人事評価でのランクの付け方と評価基準について解説

 2020.12.14  AJS株式会社

人事評価導入・運用において、ランク付けの方法は担当者の頭を悩ませる種でしょう。何段階にすべきか、企業によって意見も分かれるところです。重要なのは、人事評価制度を通して企業の方向性を示し、従業員のモチベーションや生産性の向上につなげることです。本記事では、この点や時代の変化も踏まえつつ、人事評価のランク付けや評価基準について解説します。

人事評価の3つの軸を理解する

人事評価の際、部門や役職などの違いもあるため、どう基準を設定すべきか悩ましいところです。ここでは、人事評価を行ううえでポイントとなる3つの軸について解説します。

業績

企業は基本的に利益を生み出していくものなので、「業績」は評価するうえで外せない要素といえます。四半期や半期、1年などの一定期間での目標達成度や、その業績に紐付く努力などのプロセスを評価します。
達成した売上などの具体的な数字は、評価を行ううえで客観的であり手間もかかりませんが、数字だけでは測れないプロセスもできるだけ客観的に反映するようにしましょう。同じ業績でも、担当顧客など条件の差もあるため、業績に至るプロセスの評価も重要です。

能力

「能力」は、業績などの数字には直接反映されにくい要素ではありますが、成果を残すうえでベースになる部分でもあります。評価者による主観も入りがちですが、業務遂行にあたり重要な能力を定義し、それに基づいて評価を行いましょう。

また、上司による評価だけでなく、同僚や部下などのさまざまな関係者から多角的に評価されることで、能力についてもより納得性のあるフィードバックになります。これは俗に「360度評価」とも呼ばれますが、各社員が評価者であり被評価者でもあることで、評価項目を日常的に意識し、結果として成長につながりやすくなります。

情意

業績や能力だけでは測れないのが、業務に対する姿勢などの「情意」です。職務を通じてどのように能力を向上させているか、あるいは難しい仕事に対して積極的に挑戦しているかなどを評価します。勤怠などの基本的な行動にも表れるポイントです。

こちらも業績と同様に、客観的に測りづらい点に注意が必要です。日常的に接するメンバー同士のほうが感じ取りやすい部分なので、一方的な評価ではなく、日ごろ協働する関係者から多角的に評価したほうが、客観性が高まります。

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あなたの会社は何段階評価?

ほとんどの会社において、先述の3軸を中心に評価を行い、その水準によって何らかのランク付けを行います。しかし、何段階評価にするかは企業の考え方によって異なります。一般的な階数や考え方なども踏まえ、解説していきます。

5段階が最も一般的

最も一般的なのは、「S・A・B・C・D」や「5・4・3・2・1」などの5段階評価です。「会社の期待を満たす」という標準的な評価を中間水準に設定し、そこから上下にそれぞれ2段階を設定します。

理由としては、評価制度のみならず成績のバラつきは基本的に正規分布に近い形になるという統計があるため、偶数階にするとボリュームゾーンの中間と評された人を何らかの形で上下に分けなければならないからです。特に、社員数の多い企業においては5段階で分けるのが一般的でしょう。

「人事評価制度見直し」決断する前にやること
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尺度の設定を変える企業も

先述のとおり、評価によってランク付けをする場合は5段階評価がスタンダードではありますが、特に日本人は最上位・最下位に評価することが非常に少ない傾向にあります。つまり、実質3段階の評価になっているのです。

しかし、それでは本来の目的の1つである実績や能力に応じた処遇の決定などができないため、ランクをより明確に分けるべく4段階方式を採用する企業もあります。4段階であれば、真ん中という曖昧な位置付けもなくなり、5段階と比較して上位あるいは下位の評価も客観的に下しやすくなります。

「評価制度」=絶対評価、「報酬制度」=相対評価

評価に基づきランク付けをするには、評価項目だけでなく、その評価方法に基づいたランク付けの方法を決める必要があります。この際、評価そのものと報酬制度の設計は切り離して考えたほうがよいでしょう。

つまり、評価そのものは「絶対評価」で行い、成果や目標達成度合いを他者と比較することなく評価し、一方で絶対評価をもとにした報酬などの決定は相対評価で行います。これにより、従業員への評価そのものの納得性を担保したうえで、企業としても総人件費の上限を変更することなく、報酬を適切に決定できます。

ランク付けをしないノーレイティングという選択肢も

近年では、人事評価においてランク付けをしない「ノーレイティング」という選択肢を採用する企業も増えています。評価制度においてランク付けが一般的だったのが、変化しつつあるのです。この世間的な流れを受け、ランク付けの必要性自体を見直す動きが広がってきています。

ノーレイティングとは、評価そのものを行わないということではなく、評価はするもののランク付けをしない、新しい人事評価制度です。ランク付けをする必要がないため、期末など時期を統一して従業員の評価を実施するのではなく、環境や能力の変化などに応じてリアルタイムの目標設定およびフィードバックを行います。その中で、都度評価を行います。

テクノロジーの発展などにより加速度的に変化するビジネス環境において、実に理に適った人事評価制度といえます。

ノーレイティングの魅力

ノーレイティングによる評価は、リアルタイム性が高く、従業員としても都度主体的に目標を設定し行動できます。半期など決められた期間での目標は、会社から降りてくる側面も強く、それに沿った評価も納得性が低いケースもあります。

ノーレイティングによる評価を導入することで、必要に応じて上司と相談しながら目標を修正・設定でき、従業員のモチベーションを高めることもできます。

また、最近ではリモートワークやフレックス制などの「働き方改革」が社会的に進んでいます。従来の伝統的な人事評価制度は、これらの動きを前提に設計したものではなく、整合性が薄れるケースもあるでしょう。その点、臨機応変に目標設定や評価を行うノーレイティングは、働き方改革とも親和性が高いといえます。

さらにノーレイティングにより、上司はリアルタイムで部下の働きや能力を評価していくので、さまざまな業務に対して適切な人材配置がしやすくなります。その業務に応じた優秀な人材の確保や再発見につながるでしょう。

ノーレイティングの注意点

このようにメリットが多く、現代社会にもマッチしたノーレイティングですが、導入や運用にあたり注意すべき点もあります。

まず評価する側、つまり管理職などの負担は、従来の評価制度と比較して増加することが考えられます。ただでさえ、複数の部下を抱えていて忙しい管理職は、頻繁に各部下と面談を行い、目標設定などをうまく導く必要があります。よって、より高度なマネジメント能力が求められます。上司が気に入っている部下のみを贔屓しないようにするなど、上司の高い自律性も求められます。

また、日本企業がそのまま現在の人事評価制度の替わりとして即座に導入することも難しい状況と言えます。欧米型評価方法との違いのひとつに、日本企業ではマネージャーが部下の給与額を自由に決められないという側面があります。

たとえば欧米型企業などでは、決められた年俸で入社した社員が、あらかじめ設定されている目標や期待以上のパフォーマンスを発揮した場合など、年俸の引き上げを交渉することや変動型の条件があらかじめ設定されていて、マネージャーにその運用を一任されているケースなどもあります。この場合、上司は目標達成の度合いを加味し、翌年度の目標を引き上げることで、年俸を引き上げる、という調整が可能となります。外資系企業の日本法人では、本国と同等のルールが適用されることがありますが、純粋な日本企業ではなかなか実現されていません。

その要因として、一般的な日本企業では、社員の給与や賞与額は人事部がコントロールしていることが多く、マネージャーに部下の給与額を自由に変更する決定権がありません。一方、米国企業では、マネージャーが他の予算と同様に人件費もコントロールしているため、給与額の変更もすぐに反映させられるのです。そういった権限をすべてマネージャーに委譲するためには、日本企業の組織体制そのものの見直しも必要です。

また、米国では小さなベンチャー企業から大きくなった企業の評価制度は、元々がノーレイティングだった、という背景もあります。組織が大きくなってレイティング制度を導入した後、昨今のビジネス環境からふたたびノーレイティングに変えたとしても、それは元に戻しただけ、に過ぎません。組織体制や企業風土がすでにノーレイティング運用に適合していることも、早期普及に必要な条件といえるでしょう。

もうひとつの課題として挙げられるのは、管理職の評価スキルが不足している場合、スキル向上のための研修や訓練を行う必要がある、という側面です。

これらの観点から、ノーレイティングを導入する際は、上司が頻繁に部下と向き合う時間的な余裕があるか、あるいはその上司が評価者として適切かを慎重に検討することが重要です。仮に管理職のマネジメント能力的に難しい場合でも、コーチング研修や人事評価システムの導入などでフォローできるとよいでしょう。

まとめ

人事評価制度は、単純な評価だけにとどまらず企業全体の生産性を支える土台でもあります。そのため、多くの企業ではランク付けを活用した人事評価を行っています。
一方、働き方改革の推進などを背景に、何段階にするかという議論だけでなく、ランク付けそのものの必要性に関しても議論の余地が生まれています。働き方の多様化や自社のビジネス環境などに合わせて、より合理的な人事評価制度の導入を検討しましょう。

株式会社サクセスボード 萱野 聡<< コラム監修 >>
株式会社サクセスボード 萱野 聡
日本通運株式会社、SAPジャパンで採用・教育を中心とした人事業務全般に幅広く従事。人事コンサルタントとして独立後、採用コンサルタント、研修講師、キャリア・アドバイザーとして活躍中。 米国CCE Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー、産業カウンセラー。
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