人事評価がいらない評価方法として注目されているのが「ノーレイティング」です。正確には人事評価はなされますが、その手法は、社員のモチベーションを高め、チームのパフォーマンスを向上するという画期的なものです。
ノーレイティングとは何か、メリットやデメリットも含めて紹介します。
ノーレイティングとは
各企業の人事評価は、長期にわたり「A・B・C」などと社員にランクを付け、それに比例した報酬を与えるという人事評価を採用してきました。ランクに基づいて給与が決定するため、社員もランクアップに躍起になるのは当然です。また、評価をする管理職や人事部門も、適正な評価ができているのだろうかと迷いながら社員を評価していたことも事実です。
今日、アメリカの各企業で採用されはじめたことで注目されているのが「ノーレイティング」と呼ばれる評価手法です。
"No Rating(ランク付けなし)"の意味のとおり、ランクという概念を用いずに社員を評価するという手法です。
そうは言っても全く人事評価を行わないという意味ではありません。ランク付け(Rating)と、年次での社員の総合評価をやめるという動きを指しています。
この新しい評価方法が広まりつつある背景には、従来型の評価方法では期待したほど企業の生産性が向上しなくなっているといった人事制度の限界や、目まぐるしい環境の変化などがあります。
従来の方法では、社員はランクの下降を免れるために失敗を恐れ、思い切った挑戦をしなくなってしまいます。挑戦するより無難にやり過ごし、給与を維持する方を優先する社員が増えるのも当然です。すると、個人や組織としてのパフォーマンスが低下する危険性も出てきます。
また、ビジネス環境は常に目まぐるしく変わり、変化のスピードも増しています。そのため、会社の方針転換や新たな目標設定などに対しても社員は機敏に対応をしていかなくてはいけません。頻繁な評価やコミュニケーションを行うことで社員を鼓舞し、モチベーションを高めるようにすることで、現場が活性化し社員が新しい挑戦をしていける環境の整備が求められます。
このような理由から、ランク付けを用いないという新しい手法が脚光を浴びているのです。
人事評価がいらないということではない
ラベル付けしないといっても、評価自体はなされます。しかし従来の方法と違うのは、リアルタイムで目標設定を行い、上司からフィードバックをもらい、評価をその都度受けるということです。このような面談を日常的に行いますが、年次での総合評価はありません。
ノーレイティングの特徴
従来型の目標管理・人事評価は、新しい手法によってどう変わるのでしょうか。
年初の目標設定は、リアルタイムに設定していきます。目標の変更や再設定も頻繁に行われます。中間レビューは、2週間に1回など定期的に月に数回、上司と1on1(1対1)面談を行い、フィードバックを受けます。年次評価を廃止し、総合評価は行いません。また、従来型の目標管理では、期末にまとめのフィードバックを受け取りますが、ノーレイティングでは1対1の面談で終わっているため、行いません。
リアルタイムのレビューやフィードバックは、上司との1on1面談の中で行い、相互の信頼関係を構築していきます。上司が部下にアドバイスしたり、部下から相談事を持ちかけたりしながら自然体でコミュニケーションを行います。
ノーレイティングのメリット・デメリット
ノーレイティングにはデメリットもあるため、導入の検討は慎重に行うべきです。
社員の評価への納得やモチベーション向上などがメリット
社員は常に上司とコミュニケーションをしながらフィードバックを受け取っているため、不明点や疑問点が生まれると、すぐに解決ができます。そのため上司からの評価を納得して受け止めることができます。また、従来型の人事評価ではどうしても相対評価にならざるを得ず、チームの誰かにはC評価を与えなくてはならないこともありました。しかしこの手法では、評価の決裁権を部門長などに譲渡することで、成果を上げたチームの全員に高い評価を付けることもできます。
また、1on1面談で定期的にフィードバックを受け取るため、給与アップのような外的な動機づけではなく、社員のやる気を引き出す内的な動機づけができ、チームとしての生産性の向上も期待できます。
管理職にかかる負担や社員の混乱リスクなどがデメリット
従来型の人事評価では、特に期初と期末に手間や負担がかかるものの、それ以外の期間は時間を費やさなくてもよい、という状況にありました。
ノーレイティングでは、月に数回、定期的に面談を行う必要があり、人事評価に多くの手間や時間を取られます。また、常に人を評価し続けている状態になるため、責任の重さから精神的な負担を感じることも多くあるでしょう。
社員側にとっては面談が定期的に行われるため、その度に新たな目標設定や変更も頻繁に発生するかもしれません。それによる混乱のリスクも考えられます。
上司と部下とのコミュニケーションの機会が増えることは望ましく、業務変革も起きやすい、というメリットがあります。しかしその一方で、部下からのアピールも多くなり、頻繁な人事評価の時間や精神的負担が増し、管理職としての他の業務に支障をきたすというデメリットが生まれてしまうリスクもあります。
ノーレイティングは普及する?今後の人事評価制度について
ノーレイティングは国内でも普及していくのでしょうか。今後の人事評価制度にもたらす影響を考えます。
完全なノーレイティングの早期普及は難しいと考えられる
マイクロソフトやGEなどが導入し、日本でもP&G Japanや日本マイクロソフトなどが導入しはじめています。今後は日本企業でも普及が進む可能性があります。
一方、上述のとおりデメリットや課題もあるため、そのまま現在の人事評価制度の替わりとして即座に導入するのは難しいという側面があります。
ノーレイティングは、決められた項目に沿って評価を行うものではないため、管理職側の判断にゆだねられる領域が広くなります。給与の金額そのものの決定を管理職に委ねるケースもあります。そのため、評価する人物の管理能力が高くない場合は、不適切な評価をしてしまったり、部下が納得できない内容になったりすることがあります。
導入のためには管理職に十分なマネジメント教育を施す必要があり、時間を要するため、早期に普及が進むとは考えにくい面があります。
まずはコミュニケーションの観点から制度を改善
新しい手法を取り入れていっきに人事評価制度の改革をするということではなく、コミュニケーションの促進という観点で少しずつ導入することで、従来の制度を見直していくということもできます。
仮に、ランク付けの制度を残したままであったとしても、月に数回の1on1面談を取り入れて、上司と部下のコミュニケーションを活発化することは可能です。
在宅やサテライト勤務などのテレワークが増加する中、コミュニケーションの重要性やモチベーションの維持などがますますクローズアップされるようになりました。そのため、社内の活性化や上司部下の活発なコミュニケーションの促進という意味で、うまくこの手法を取り入れていきながら、従来の制度を少しずつ改善していく、ということがポイントといえそうです。
まとめ
有名企業が採用している評価方法「ノーレイティング」が日本で普及するのはもう少し先と言えそうです。しかし、メリットのひとつである社内コミュニケーションの促進という点に着目し、社員のモチベーションを高め社内の活性化を行う、という取り入れ方も一案です。今後は、目まぐるしく変化するビジネスニーズへの対応や社員のパフォーマンス向上のため、評価も柔軟に対応していくことが求められるでしょう。
<< コラム監修 >>
株式会社サクセスボード 萱野 聡
日本通運株式会社、SAPジャパンで採用・教育を中心とした人事業務全般に幅広く従事。人事コンサルタントとして独立後、採用コンサルタント、研修講師、キャリア・アドバイザーとして活躍中。 米国CCE Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー、産業カウンセラー。
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