「社員たちにやる気を上げてもらいたい」
「部下の成長を最大限引き出したい」
そんなとき、大きな力を発揮するのが『ポジティブフィードバック』という手法です。
社員の行動や成果などのよかったところを前向きに伝えることで、仕事へのモチベーションにつながり、自信や主体性を育む効果が期待できます。
とはいえ、ポジティブフィードバックは、ただ褒めればいいというわけではなく、伝え方次第でその効果も大きく変わります。
そこで、こちらの記事では、ポジティブフィードバックの効果的なやり方やメリット、すぐに使えるポジティブフィードバックの具体例まで、くわしく解説してまいります。
部下との信頼関係を深め、成長を後押しする“ヒント”を、一緒に習得していきましょう!
ポジティブフィードバックとは
ポジティブフィードバックとは、相手の行動や成果の「よかった点」に着目し、肯定的な言葉で伝える評価手法のこと。
部下のモチベーションを高めたいときや、チーム・組織全体を活性化させたいときに有効です。
ポジティブフィードバックという言葉は、看護や医学界でも用いられていますが、「ビジネス」におけるポジティブフィードバックには、以下の2つの定義があります。
- 相手の意欲や能力をさらなる向上につなげるフィードバック
- 相手にとって望ましい内容のフィードバック
前者は、評価する相手の成長促進を主たる目的としており、後者は、評価する相手の満足感や達成感を高めることを目的としています。
社員一人ひとりのモチベーションが上がることで、企業の競争力向上にもつながるため、上司と部下で行う定期的な1on1ミーティングなどにおいて、ポジティブフィードバックが活用されています。
ネガティブフィードバックとの違い
フィードバックには、ポジティブフィードバックとネガティブフィードバックの2種類があります。
ネガティブフィードバックとは、相手の行動や成果における「問題点」や「改善点」を指摘し、成長を促すためのフィードバックのこと。
ポジティブフィードバックと同じく、社員の成長促進のために用いられますが、コミュニケーションの方法が「肯定的か否定的か」という点が異なります。
※ネガティブフィードバックは、部下にストレスを与える可能性があるため、取り入れる際は少し注意が必要です。
ポジティブフィードバックのやり方
ここからは、ポジティブフィードバックの効果的なやり方について解説していきます。
「褒める」「認める」「伝える」をバランスよく行うことで、部下のやる気や成長を後押しすることができるでしょう。
よかった点を具体的に伝える
ポジティブフィードバックを行うときは、漠然とよかった点を褒めるのではなく、「どこがどのようによかったのか」を具体的に伝えることが大切です。
たとえば、部下が仕事の報告書を提出した際、「この前の報告書、とても見やすかった。“特に、冒頭に要点をまとめてくれたのが助かったよ”」と具体的な一言を添えてみてください。
よかった点を具体的に伝えることで、部下は自分の行動をより深く理解し、自己認識を高めることができるため、仕事の成果の再現性も上がります。
結果だけでなくプロセスも評価する
ポジティブフィードバックでは、結果だけではなく、プロセスも評価することが重要です。
納期までに仕事を終えた部下に対し、“毎日コツコツと進めていたあなたの姿勢が素晴らしい”と過程も認めることで、「自分のことをちゃんと見てくれている」という実感にもつながります。
成果を出すために、その過程で努力していたことや工夫していたことに触れることで、部下の仕事に対するモチベーションはより高まります。
“次”につながる改善点も伝える
ポジティブフィードバックは、「よかった点」を肯定的な言葉で評価する手法ですが、改善点や課題も建設的に伝えましょう。
たとえば、
“資料の内容がとても分かりやすかったよ!そこに図を加えてみたら、さらに説得力が増すと思う”“プレゼンの説明がとても丁寧で聞きやすかった。声に抑揚を少しつけるともっと魅力的なプレゼンになると思う”など、
強みを認めた上で前向きな改善点を伝えると、自然なポジティブフィードバックとなります。
ポジティブフィードバックの中に、前向きな改善策や提案を入れることで、より効果的なフィードバックとなり、部下の成長につながります。
ポジティブフィードバックの型
ポジティブフィードバックをする際、主な方法として「サンドイッチ型」「SBI型」の2つの型があります。
実際に、1on1ミーティングやフィードバック面談でポジティブフィードバックを行うときの参考にしてみてください。
サンドイッチ型
「サンドイッチ型」とは、ネガティブなフィードバックを、ポジティブなフィードバックで挟んで相手に伝えるフィードバック手法のこと。
具体的に指摘したい課題や改善点などがある場合に効果的です。
「ポジティブな内容→ネガティブな内容→ポジティブな内容」の順番でフィードバックを進めるため、部下のモチベーションを下げずに建設的に指摘することができます。
サンドイッチ型の例文:プレゼンに関するフィードバック
ポジティブな内容①:
「説明が分かりやすくて、聞き手を意識して話していたのがとても良かったよ。」
ネガティブ(改善点)な内容②:
「スライドの文字が少し多かったので、要点を絞るともっと集中して聞いてもらえると思う。」
ポジティブな内容③:
「話し方自体は落ち着いていて説得力があったから、ちょっとした工夫でさらに強いプレゼンになるよ。」
SBI型
「SBI型」とは、状況を説明した上で、具体的な行動が、どのような結果につながったか(評価者にどのように見えたのか)を順を追ってフィードバックする手法のこと。
※「状況(situation)」「行動(behavior)」「結果(impact)」の頭文字を取った略称です。
原因と結果を順序立ててフィードバックするため、内容が頭に入りやすいという特徴があります。
また、フィードバックの内容を客観的に伝えることができるため、部下の内省にもつながります。
SBI型の例文:会議での発言に対するフィードバック
【状況(Situation)】
「先週の営業会議で、新しい提案を話し合っていたとき、」
【行動(behavior)】
「あなたは率先して顧客事例を紹介してくれましたね。」
【結果(impact)】
「そのおかげで議論の中身も具体的になって、チーム全体が提案の方向性をイメージしやすくなりました。」
ポジティブフィードバックの具体例
ポジティブフィードバックの効果的なやり方や、活用する際の型についてお伝えしてきたところで、ここからは、ポジティブフィードバックの具体例をシーン別にご紹介していきます。
会議・プレゼンシーンにおけるポジティブフィードバック
「初めてとは思えないほど落ち着いて話せていて驚きました。特に、話すスピードや間の取り方が自然で、聞いていてとても心地よかったです。
目配りも意識できていて、会議中も聴き手とちゃんとコミュニケーションを取ろうとしている姿勢が伝わってきました。
資料もよくまとまっていたと思います。一点、アドバイスをするとしたら、要点を絞ってもう少しスライドをシンプルにした方が、内容がよりクリアに伝わると思います。
全体としてはすごくまとまっていたので、あとは回数を重ねるごとにどんどん自信がついてくると思います。引き続き期待していますよ。」
営業成績に対するポジティブフィードバック
「今月の営業成績、目標をしっかり超えていて素晴らしかったです。
特に、〇〇社との契約に向けて、粘り強くプレゼンを重ねていた姿勢が印象的でしたね。
すぐに結果が出ない案件にも、丁寧に取り組んでいたことが成果につながったんだと思います。
この調子で、来月は既存顧客のフォローも少し厚くしていけると、先方との信頼がさらに深まって長期的な関係につながりそうですね。今後も楽しみにしています。」
新入社員の教育におけるポジティブフィードバック
「新入社員の〇〇さんに対して、主体的かつ丁寧な指導をしてくれてありがとう。
君が日々根気強く声かけやフォローをしてくれてるおかげで、〇〇さんの業務理解や対応力が確実に向上しているのをそばで見ていて感じるよ。
転職して新しい環境で戸惑いの多い中、安心して業務に取り組めているのは、指導係の君の支えがあってこそだ。引き続き、〇〇さんの早期戦力化に向けて、温かく見守ってあげてよ。」
ポジティブフィードバックのメリット
ポジティブフィードバックが、部下や組織にもたらす効果は大きく分けて3つあります。
こちらでは、ポジティブフィードバックを導入することで得られる主なメリットについて、お伝えしていきます。
モチベーションの向上
人は誰しも、他者から褒められると嬉しい気持ちになり、次も頑張ろうとやる気が湧いてきます。
ポジティブフィードバックによって「よかった点」を評価してもらえることで、仕事への自信がつき、モチベーションも向上します。
さらに、ポジティブフィードバックでは、上司から認めてもらえる/期待されていることを部下が感じることで、自己肯定感が高まり、意欲的に仕事に取り組むことができます。
部下の成長を促進
上司からのポジティブフィードバックによって仕事への意欲が高まることは、結果的に、部下の成長にもつながります。
また、上司からの肯定的なフィードバックによって、部下は、自分自身で気づかなかった「強み」や「長所」を自認することができます。
「よかった点」を具体的に認識することで、さらに伸ばしたい/成長したいと考えるようになり、部下の成長を促進することができるでしょう。
良好な人間関係の構築
ポジティブフィードバックをするためには、上司は部下の行動を観察し、「部下のよいところ」をすくい上げることが必要となります。
そのため、「上司から部下へ声をかける機会」や「部下との対話量」はおのずと多くなります。
ポジティブフィードバックによって部下の努力や成果を認めるだけでなく、双方向的なコミュニケーションの機会が増えることで、信頼関係が構築され、良好なチームワークが形成されます。
ポジティブフィードバックの注意点
最後に、ポジティブフィードバックを実施する際の注意点についてお伝えします。
部下のやる気を引き出し、成長を後押しできるよう、以下の3点に気をつけながらポジティブフィードバックを行いましょう。
過度に褒めない
ポジティブフィードバックは、相手の「よかった点」を褒めることが大切ですが、過剰に褒めすぎたり、お世辞に思われたりしないよう注意してください。
「すごい!」「えらい!」と表面的な褒め言葉で終わったり、大袈裟に褒めてしまうと、「この人はちゃんと自分を見てくれているのだろうか?」「本気で言っていないだろうな。」と逆に不信感を与えてしまう可能性があります。
部下の成長を促進させるためのポジティブフィードバックだからこそ、手当たり次第に褒めるのではなく、部下のやる気やモチベーション向上につながる内容を評価することを心がけてください。
時間を空けすぎない
フィードバックするまでの時間が空きすぎてしまうと、部下自身、そのときの状況や成果に対する記憶が薄れてしまい、ポジティブフィードバックのよい効果を得られないことがあります。
ポジティブフィードバックは、伝える内容だけではなく、伝えるタイミングもとても重要です。
成果が出た直後や、部下の「よかった点」に気づいたら、できるだけ早く伝えることで、ポジティブフィードバックの効果を高めることができます。
主観的な意見ばかり言わない
ポジティブフィードバックには、相手の行動を認め、モチベーションを高める効果がありますが、主観的な意見や感想ばかり伝えてしまうと、信頼度が下がり、相手への説得力も薄まってしまいます。
また、部下自身も「どこが評価されたのか」がわからず、再現性のある学びにつながりません。
部下の行動や成果など、客観的な事実やデータをもとにしたフィードバックを心がけることがポイントです。
ポジティブフィードバックと「P-TH/P-TH+」で1on1をより効果的に
ポジティブフィードバックを実施するためには、部下に関わる行動や成果を把握し、客観的に評価する必要があります。
人事評価システム「P-TH/P-TH+」は、既存の人事評価制度やExcelシートを変えることなく、そのままシステム化できるため、評価業務にかかる作業時間が減る分、社員一人ひとりへのフィードバックにあてられる時間を増やすことができます。
また、人事評価における目標設定や成果、フィードバック履歴をデータとして蓄積できるだけでなく、1on1ミーティングで話した内容やフィードバック内容についても記録・蓄積することが可能です。
「いつ・誰に・どんな声かけをしたか」「改善点はどこだったか」といった情報を共有し、振り返ることで、部下の成長を促進させるフィードバック文化が定着します。
そして、1on1ミーティングでポジティブフィードバックを行うことで、人事評価に対する社員の納得感も上がり、モチベーションの向上にもつながります。
ポジティブな声かけが自然に行き交う職場づくりのためには、評価制度の整備やフィードバックを促す仕組みが欠かせません。
その第一歩として、人事評価システム「P-TH/P-TH+」の導入を検討してみるのもよいでしょう。
まとめ
部下のやる気や成長を引き出し、組織全体の活性化にもつながる、ポジティブフィードバック。
行動や成果の「よかった点」を具体的に伝えることで、自信やモチベーションが高まり、仕事への意欲も自然と生まれます。
ポジティブフィードバックでは、ただ褒めるだけでなく、伝えるタイミングや言葉選びを工夫することで、効果はさらに高まります。
人事評価・人材育成の一環としてポジティブフィードバックを取り入れて、信頼と成長を支える関係づくりに活用していきましょう!
<< コラム監修 >>
株式会社サクセスボード 萱野 聡
日本通運株式会社、SAPジャパンで採用・教育を中心とした人事業務全般に幅広く従事。人事コンサルタントとして独立後、採用コンサルタント、研修講師、キャリア・アドバイザーとして活躍中。 米国CCE Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー、産業カウンセラー。
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