コンピテンシー評価とは? 人事評価導入時の注意点を解説

 2021.01.29  AJS株式会社

コンピテンシー評価とは、優秀な成果を上げている人材の行動特性に照らし合わせて人事評価を行う手法です。コンピテンシー評価で職務の規範を具体的に示すことで、個々のパフォーマンス改善はもちろん、企業全体の業績向上にも期待できます。この記事では人事評価にコンピテンシー評価を導入する際のポイントや注意点などについて解説します。

コンピテンシーとは

まず「コンピテンシー」という語句の意味や、人事評価の場面でコンピテンシー評価が取り入れられてきた背景について詳しく見ていきましょう。

コンピテンシーとは

企業活動における「コンピテンシー」とは、一般的には優秀な成果を上げている人材に特徴的に見られる行動のことを指しています。心理学用語としては1950年代に存在していましたが、この概念をビジネスや人事評価の分野に持ち込んだのがハーバード大学の心理学者デビッド・マクレランド教授です。

マクレランド教授は1973年に発表した論文で、通常の知能テストや適性テストではビジネスでの成果やその他の社会活動における成果を推し測ることができないことを指摘しました。そして、米国務省などの委託を受け外交官について実証研究を行い、高いパフォーマンスを上げる人材に共通する特徴的な行動特性があると結論づけています。

つまり、業務上の成果を予測するためには、個人の能力や資格、思考力といった部分ではなく、現実に行動している内容や行動しようとする意志や態度の部分を見極めることが有効であるのです。

そのため、コンピテンシーは職務や業種などによって全く異なる形になることが自然です。こうして組織の理念や戦略を実現するのに最適な行動モデルとしてのコンピテンシーが設定され、人事評価の基準となる軸として据えられることになります。

コンピテンシー導入の背景

日本でも1990年代後半あたりから従来の年功序列型の評価や待遇に替わり、成果主義制度への移行が進んできているといわれています。

これには、豊富な知識や学歴が高いことが、実際の業務成果と必ずしも相関しないことが社会的に認識され始めたことも背景にあります。

しかし、年功序列ではなく、成果を基準にして人事評価を行う場合、行動評価や能力評価と業務成果を一定のルールで紐づける必要があります。ここで、コンピテンシーの概念が日本でも導入されるようになったのです。

理想の人材が取りうる行動を規範とするコンピテンシーの考え方は人事評価制度の分野だけではなく、人材育成の観点でも活用されています。マクレランド教授が提唱した内容には、優秀な人材の行動を反復したり模倣したりすれば優秀な人材の業務能力を獲得することができ、組織全体のパフォーマンス向上につながるといった内容も含まれています。

人口減少などを理由とする慢性的な人材不足が叫ばれる中、より少ない人数で業績を上げるために、優秀な人材を育てて個々の従業員の生産性を高める方法としてもコンピテンシーの概念と理論が注目されるようになったのです。

コンピテンシーを評価に導入するメリット

では、人事評価の分野でコンピテンシーの概念を取り入れて評価を行うメリットを「企業全体への影響」「評価の公平性」「経営ビジョンの共有」3つの観点から見てみましょう。

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企業の中長期的発展に貢献

コンピテンシーの概念を評価基準に導入することで、優秀な人材を持続的に育成するための手法としても活用できます。

コンピテンシーの概念から導き出される行動内容を軸にすることで、教育すべきポイントや強化すべき行動が明確化され、効果的な目標管理につなげやすくなります。

そして、中長期的な観点で企業にとって重要な行動をコンピテンシーとしてプラス評価することで、従業員個人の目標達成が組織の発展に結びつく状態を作ることができます。

また、評価項目として具体的な行動内容を記載しておくこと自体が、成功の法則を分かりやすい形で全社的に共有することでもあります。これは、業務の属人化を回避して、特定のメンバーに依存しない強靱な組織を形成することにもつながるのです。

公平性を高める

コンピテンシーの導入は、従業員間の評価の公平性を高める効果もあります。評価をしやすい要素としては営業成績など数値に表れる「業績」や「成果」がありますが、これらは担当している顧客の状況に左右されることも多く、個人の努力だけでコントロールできない要素があります。ですから、これらの数値のみで評価を行うと、従業員のモチベーション低下を招く場合もあります。

コンピテンシーに照らし合わせて業績の数値だけによらない基準で評価を行うことで、公平性を高めることができます。コンピテンシーに基づく評価やフィードバックは、従業員の納得感も生まれやすく、次の目標に向けてポジティブに取り組む姿勢につながりやすくなるという見方もできます。

経営ビジョンの明確化

コンピテンシーを定義するためには、経営陣が考えているビジョンや理念の達成に重要な能力や行動を特定して言語化する必要があります。つまり、コンピテンシー評価を導入する過程で、企業が社員に期待する人材像やスキルを明確にした上で、その詳細を広く共有することができるという効果もあります。

従業員にとっても、評価項目がはっきりして行動の指針を立てやすくなることで、日々の業務にも意欲的に取り組みやすくなり、その結果、企業全体のパフォーマンスを向上させることが可能になるのです。

コンピテンシーを人事評価に導入する時の注意点

このように、コンピテンシー評価の導入によって多面的な効果をもたらすことが期待できますが、導入にあたっては注意したい点もあります。

環境変化に弱い

コンピテンシーの概念を取り入れた評価は、評価基準を明確にできるという利点がありますが、その反面、事業やビジネス環境の変化に適応しにくいという弱点があります。環境や事業が変われば、重要となる行動特性も変わる可能性があるからです。

現代では業界の枠にしばられない競争も激しく、ITの発展と普及なども伴って短いスパンでさまざまなことが変化していく時代です。コンピテンシー評価は、一度導入したら完了というわけではなく、定期的に見直していくことが大切です。

人事部門としても注力すべき領域にアンテナを張り、より良いコンピテンシーのあり方を模索していきましょう。各事業部などと綿密に連携し、状況に応じて最適な制度となるように調整していくことがポイントです。

導入そのものが難しい

コンピテンシー評価はすぐに導入できるわけではありません。導入する場合には、まず、個々の企業で実際に働いているハイパフォーマーが誰であるかを特定した上で、その行動特性を洗い出し分析することから始めることになります。

その分析結果に従って自社オリジナルの「評価基準」「評価モデル」を作り上げ、実際の運用に生かしていくという手順です。コンピテンシー評価で使用するこの「評価基準」は、既成のモデルを転用するのではなく、自社の事情に適合するオリジナルの基準を作成することに意味があります。

この評価基準を作成するまでの作業に時間と手間がかかるため、導入のハードルが高くなる部分もあります。

主観が入りやすい

コンピテンシー評価では、客観的な評価がしやすくなる手法ではありますが、それでも、人間が評価を行う以上、評価者の「主観」を完全に排除することは難しいと言えます。

評価者も人間であるため、個人的な好き嫌いの感情が入ることもありますし、観察の頻度や判断の正確さに個人差が出ることもあります。

また、環境の変化などで評価モデルが業務の実態からかけ離れために、個々の指標が意味をなさなくなり、客観的な評価が難しくなるといったケースも考えられます。

評価から不適切な主観を排除しつつ客観的な指標を活用して、評価制度のありかたや評価基準を見直し継続的に改善できるかどうかがポイントです。

社員が評価に納得感を持っているか、評価者を信頼できているかなどの点も定期的にチェックを行うとよいでしょう。

まとめ

コンピテンシー評価を導入するにあたっては、企業の業績を上げるために有効な行動規範の抽出であるという本来の目的をしっかりと認識しておきましょう。

コンピテンシーを抽出し、評価項目に落とし込むことで、中長期的な企業の発展を見すえた上での公平かつ適切な人事評価につなげることができます。ビジネス環境の変化などに合わせながら、最適なコンピテンシーを見定め、人事評価制度にもスピーディーに反映するようにしましょう。

株式会社サクセスボード 萱野 聡<< コラム監修 >>
株式会社サクセスボード 萱野 聡
日本通運株式会社、SAPジャパンで採用・教育を中心とした人事業務全般に幅広く従事。人事コンサルタントとして独立後、採用コンサルタント、研修講師、キャリア・アドバイザーとして活躍中。 米国CCE Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー、産業カウンセラー。
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