高度プロフェッショナル制度導入に人事が知るべきポイントとは

 2021.12.01  AJS株式会社

この記事では、高度な専門性を有する職務従事者を対象とした「高度プロフェッショナル制度」の基本概要について解説します。制度の導入に当たって人事部門が行うべき措置のほか、制度導入のメリット・デメリットなども解説します。高度プロフェッショナル制度の導入を検討している企業の方は、ぜひ参考にしてみてください。

高度プロフェッショナル制度とは

「高度プロフェッショナル制度」とは一定の要件を満たす労働者について、労働基準法における労働時間や休日など、一部の規定を対象外とする制度です。高度プロフェッショナル制度は、専門性の高い人材に対して、より自由な働き方を提供する「働き方改革」の一環として捉えられます。

高度プロフェッショナル制度は、欧米における「ホワイトカラーエグゼンプション」(white collar exemption)という就労形態をベースにして、日本流にアレンジしたものです。ホワイトカラーエグゼンプションは、いわゆる「ホワイトカラー」に分類される一部の労働者の仕事は、必ずしも労働時間と労働成果が比例しないという考えに基づいています。つまり、ホワイトカラーエグゼンプションや高度プロフェッショナル制度は、報酬を労働時間の対価ではなく、生産した成果の対価として見る「成果主義」や「能力主義」の考え方に基づく制度と言えるでしょう。

日本は、過剰な長時間労働がしばしば問題になる一方で、主要先進国に比べて労働生産性が低いことで知られています。たとえば上司や他の同僚の顔色を気にして必要以上に残業をする「付き合い残業」などは、日本人の行き過ぎた集団主義がもたらす非合理性の象徴とも言えるでしょう。同じ労働量をこなしているにも関わらず、定時で帰る社員よりも、残業している社員が評価されるといったことは、身近でもよく聞く話かもしれません。

こうした非合理的な働き方や評価体制は、有能な従業員を中心に職場に対するエンゲージメントの低下を招き、さらには労働生産性を落ち込ませてしまうことでしょう。

高度プロフェッショナル制度は、日本企業が陥りがちなこうした悪循環を抑止し、労働者と企業の双方に益をもたらす「働き方改革」として、近年注目を集めているのです。

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高度プロフェッショナル制度導入に人事が知るべきポイント

労働基準法における労働時間などの規制を緩和する高度プロフェッショナル制度は、放漫な運用をすると労働者にとって大きな不利益をもたらしかねません。制度の導入によって、企業による労働者の酷使がむしろ進むのではないかという懸念は早くから囁かれていたことです。それゆえ、高度プロフェッショナル制度には法的な規定がいくつもあります。以下では、このような点に基づいて、高度プロフェッショナル制度を導入するにあたって、企業の人事担当者が知っておくべきポイントについて解説していきます。

裁量労働制と違う点

高度プロフェッショナル制度と混同しがちな制度として、「裁量労働制」という制度が挙げられます。高度プロフェッショナル制度と裁量労働制は、「時間に縛られない」という点では共通しています。その一方、高度プロフェッショナル制度が適用される労働者は、一部の専門性が高い職種や一定の年収要件などを満たす人材に限定されるのに対して、裁量労働制においてはそうした縛りがありません。また、裁量労働制は、従業員のフレキシブルな働き方を可能にする一方で、職務遂行のために必要とされる「みなし労働時間」が設定されており、これを超過して従業員が働いた場合には残業代が発生します。しかし、高度プロフェッショナル制度の場合は、残業代や深夜手当などは発生しません。高度プロフェッショナル制度の導入をするにあたっては、裁量労働制とのこうした違いを理解した上で検討する必要があるでしょう。

対象者

高度プロフェッショナル制度の適用対象となる従業員は、一定の年収要件を満たしていることが必要です。具体的には、高度プロフェッショナル制度の対象従業員に対しては、平均賃金の3倍以上にあたる年収1,075万円以上を支払わなければなりません。また、高度プロフェッショナル制度を導入することによって、対象従業員の収入が以前よりも下回ってしまうことも禁止されています。なお、年収1,075万円以上というのは、支払われることが確実な給与です。成果次第で支払われないことも想定される賞与などはここに含んではいけません。

対象業務

高度プロフェッショナル制度に基づく対象従業員の職務は、労働契約において明確に定められなければなりません。また、制度が適用される業務の範囲や性質も限定されています。まず基本となるのが、すでに何度か触れてきたように、「労働時間と労働成果が比例しない」という職務の性質です。それと同時に、制度名が示すように専門性の高い職務に限られます。具体的には、金融系のディーラーやアナリストの他、コンサルタントや研究開発者などが挙げられるでしょう。

導入方法

高度プロフェッショナル制度を導入するにあたっては、以下のステップを踏む必要があります。

  1. 労働組合を中心とした労使委員会を設置し、そこで5分の4以上の決議採決を得なければなりません。この労使委員会においては、制度の適用業務や対象者の他、就労条件など、制度の実施運用における各種の施策内容の議論も必要です。
  2. 決議した諸内容を反映して、労働基準監督署に所定の様式で届け出をします。
  3. 制度の適用対象者と書面で労働契約を交わします。
  4. 契約した諸条件の下で、対象者を職務に当たらせます。

とりわけ、労働契約を交わす際には、後のトラブルを予防するためにも、各種の就労条件について企業・労働者共に十分な確認を心がけましょう。

実施する措置

高度プロフェッショナル制度においては、労基法の緩和によってフレキシブルな働き方が可能です。しかし、それによってかえって従業員の過重労働が進み、健康被害を出すなどといった事態は避けねばなりません。そこで、高度プロフェッショナル制度の実施に当たっては、「健康確保措置」を講じることが義務化されています。

まず必要なのが就労時間の管理です。事業所で業務に当たる場合は通常の従業員と同様、タイムカードやPCの利用履歴など、客観的手段によって就業時間の管理をしなければなりません。ただし、在宅勤務など事業所外で就労する場合は、従業員による自己申告も認められます。次に必要なのが、休日の確保です。最低でも年間107日以上、4週間で4日以上の休日を与えなければなりません。

上記の「就業時間の管理」と「休日の確保」は、絶対に必要な義務です。また、これ以外にも、以下の「選択的措置」も講じなければなりません。選択的措置の具体的内容は、簡単に言えば、「就業ごとのインターバル時間の確保及び深夜勤務の制限」、「健康管理時間の上限措置」、「年間で連続2週間ないしは1週間×2回の長期休暇の付与」、「臨時健康診断の実施と診断書の労働基準監督署への提出」などが挙げられます。

健康確保措置が十分に講じられていない場合、あるいはその他の要件が基準を満たさない場合は、高度プロフェッショナル制度の運用能力がないとみなされ、労働基準監督署から制度導入の許可が得られませんので注意が必要です。

導入のメリット

高度プロフェッショナル制度を導入することによって、企業と労働者は共に大きなメリットを享受できます。

まず、企業側のメリットとして挙げられるのが、「生産性の向上」です。高度プロフェッショナル制度を導入することによって、企業は無駄な残業代などを払わなくて済みます。従業員は働いた「時間」ではなく、「成果」によって評価されるという意識を持つので、従来の職場で起こりがちだった、業務負担の偏りや非合理な評価方法も改められ、不公平感からくる不満なども抑止できるでしょう。従来の労働時間ベースでの働き方や評価軸は、業務効率に優れた有能な人材ほど不満を溜め込んでいたはずです。高度プロフェッショナル制度を導入することで、そうした有能人材の不満を抑え、離職リスクを減らせるのは大きなメリットと言えます。

従業員側のメリットとしては、とりわけ「ワークライフバランスの実現」が挙げられるでしょう。高度プロフェッショナル制度において、就業時間をどのように配置するかは、従業員側の裁量にゆだねられます。手早く必要な仕事を終わらせて残りの時間をプライベートに当てるといった時間配分もできるので、ワークライフバランスを整えやすく、自分に適したライフスタイルを実現しやすくなります。また、高度プロフェッショナル制度の導入条件の中には、適用対象者の賃金を適用前の水準に減らさないことが含まれているため、賃金が一定以下に下がることを防げるのも大きなメリットです。

導入のデメリット

導入のためにさまざまな必要事項があることからも分かるよう、高度プロフェッショナル制度を導入することにより、かえって新たな問題やデメリットが生じることもあります。

まず懸念されるのが、すでに何度か触れたように長時間労働が増えることです。健康確保措置におけるインターバル時間(11時間)を考慮したとしても、従業員が働き詰めになってしまう可能性は否定できません。過重労働が過労死やうつ病などといった健康被害に繫がってしまうこともあるでしょう。また、高度プロフェッショナル制度においては残業代や深夜手当が発生しないため、長時間労働の横行は、結果として賃金問題を発生させる可能性もあります。

また、基本的に成果主義に基づいて評価を行う高度プロフェッショナル制度ですが、制度対象の職務の中には、研究開発者など成果がすぐに上がらないものも含まれます。成果が出るまでのスパンが大きく異なる職務同士を同一の評価軸に乗せるのは難しく、賃金の適正な評価なども難しくなります。

高度プロフェッショナル制度の導入に当たっては、これらの課題やその対応策をあらかじめ十分に検討しておかなければなりません。

まとめ

この記事では、高度プロフェッショナル制度の概要について解説しました。高度プロフェッショナル制度は、成果主義に基づいて専門性の高い人材を効率的に活用したい場合におすすめの雇用形態です。とはいえ、その運用に当たっては、従業員の健康管理など注意すべきポイントもいくつか存在します。高度プロフェッショナル制度を導入する場合は、十分な検討と対策の下で計画を進めることが重要です。

株式会社サクセスボード 萱野 聡<< コラム監修 >>
株式会社サクセスボード 萱野 聡
日本通運株式会社、SAPジャパンで採用・教育を中心とした人事業務全般に幅広く従事。人事コンサルタントとして独立後、採用コンサルタント、研修講師、キャリア・アドバイザーとして活躍中。 米国CCE Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー、産業カウンセラー。
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