売り手市場は、企業に採用難や人材流出をもたらし、人材不足といった問題を引き起こします。
人手不足に悩む企業が採用活動を行っても、希望する人材が見つからなかったり、応募自体の数が少なかったりで悩んでいる経営者や人事担当者はかなり多いはずです。
こうした深刻化する人材不足から脱出するには、どのような方策が必要なのでしょうか。
本当に売り手市場なのか(人材不足でいる企業の割合は?)
有効求人倍率があらわす昨今の数字(平成30年4月時点で1.59倍)は、売り手市場であることを示しています。ところが、この倍率はハローワークで受け付けられた求人数と求職者数で算出される労働需給の平均値であり、新卒(新規学卒者)は含まれないこと、求人公開先がハローワークだけではないことを念頭に置く必要があります。
また、5000人以上の企業は常に求人倍率1.0未満であるのに対し、300人以下企業では、過去10年近く3.0以上であり、近年ではその倍以上の求人倍率を示しています。
つまり、大企業では買い手市場、中小企業にとっては超売り手市場という現実が見えてきます。
中小企業の割合(99%以上)を考えると、ほとんどの企業にとっては売り手市場だということです。
新卒の採用のみならず、中途採用においても、企業規模における労働需給の格差は大きいと考えられます。
どんな業界が売り手市場なのか
求人倍率は、業界によっても大きく異なります。
厚生労働省『職業別一般職業紹介状況(平成30年4月分)』を見ると、建設関連の職業や、生活支援・介護の職業、飲食・接客関連の職業は、極めて求人倍率が高く、3~4倍、中には10倍を超える職業も存在します。
つまり、建設業界、介護業界、飲食業界は、かなりの売り手市場です。
オリンピックを控えた建設ラッシュや高齢化社会である現状、ワークライフバランスの取りにくい職種への敬遠などの理由から、数値を見なくても実感できるかも知れません。
また、どの業界でもIT化が進められていることから、情報処理・通信技術者の職業も2.33倍となっており、情報サービス業界も売り手市場と見て間違いないでしょう。
売り手市場はいつまで続く?
労働需給は景気に左右されるものですが、現在の売り手市場には、日本の人口構造も関係しています。
事業存続には人材の新陳代謝バランスが重要ですが、少子高齢化で、採用したい若手の減少が確実なのですから、よほどの経済ショックがない限り、現状の売り手市場は続くと考えた方がよいでしょう。
売り手市場 企業にとってのメリット・デメリット
企業にとって、売り手市場が人材不足をもたらすデメリットであることは言うまでもありませんが、考え方によってはメリットもあります。
採用難や人材流出の危機は、ライバル社でも同様です。
ライバル社に先んじて優秀な人材を確保できれば、今までの競合関係が大きく変化する可能性があります。
人材確保で優位に立てば、人材不足に悩むライバル社に対して大きなアドバンテージになりますし、その後の人材獲得にも好影響を与えるでしょう。その結果、将来的な事業拡大の可能性も見えてくるかも知れません。
売り手市場でも優秀な人材を確保するための対策とは
優秀な人材確保の対策には、2つの視点が必要です。
採用方法の見直し
新卒・中途を問わず、求職者が1社に狙いを定めて就職活動をすることは、ほとんどありません。
希望の業界や職種、就業条件などを鑑みて複数社ピックアップし、比較検討の上で応募をしますから、まず、複数社の中に自社を選んでもらうことが大前提です。
そのためには、就業条件の見直しをはじめ、選考中に応募者が離れないための工夫や自社の魅力のアピール、遠隔地でも容易に面接ができる手法を取り入れるなどの対策が必要でしょう。
求人を掲載する媒体の再検討や、人材紹介会社の活用、自社で採用サイトを持つことも有効です。
また、優秀な人材確保が目的ですから、「自社にとって優秀な人材」を定義し、採用基準を明確にすることも欠かせません。
人事評価制度を活用し、自社で活躍する社員の特徴を洗い出せば、ぼやけていた採用基準に輪郭が現れ、採用のミスマッチを防ぐことができます。
人材流出を防ぐ
人材不足は、採用難だけでなく、人材の流出によっても発生します。
特に、優秀な人材の流出は、直近の売上や技術力の流出にも繋がります。企業にとって採用難以上に命とりとなる恐れがあるため、流出対策は採用方法の見直しと同時進行すべき重要なミッションと言えるでしょう。
社内に潜む人材流出の要因を見つけ、それらを解消するためには、離職の多い部門や離職者の傾向を調査して、人事評価や昇給・昇格制度、就業条件などを見直す必要があります。
また、就業環境や福利厚生を整え、就業満足度を上げることも大切です。
優秀な人材が、何をモチベーションとしているか調査すれば、対策の優先順位も見えてくるでしょう。
人材不足問題は社外に目を向けがちですが、社内に目を向けることも重視すべきということです。
ちなみに、就業条件の見直しで最初に思いつくであろう「賃金の見直し」は、必要な対策ではありますが、賃金アップで集まる・留まる人材は、より魅力的な賃金の企業が見つかれば流出しますから、安易な賃上げは、自社を苦しめる材料となってしまうかも知れません。
売り手市場を傍観するだけでは、採用難と人材流出を招き、事業縮小どころか人材不足倒産も現実のものとなってしまいます。
世間一般の求人倍率にも意識は必要ですが、属する業界や自社の現状を見つめ、長期的な対策を講じる必要があるでしょう。
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