人事評価のフィードバック面談は、給与や賞与、昇進や昇格の結果を伝えるだけの場ではありません。マネージャーは評価結果に対する部下の不満を引き出し、問題解決策を一緒に導きます。面談を通して部下のモチベーションをアップさせるにはどうしたらよいのか、ポイントと注意点を解説します。
人事評価面談とは
人事評価面談は、人事評価におけるプロセスの中で重要な役割を持ちます。半年、または1年の評価期間で導かれた結果を参考に、まずは部下が自己評価をしてから上司や経営層が給与や賞与、昇進や昇格を判断します。
その結果を共有する場としてフィードバック面談が設けられます。ここで注意したいのは、フィードバック面談は単純に評価結果と処遇を伝える場ではないという点です。部下本人やチームに生じた問題に対する解決策や、人材育成の方向性について話し合い、場合によっては次期に向けた目標設定も行います。上司と部下の信頼関係があってこそ面談が成功し、制度が運用されてはじめて組織にプラスの効果をもたらします。
人事評価面談の目的
上司自身がフィードバック面談の目的や役割を理解しおらず、上手く運用されていないケースが多いのが現状です。フィードバック面談には以下のような目的があります。
評価に対する納得感を高める
部下の自己評価と評価結果に乖離があった場合、被評価者に事実を通知してもすぐには納得されません。上司と部下の思考は違うのだと客観的に理解した上で、対話を開始しましょう。プラスもマイナスの評価も、部下はなぜそのような結果に至ったのか理解できれば、評価結果を受け入れやすくなります。上司は、高い評価の目安となる過去事例や、項目ごとに具体的数値を示し、部下の自己評価とのギャップに根拠を提示します。面談で部下が納得できない場合は、1度の面談で解決しようとせず、時間を置き2度3度面談の回数を重ねます。場合により上司は人事部門や上長に相談し、面談に同席してもらうなどの対策を取ります。
評価を通じてスキルアップに役立てる
部下が自分の言葉で自己評価や次期目標を語ることで、行動が明確化されます。また、フィードバックで上司や組織が求める方向性がはっきりするため、スキルアップに向けた行動目標が立てやすくなるのです。上司は数値化しにくいプロセスにも触れ、中長期のキャリアについても具体的な施策を共有しましょう。面談後も継続的にフォローすることで、部下の成長を促進します。
フィードバック面談の流れ・進め方
人事評価制度を導入している組織は、部下から経営陣までの「上り」に対する報告体制は手厚いものの、結果を部下にフィードバックする「下り」に対して手間を省きがちです。どうしたら部下の育成や上司のマネジメント能力の向上に役立つのか、フィードバック面談の流れを再確認してみましょう。
まずは評価面談の準備
上司は人事評価の結果に基づく事実、情報、部下と話し合う事柄などをまとめておきます。また、部下への質問と部下からの質問を事前に想定し、適切な回答やアドバイスについても準備します。上司側からの質問に関しては、部下が自ら答えが導き出せるよう効果的な質問を用意しましょう。部下のモチベーションが下がらないよう、言葉選びには十分注意します。時間は1人につき30~1時間が目安です。双方のプライバシーが確保できる環境を用意し、アイデアや意見を述べやすいオープンな雰囲気を意識します。
評価結果の共有
評価の結果を共有します。結果を伝える際は、緊張した空気を取り除くためにすぐには本題に入らず、アイスブレイクを行えると、お互いに言葉を出しやすい雰囲気を作ることができます。そのうえで、今期の人事評価の結果を伝えます。伝えるときには、ポジティブなものから先に伝え、次にマイナス評価を伝え、次の課題の共有に繋げるとよいでしょう。
課題の共有
評価結果を部下と共有し、見えてきた課題を明確にします。課題解決に向けた具体的なアクションは、部下が主体となって考えるよう上司は質問など交えて誘導します。また、中長期的な目標にも触れつつ、モチベーションの向上や喚起につながるように、項目ごとにフィードバックしていきます。
次に向けた目標設定
評価結果に双方合意ができたら、次期の目標に向けて話し合います。MBOシートなど目標設定に関するツールを運用している場合は、面談前に提出してもらうとスムーズです。「何を、いつまで、どのように」というような進捗管理ができる目標に落とし込み、「○年後に部長になる」「○年後までに職能資格等級を○等級上げる」など将来像に対してのマイルストーンも設計します。部下に明確な目標がない場合は、質問などを通してヒントを出し、目標を再設定します。
まとめと相互確認
部下がどのような成長を望んでいるのか、組織の方針と擦り合わせつつ方向性を調整します。本人の目指すキャリアと今後の仕事が結びつけば、地味と思われがちな作業でも重要性が理解しやすくなるでしょう。フィードバック面談はモチベーションを高めた状態で終了するのがベストです。「○○さんはチームにとって必要な人材である」「プロジェクトの成功には○○さんの能力が必要である」というような、期待の言葉を贈り、笑顔で面談を終わらせます。
フィードバック面談のポイント
面談はあくまで手段であり、上司と部下双方が意欲的になれる運用がベストです。フィードバック面談のたびに成長が促されるような、効果的な面談のポイントを解説します。
評価の根拠を明確に伝える
「結論・理由・データ」を中心に評価の根拠を用意し、説明の途中でデータを参照したり、目の前で書いてみせるなどすると効果的です。考え方として、上司が「伝える」のではなく、部下に「伝わる」をベースに面談を進行させます。
上司自身が発信源となって伝える内容を整理し、部下に合わせて表現を調整していきます。この流れが揃ってはじめて「伝わった」状態になります。客観的であることは明快ですが、部下によっては冷たさを感じるケースもあります。根拠を明確に伝える際に「私は○○だと思う」と自分の考えを織り交ぜることで納得しやすくなるでしょう。
部下の話をしっかり聴く姿勢を見せる
聴くスタンスは相手に安心感を与えます。「あなたの話を聴いている」とアピールできるリアクションは「うなずき」「あいづち」「オウム返し」の3つです。うなずきは視覚的に、あいづちは聴覚的に相手に訴えます。さらに相手の言葉尻をとらえオウム返しをすることで、相手の言葉を引き出しやすくなります。リアクションは自分の誠実さをアピールする場面ではないので、オーバーリアクションになっていないか注意しましょう。
現状の問題や将来のビジョンについて話し合う
部下のタイプによって会話を変えて将来のビジョンを引き出していきます。一例となりますが、外的モチベーションの高い部下と、内的モチベーションの高い部下について説明します。
2つの違いは、モチベーションの維持を外部に求めるか、自分の内部に求めるかです。外的モチベーションの高い部下は他者からの評価を重視する傾向にあるので、評価を高める機会や成功につながるチャンスについて話すと、ビジョンが共有しやすいでしょう。
内的モチベーションの高い部下は、目的に向かうプロセスで得られる能力を重視する傾向にあります。あるスキルを伸ばせば業務に役立つ、この業務をやれば○○に関連するスキルが得られるなどの方向で会話を進めていくと、ビジョンが共有しやすいでしょう。
フィードバック面談での注意点
面談で自己評価に対して低い結果が出た場合、すぐに納得できる部下はまずいないでしょう。部下からの不満が一切出ないフィードバック面談は機能していません。不満を引き出したうえで解消するのがフィードバック面談の要であり、上司のマネジメント能力が試されます。上司の態度が威圧的であったり、質問が投げやりだと「この人は面談をする気がない」「この人に話をしても仕方がない」と心が閉ざされてしまいます。注意したいポイントを解説します。
会社に対するネガティブ発言や批判
組織や同業他社を批判するような意見は、部下の成長まで否定してしまうことになりかねないため、伝え方には細心の注意を払いましょう。また部下からネガティブな発言が出たときは、思い通りにキャリアを積み好きな仕事だけできることはまずないことを伝え、不遇のときこそどう行動するかがその後の職業人生を決めるものだというような前向きな意見を述べるようにすれば、ネガティブ要素もポジティブに変わってきます。
日常と異なる言動を取らない
上司の多くはプレイヤーとして優秀であったからこそ今の立場があるのでしょう。しかし、面談の場を利用して過去の成功体験や、プロセスを押しつけることは避けるべきです。普段のコミュニケーションの延長上に面談があると理解すれば、日常と異なる言動が出てくることはありません。
肯定的な姿勢で質問する
面談で意識したい質問スキルに「拡大質問」「肯定質問」があります。拡大質問は「はい・いいえ」では答えられない、正解が複数ある質問です。会話のつながりや部下の潜在意識に訴えかけるシーンを増やせます。
肯定質問は「どうしてうまくいかないのか?」という否定的なニュアンスを含ませず「どうしたらうまくいくと思うか?」というように投げかける質問です。相手を委縮させずに一緒に問題解決をしたいシーンで役立ちます。
まとめ
フィードバック面談は、上司と部下の信頼関係が構築できる貴重な機会です。上手に利用しましょう。最終的な評価に至った合理的な根拠を示すとともに、問題解決と将来ビジョンについて話し合い、部下には無限の可能性があることを伝えてください。
<< コラム監修 >>
株式会社サクセスボード 萱野 聡
日本通運株式会社、SAPジャパンで採用・教育を中心とした人事業務全般に幅広く従事。人事コンサルタントとして独立後、採用コンサルタント、研修講師、キャリア・アドバイザーとして活躍中。 米国CCE Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー、産業カウンセラー。
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