日本の大手企業で採用されているキャリアパス制度ですが、改めて考えるとどのような効果があるのか気になる方は極めて多いでしょう。
適切に導入しなければ、社内での不満が蓄積したり、やる気の低下などの問題が発生したりする可能性もあります。
そこで本記事では、キャリアパス制度の概要や導入のメリット、また導入時のポイントについて詳しく解説していきます。
キャリアパス制度とは
キャリアパスとは、「キャリア(経歴や職歴)」と「パス(道)」を合わせた言葉で、自分が目指している職位や職務などに到達するための経験やスキルの積み重ね、能力を向上させていくための道順のことを指します。
さらにキャリアパス制度とは、企業内の人事で主に使われる言葉で、当該企業での成長や昇進には何が必要なのか、どのようなキャリアステップを歩む必要があるのか、などの基準や条件を明確にしたものを指します。
本制度により、「将来なりたい自分のイメージがあるけれど、どのように歩めば良いのか分からない」といった問いに対し、どうすれば昇進したり昇格したりできるかなどといった具体的なルートを示すことができ、従業員の不安を解消することができます。
キャリアデザインとの違い
似た言葉として、「キャリアデザイン」というものがあります。
キャリアデザインとは、職業で何を目標とするのか、個人の生き方やライフスタイルを含めた総合的な構想のことをいいます。例えば、「30歳までには子供を産みたいから、それまでに個人事業主になって時間に融通がきく働き方を目指す」などが挙げられます。
キャリアパス制度は、あくまで企業内での昇格や昇給における過程であるため、キャリアデザインのほうがより広義な意味での構想と言えるでしょう。
キャリアパス制度導入のメリット
キャリアパス制度を導入すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。メリット・デメリットをそれぞれ知り、適切に導入することが重要です。主なメリットは以下の3つです。
- 社員のモチベーション向上
- 入社のミスマッチ防止
- 社員の定着化
それぞれ詳しく解説します。
社員のモチベーション向上
キャリアパス制度を導入する際の1つ目のメリットとして、「社員のモチベーション向上」が挙げられます。
本制度の特徴として、企業内における昇進ルートやルールが明確化されている点があります。そのため、どのように働けば自分の思う通りの昇進ができるのか、評価されるのかが明白になることで、働く目的が明確になり、モチベーションの向上が見込まれるのです。
1~3ヶ月といった短期的な目標はもちろん、数年単位の長期的な目標設定も可能となるため、目標達成に向けたスキルの習得や資格の取得、設定目標の具体化などが可能となります。
例えば、IT系のエンジニアを例に見てみましょう。最初はプログラマーやテスターからスタートするとして、次第にプロジェクトマネージャーやディレクターといった管理する業務に就くようになります。ルートが明確になることで、管理職に必要なマネジメントスキルやリーダーシップなどを積極的に学ぶようになるのです。
つまり現実的な、地に足のついた成長計画が見込めるのです。結果的に個々人のモチベーションアップはもちろん、会社全体としての生産性向上、業績向上も期待できるでしょう。
入社のミスマッチ防止
キャリアパス制度を導入する際の2つ目のメリットとして、「入社のミスマッチ防止」が挙げられます。
新卒採用や中途採用など、あらゆる採用における最大の懸念点として入社後のミスマッチが挙げられます。求職者は積極的な営業を希望しているのに対し、企業側は引きの営業を強みにしている場合などが主な例です。
本制度を利用することで、こうした問題を解決することが可能です。採用面接などの際に、自社での働き方について具体的にイメージしてもらうことで、長期的な成長プランを描けるためです。
例えば、求職者が目標とする「マネージメント職に付きたい」という希望に対し、企業側は「〇〇を達成したらマネージメント職に昇格できるルートがあります」という提示をすることで、求職者・企業それぞれの目的が合致し、ミスマッチを防ぐことができるのです。
当然、上記の営業スタイルの違いについてのすり合わせも行えるでしょう。
なお、ミスマッチを防ぐことは社員の定着率を上げ、離職率を下げることにも寄与します。入社後のギャップを解消することは、さまざまな面で有用です。
社員の定着化
キャリアパス制度を導入する際の3つ目のメリットとして、「社員の定着化」が挙げられます。
企業におけるリスク要因として、社員がすぐに退職してしまうことがあります。採用から育成までには多くのコストが掛かっており、すぐに辞められてしまうと採算が合わなくなることもあるでしょう。
本制度を導入すれば、前述のように離職率が下げられるため、定着率も上がります。具体的には魅力的なキャリアパスを提示することで、社員の将来への不安を取り払ったり、希望を持って仕事ができたりという効用があります。
従業員は、「この会社で成長できるのか」「自分は老後までしっかり働けるのか」「転職市場で求められる人材なのか」といった不安を抱えています。
つまり、成長の実感や技能やスキルの習得の有無、将来性などが定かでないことに不安を感じ、転職などを考えるのです。これらの懸念をキャリアパスで明確に提示することで、定着率が上がるという効果があります。
また、同じ部署や業務にとどまることなく、キャリアパス制度によってステップアップすることが可能になるため、上昇志向のある社員が前向きに働きやすい環境を提供できます。
人事評価の可視化にも取り組もう
キャリアパス制度を効果的に運用するにあたり、人事評価制度を可視化することも、本制度のポイントになるでしょう。
個々人が目指す目標に対し適切なルートを示す本制度は、どのようにして評価されるか、つまり人事評価の透明性が必要不可欠です。十分な評価体制が敷かれていなければ、社員の不満の蓄積や離職率の増加、やる気の低下などの可能性が高まります。
項目や方法、時期など、評価制度を明確化させることで、社員の定着化や採用の効率化などに繋がっていくのです。
なお本制度を運用するには、個々人への具体的な指導や社内目標の整備も同時に重要です。一定の協調を測りつつ、運用を進めていくことが大切になります。
まとめ
キャリアパス制度は、社員のモチベーションアップや入社後のミスマッチ防止などのメリットがあります。
ただし、適切に運用していくためには人事評価制度もこれに合わせ可視化し、従業員一人一人がどの様に評価されるか理解する事も重要です。人事評価制度が可視化されなければ公平性が担保されず、社員の不満が溜まる要因になりかねませんので、十分に検討する必要があるでしょう。
<< コラム監修 >>
株式会社サクセスボード 萱野 聡
日本通運株式会社、SAPジャパンで採用・教育を中心とした人事業務全般に幅広く従事。人事コンサルタントとして独立後、採用コンサルタント、研修講師、キャリア・アドバイザーとして活躍中。 米国CCE Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー、産業カウンセラー。
- カテゴリ:
- 人事評価
- キーワード:
- 人事評価