人材確保がますます難しくなる中、「社員の離職」は企業にとって大きなリスクとなっています。
採用や育成に投じた時間やコストが無駄になるだけでなく、組織の生産性や残された社員のモチベーションの低下など、経営全体に波及する可能性があります。
そこで、こちらの記事では、離職が起こる主な原因やリスクを整理したうえで、離職防止に効果的な施策を具体的に解説していきます。
人材の定着に向けた実践的なポイントを押さえて、社員が安心して長く活躍できる職場づくりのヒントを見つけていきましょう。
離職防止とは?
離職防止とは、社員の離職を防ぐための施策です。
社員に企業で長く活躍してもらうために、労働環境の改善やキャリア支援、コミュニケーションの活性化など、さまざまな取り組みを複合的に実施することが重要です。
主な施策
- テレワークなど柔軟な働き方を推進する
- 定期的な1on1ミーティングで社員の声を聞く
- 公正な人事評価制度を運用する
- 気軽に相談できるメンター制度を導入する
- 仕事と子育て・介護の両立支援
離職防止に取り組むことで、社員の帰属意識が高まり、人材の流出を防ぐことができます。
また、社員が定着することで企業にノウハウが蓄積され、組織の生産性の向上につながり、企業イメージの向上や次の採用活動にも有利にはたらくという好循環が生まれます。
離職防止の重要性
少子高齢化社会の日本では『労働人口の減少』や『採用競争の激化』により、離職防止が重要視されていますが、要因は他にもあります。
厚生労働省が発表した「新規学卒就職者の離職状況(令和3年3月卒業者)」によると、新規大学卒就職者の就職後3年以内の離職率は「34.9%」でした。
元来、新卒で入った会社に定年まで属する終身雇用の考えが一般的でしたが、『就職から3年以内に新卒の3割が離職する』という流れは、過去30年間変わらず推移しています。
また、転職に対しても「経験や視野が広がる」「自分を変える良い機会」というポジティブなイメージが普及し、『転職のハードルが下がり人材の流出が加速したこと』も離職者の増加に起因しています。
転職が当たり前とされる時代の中、企業には『人材採用』とともに『離職防止』の対策が求められているのです。
離職防止を疎かにしてしまうと…
離職防止の取り組みを怠ってしまうと、単なる人員減にとどまらず、人材採用・人材育成にかけたコストの損失、事業活動の停滞、ノウハウの流出といった大きなダメージを企業にもたらします。
特に、ノウハウや経験を身につけた優秀な人材が流出してしまうと、既存社員の業務負担が増え、結果的に、サービスの質や企業の競争力が低下します。
離職が増えるほどに社員の仕事へのモチベーションは低下し、不満が溜まり、また新たな離職者を出してしまうという、離職の連鎖を生む恐れもあります。
また、「離職率が高い=社員が定着しにくい企業」という負のイメージに直結するため、入社を希望する人数が減るというリスクが発生します。
社員が離職する主な原因
厚生労働省「令和5年 雇用動向調査結果の概要(2)転職入職者が前職を辞めた理由」によると、
- 「職場の人間関係が好ましくなかった」
- 「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」
- 「給与等収入が少なかった」
- 「会社の将来が不安だった」
等の理由により、離職する社員が多いようです。
こちらでは、社員が離職する理由に挙げられる主な要因について解説します。
職場の人間関係が良くなかった
社員の離職の大きな要因となっているのが、「職場の人間関係」です。
パワハラやモラハラといったハラスメントや、コミュニケーション不足により、職場の上司や同僚との間に軋轢が生じ、精神的ストレスから離職するケースがあります。
また、「自分の意見が言いにくい」「気になることがあっても聞けない」など、心理的安全性が欠落した職場では、社員同士のコミュニケーションが減り、企業への帰属意識も薄れてしまいます。
労働条件・待遇が合わない
働き方改革が進み、柔軟なはたらき方ができない「労働条件」に対する不満や、給与・ボーナス、福利厚生といった「待遇」への不満も離職の要因です。
たとえば、長時間労働や休日出勤など、ワークライフバランスを崩す要因は、離職を直接的に後押しします。
仕事量や成果に見合わない給与や、有給取得率の低さ、昇給・賞与の仕組みが不明確な場合も、転職を検討する大きな要因となります。
会社の将来やキャリアパスに不安がある
会社の将来が不安であったり、将来のキャリアパスが見えないことを案じて、離職に踏み切る社員が多いのも現状です。
たとえば、業績不振で事業の拡大や年収の増加が望めない場合、「この会社は大丈夫なのだろうか」という疑念を生んでしまいます。
また、昇進のチャンスや専門スキルの成長機会が少なく、自分の将来のキャリアビジョンが描けない職場環境では、優秀な人材ほど流出しやすくなります。
- 「自分がやりたいことと違う気がする」
- 「自分はこのままでいいのだろうか」
- 「今の自分のスキルが活かせてない」
キャリアパスに対する不安も、社員の離職につながってしまいます。
離職防止に効果的な5つの対策
社員の離職の原因を把握し、適切な対策を行うことで離職率は改善されます。
ここからは、離職防止に効果的な対策について、具体的にご紹介していきます。
退職理由や不満をヒアリングして現状を調査する
適切な離職防止対策の第一歩は、現状把握からはじまります。
「なぜ退職に至るのか」、感覚や憶測ではなく、実際に退職を希望する社員から退職理由をヒアリングして、自社が抱える問題の究明が大切です。
また、従業員満足度の調査や社内アンケートを実施して、在籍している社員の不満を明らかにすることで、退職を表明する前の小さな問題をつかみ、早期に手を打つことができます。
回答結果から課題を可視化することで、離職防止の具体的な対策を立てることに役立ちます。
社内のコミュニケーションを活性化させる
社内のコミュニケーションが活性化することで、社員同士の相互理解を深め、職場の人間関係が良くなり、信頼関係の構築につながります。
離職防止のためのコミュニケーション活性化対策には、以下のような事例が挙げられます。
- 社内ブログやSNSで気軽にコミュニケーションを取れる場を設ける
- 定期的に1on1ミーティングを実施して上司と部下で対話する時間を作る
- メンター制度を導入して新入社員が安心して相談できる機会を提供する
円滑にコミュニケーションが取れる環境を整備することによって、社員同士の結びつきが強まり、企業への帰属意識も高まります。
労働条件や職場環境を見直す
長時間労働や休日出勤が多い企業では、肉体的・精神的に健康を損ねてしまい、離職を希望する社員が増える傾向にあります。
長時間労働の是正に向けて、業務の棚卸しで効率化を図り、労働時間を管理する必要があります。
勤怠管理システムを導入して、管理するのも良いでしょう。
また、テレワークや時短勤務、フレックスタイム制度など、柔軟な働き方ができる職場環境を構築することも重要です。
育児や介護をはじめ、ワークライフバランスを重視した働き方を理由とした離職を防ぐためには、働き方の多様化を推進していくことが求められます。
他にも、パワハラやセクハラ等が起こらないように、ハラスメント対策も必須です。
福利厚生を充実させる
社員のニーズにあった福利厚生を充実させることで、モチベーションの向上に貢献します。
たとえば、リフレッシュ休暇やバースデー休暇など、好きなタイミングで休みが取れることは、社員の満足度を高めます。
他にも、社外ジム・レジャー施設の利用補助や、研修・セミナーの参加費用補助、社内サークル活動補助など、企業独自に設定する福利厚生も多くあります。
福利厚生を充実させることは、在籍する社員の満足度に起因するだけでなく、新規採用者に対する企業のイメージアップにもつながります。
資格取得支援や研修制度でキャリア形成を支援する
キャリアパスに不安を感じる社員には、資格取得支援や研修制度など、社員の目的に応じた学習機会の提供・支援が不可欠です。
各社員が自分にあった資格を取得できる機会や研修を受けられる環境を企業が用意することで、人材育成を促進し、社員の成長意欲を後押しできます。
同時に、社員は「この会社にいたら成長できる」と感じられ、人材の定着にもつながります。
また、社員が抱えるキャリアパスに対する不安を解消するために、定期的な1on1ミーティングの実施や、メンター制度の導入も効果的です。
会社でのキャリアパスを明示・相談する機会となるだけでなく、社員一人ひとりの目標や課題を把握することができます。
離職防止のために公正な評価制度を実現する。
人事評価システム「P-TH/P-TH+」
労働条件の見直しや福利厚生の充実以外に、公正な評価制度を運用することも、社員の離職を防ぐために必要な対策の一つです。
「自分の成果が正当に評価されていない」「評価基準があいまいでわかりにくい」という不公平感は、社員のモチベーションを低下させてしまい、退職の直接的な引き金になります。
評価に対する社員の納得感を上げて、人材定着率を向上させるためには、公正な人事評価制度の運用が不可欠です。
そこでおすすめするのが、人事評価システム「P-TH/P-TH+(ピース/ピースプラス)」。
目標設定や社員の能力・成果など、評価データをシステム上に蓄積し、共有・可視化することができます。
進捗確認や集計業務を大幅に圧縮できるため、人事評価面談の時間を長く確保することができるかもしれません。
丁寧なフィードバックを行うことは、従業員の評価に対する納得感やモチベーションを、より高めることにつながります。
また、2025年4月にリリースされた「1on1機能」を活用すれば、1on1ミーティングの満足度を可視化し、より効果的に1on1ミーティングを実施することが可能です。
1on1ミーティングの継続は日々のコミュニケーションを可視化できるため、社員の不満や課題の早期発見・早期解決にもつながるため、離職防止にも効果的です。
まとめ
社員の離職を防ぐためには、単に待遇を改善するだけでは不十分です。
職場の人間関係や労働条件、キャリア形成といった複合的な要因に対して、包括的にアプローチすることが欠かせません。
ヒアリングや社内アンケート調査を実施して、社員一人ひとりが抱える不満や自社の課題を正しく汲み取り、小さくても着実な改善を積み重ねることが大切です。
社員が働きやすい環境を構築することで、社員のエンゲージメント向上と企業の持続的な成長につながるでしょう。
<< コラム監修 >>
株式会社サクセスボード 萱野 聡
日本通運株式会社、SAPジャパンで採用・教育を中心とした人事業務全般に幅広く従事。人事コンサルタントとして独立後、採用コンサルタント、研修講師、キャリア・アドバイザーとして活躍中。 米国CCE Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー、産業カウンセラー。
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