人事として知っておきたいマトリクス組織の基礎知識やメリット・デメリット

 2021.11.17  AJS株式会社

マトリクス組織という言葉を耳にしたことはあっても、その詳細は把握していない、という方もおられるかもしれません。本記事では、マトリクス組織の種類や、導入時のメリット、デメリットをわかりやすくまとめました。マトリクス組織とほかの組織形態との違いや、導入に際して指揮系統を確立するときに気をつけたいポイントや、人事評価を行う上での注意点についても解説します。

マトリクス組織とは

「マトリクス組織」とは、職能部門、事業部、エリアなどの異なる業務区分を横断する組織形態のことです。「職能部門制組織」と「事業部制組織」の2つをあわせた、やや複雑な形態でもあります。

マトリクス組織の概念は1960年代のアメリカで生まれ、日本では2016年にトヨタ自動車が導入してから注目を集めました。

現在では、一人ひとりの能力を活かしつつ、業務効率化を図るための再配置が可能になるとして、取り入れる企業が増えています。

従来から多くの企業が取り入れている一般的な組織形態は「職能部門組織」です。営業部・総務部・広報部などの部門にわかれていて、従業員はどれかひとつの部門に所属し、部内の業務だけを行います。「事業部制組織」は、販売している製品やサービス、担当エリアなどで分類され、構成される組織です。従業員は事業所に所属し、営業や総務、広報など、全ての業務は事業所内で行い、他の管轄とは関係なく業務を完結させます。また、プロジェクト立ち上げ時に組織を編成し、内部で運営業務を全て行う「プロジェクト型組織」もあります。

「マトリクス組織」は、従業員が単一の部門ではなく営業や設計、広報、総務などの部門軸内でいくつかの部門に属する組織形態をとります。さらに事業部や製品、サービス、プロジェクトなどの組織軸も設定し、従業員は部門と事業どちらの軸にも同時に属するという特徴があります。

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マトリクス組織の種類

マトリクス組織は、その特徴からストロング型、ウィーク型、バランス型の3つの種類に区分されます。それぞれメンバーの働き方などに違いがみられるため、どのような違いがあるのかを詳しく説明していきます。

ストロング型

最初にマネジメント業務担当者の専門部署を作り、各プロジェクトにそこからマネジメントの専門家としてマネージャーを配置する形態です。マネジメント能力の高い責任者(マネージャー)がプロジェクトごとにつくため、従業員は属する部門ではなくそのマネージャーの指示を優先します。強い権限のあるマネージャーの下で働くため、指示が明確に行われ、メンバーは負担を感じることなくプロジェクトに専念できるようになります。ほかにも、従業員はマネージャーの下で業務に関するノウハウや技術を蓄積できるなどの特徴があります。

ただし、先に専門部署を設立しなければならないため、人件費などの負担が生じます。中小企業よりも大企業や複雑なプロジェクトを多く扱う企業で採用されています。

ウィーク型

ウィーク型は、責任者を選ばない方法です。責任者が存在しないため、トップダウンでの指示はありません。設定された目的を達成するため、メンバーは自己判断で個別に業務を進めます。個人の自由度が高い働き方であるため、それぞれの考えで多角的、臨機応変な対応が可能となり、状況によっては大幅な効率アップが見込めます。ただし、業務を行う上で責任の所在が明確でない点や、場合によっては意思決定のタイミングが遅くなるといったデメリットも存在します。ウィーク型では、組織としての進捗状況の把握も難しくなるので、各個人の業務について状況を定期的に確認する機会を設けることが大切です。

バランス型

責任者がプロジェクトメンバーから選ばれるという、中間的な形態をとるのがバランス型です。責任者は平常業務を遂行しながら業務内容や状況を把握し、工程管理も行います。責任者自身が業務を担当しているため進捗状況を把握しやすく、適切な指示が出せます。

注意したい点として、責任者が部門内で上司に別途指示を受けるケースや、特定部門の責任者を兼任するケースもあるため、部門とプロジェクトで指示や情報が混乱しがちであるといったことが挙げられます。

また、責任者は自分の仕事とプロジェクトの管理を同時並行的に行うため、大きな負担がかかることがバランス型のデメリットです。責任者の負担を軽減するために、サポートする体制を整えるといった工夫が必要です。

マトリクス組織のメリット

マトリクス組織を導入すると、業務の円滑化や情報共有の促進、柔軟な対応などが実現可能です。マトリクス組織を採用した際のメリットにはどのようなものがあるかを詳しく説明します。

業務の円滑化

マトリクス組織には事業部などの組織軸と、営業や人事などの部門軸、2つの軸があります。従業員は、それぞれの軸に固定されず幅広い業務を行います。複数の部門・軸に属するケースでは、部門を越えて周囲と連携し業務の調整ができるため、業務を効率的に進めることが可能です。

また、製品ごとに事業部がわかれている場合には、製造部門に所属している高いスキルをもつ従業員が、他事業部の業務をカバーするなど、企業全体を横断する業務調整が可能です。

マトリクス組織においては、従業員が複数の部門にわたり業務を担当する場合、さまざまな業務を経験する機会が生まれます。これにより、幅広い職能を身につけられるため、社員個々の能力向上や別の業務に応用できるスキルの習得も可能です。

マトリクス組織では、管理と技術部門に所属するケースが多いとされています。管理部門の業務を実施しているときにはわからない技術部門の業務内容やリソース、環境などについて把握できるからです。相互に状況を把握できるようになると、部門間でフォローしあうことも容易になるでしょう。

情報共有の促進

従業員が、それぞれ所属している部署で情報共有を図るため、所属が複数にわたっている場合には、多くのソースから情報を得られるメリットがあります。社内さまざまな事業で従業員同士のコミュニケーションが活発になるため、担当者が互いに業務の進捗状況を把握し、状況にあわせて調整できるようになります。それに伴い従業員の関係性が高まるなどのメリットもあり、チームワークの向上も期待できるでしょう。

たとえば製造部門であれば、A製品事業部とB製品事業部など、複数箇所に所属しているケースでは、互いの製品製造に必要な知識やスキル、労働環境、人員配置などの情報が共有されます。部門同士で技術力を高め合うことができ、目標の統一化にもつながるため、製品の品質向上にもつながります。

柔軟な対応の実現

人材や経営資源を全社的に共有できるようになるため、マトリクス組織では市場の変化やクライアントの要望に対して柔軟な対応が可能です。たとえ異なる事業部であっても、プロジェクトには異なる場所に所属している従業員が集まるため、多方面からの意見を確認しあえる点も大きなメリットを生みます。

マトリクス組織を採用したプロジェクトでは、意思決定おいてに上層部の判断を仰ぐ場面が少なくなる特徴もあります。プロジェクト内の責任者が素早く状況判断を行い、業務をスムーズに進められるため、部門間調整や状況把握に必要な時間を短縮可能で、突然のトラブルが生じたときなどでも迅速かつ柔軟な対処がしやすくなります。

マトリクス組織のデメリット

マトリクス組織には、メリットだけではなく注意しなければならないデメリットもあります。主なデメリットには指揮系統の複雑化や負担増加の懸念、人事評価に関する問題などがあるため、導入前によく確認しておきましょう。

指揮系統の複雑化

従業員が複数の業務に携わるマトリクス組織では、プロジェクトごとに指示を出すリーダーがいるため、指示系統が複雑になりやすいというデメリットがあります。複数の組織でカバーしあいながら業務を行えるのですが、それぞれの部門目線から出される指示は、必ずしも整合するとは限りません。部門間で横のつながりを維持しつつ連携していくため、異なる指示が出た場合にはどちらを優先したらよいのか判断が難しくなります。リーダーとの連絡のとり方、確認方法などが部門によって全く異なる方法で行われていると、チーム内が混乱してしまうこともあります。

このため、各リーダーは方向性が食いちがう指示を出すことがないよう、こまめにコミュニケーションをとることが大切です。毎日の業務で問題が起きていないか、方針がどう決めたかなどを確認するため、日報等の共有体制を強化しましょう。組織間で担当者同士が連絡をとりやすい環境作りも大切です。大きな問題を生じさせないためには、ケースバイケースでどのリーダーの指示を優先するべきかなどのルールを決めておく必要もあります。

負担増加の懸念

リーダーが複数存在すると、業務の方針が異なっていたり、指示が複数同時に出されたりする場合があります。また、業務報告をそれぞれのリーダーに行わなければならないこともあり、一部の従業員の負担が大きくなる可能性があります。責任者は、一般的に業務を任せやすい優秀な部下に仕事を多くまわしがちになるため、一部の従業員に複数のリーダーから大量の仕事が集中することがあるかもしれません。大きな負担がかかった従業員がストレスをため込んでしまい、突然の退職を申し出るなど、貴重な人材を失うことにもつながります。

メンバー数が十分でないなど、業務の遂行自体が困難であると見積もられる状態でプロジェクトを立ち上げざるを得ない場合には、個々のメンバーだけでなく、業務全体の管理を担当する責任者にも負担がのしかかってしまうので、リーダーに負担が集まり過ぎていないか配慮する必要があります。

マトリクス組織を導入する場合には、プロジェクトに人材が不足していないか、従業員の仕事量に偏りがないかなど、幅広い観点で負担増加になっていないかを注意しなければなりません。定期的にヒアリングを実施し、不満が多くなっているようであれば、これを取り除くために人員などのリソースを追加配分するといったケアを行うことが大切です。

人事評価の問題

マトリクス組織において、複数の業務に携わると、従業員に対して直属の上司が2人以上になることがあります。この場合、一人の上司がその従業員の勤務状況全てを把握することはできません。上司側は、勤務態度や成果などを相対的に把握することが難しいため、人事評価が適切に行えなくなるという可能性が生じます。

マトリクス組織を導入する際には、一般的な人事評価制度では正しい評価ができないことを前提として捉え、人事評価制度も適した形に変えることが大切です。評価の際には、従業員の能力やスキルなどを把握しておき、どういった点を評価するのかをあらかじめ決定し、各部署で共有しておきます。上司の評価が大きくわかれた場合の判断をどうするかなど、細かい点をルール化しておくと混乱を避けられるでしょう。

まとめ

従来どおりの職能部門組織においては、従業員の所属は通常、特定の部署に定められていますが、これらの区分を越え、複数の部署・プロジェクトに所属し活躍できるようになるのがマトリクス組織の特徴です。部門を越えた業務を経験することで、個々の業務遂行が効率化するだけでなく、幅広いスキルや経験を蓄積でき、かつ共有が容易になるため、企業全体での生産性向上にもつながります。メリットとデメリットを正しく把握し、効果的にマトリクス組織を活用しましょう。

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