、各種手当や休暇、研修も同じ待遇にしなければいけません。

もし企業の経営に余裕がない場合には、正社員の待遇を抑えることで、非正規社員との格差を解消するケースも出てくるでしょう。

企業側から見たリスクと問題点

企業にとって特に頭の痛い問題は、非正規社員の賃上げによる原資の調達です。

人件費抑制のために、賃金設定の低い非正規社員を多く配置しているといった企業にとっては、事業自体の存続問題にもつながります。

福利厚生はどうなる

上述の通り、ガイドライン案では、福利厚生についても触れています。

食堂、休憩室、更衣室などの福利厚生施設に同一の利用を求めることはもちろん、転勤者用社宅についても、正社員と同一の要件を満たす場合は、同一の利用を認めるよう記しています。

また、慶弔休暇、健康診断に伴う勤務免除・有給保障、病気休職や法定外休暇(例:リフレッシュ休暇)等も福利厚生ですから、考え方は同じです。

非正規社員とって待遇が改善されることはメリットですが、企業側としては、今まで付与していなかった休暇等が増えることによる、労働力の確保や増大する人件費を考える必要があるでしょう。

同一労働同一賃金ガイドライン案における給与および賞与、福利厚生の待遇差について

企業が取るべき対応の選択肢

同一労働同一賃金の実現が目の前に迫っている中、企業が取るべき対応には、どのような選択肢があるのでしょうか。

今の賃金格差を正当化する

同一労働同一賃金の法制化は、正社員と非正規社員間に賃金格差がある企業に対し、その格差が合理的であることの立証責任を求めます。

つまり、賃金格差の正当性が合理的に説明できなければ、認められないということです。

立証責任のためには、賃金の基準となる職務や能力、責任範囲などを明確化し、それを基に賃金テーブルの整備や見直しが必須となります。

従業員の数を減らす

非正規社員の賃金アップに対し、従業員数を減らすことで人件費の抑制を図る考え方です。

ICT導入や業務プロセスの見直し、能力開発などで、1人当たりの労働生産性向上への対策を同時進行する必要があります。

商品、サービスを値上げする

言葉通りの対策ですが、自社都合の単純な値上げでは、顧客の選択肢から外される恐れが高い方法です。

他社にはない独自性やブランド力の強化、商品価値の見える化などの同時進行が求められます。

正社員の給与水準を下げる

経済活性化を考えると政府の意図する方向性ではありませんが、他の方法がなく、事業存続の危機につながるのであれば、この方法を選択する場合もあるでしょう。

賃下げは就業満足度を引き下げる材料となりますから、慎重な見直しが求められます。

キャリアアップ助成金について

非正規社員のキャリアアップなどを促進するため、正社員化や処遇改善の取組を実施した事業主に対して助成する制度です。

申請には、事前に「キャリアアップ計画」の作成や、就業規則の変更後6か月以上正しく運用されているかなどの条件があり、準備だけでも相当な期間が必要です。

申請後も助成までに時間を要する場合がありますから、助成金検討は早め取り組むべき対応策でしょう。

同一労働同一賃金の導入では、企業に多くの対応が求められます。

現状の賃金基準や就業規則の整備・見直し、労働生産性向上のための能力開発、助成金の申請はもちろん、今後の採用計画や評価と報酬の見直し、人材配置に大幅な変更が必要な企業もあるでしょう。

人事部門の負担増は容易に想定できますから、対処すべき課題を洗い出して対策を講じたり、専門家に助言を求めたりと、早い段階からの対応が必要です。

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