人事担当者であれば押さえておきたいことの一つに、ピーターの法則があります。優秀な人材でも昇進を重ねることで無能化するというピーターの法則は、人事評価に大きく関係してきます。本記事ではピーターの法則の概要と、無能化を防止するための人事的対策について解説します。
ピーターの法則とは?
従業員それぞれの能力や適性を見極め、それに見合った地位や職分を配当することは、人事におけるもっとも大切なポイントです。
たとえば現場レベルでは有能だった人が、管理職としての適性は持っていなかったり、出世後の地位に満足してそれ以上の努力を怠ったりしてしまうことは、どの組織にもありがちでしょう。そして、その職分に相応しくない人物、厳しい言い方ですが、「無能な管理職」が組織階層の各所にボトルネックを作ってしまうのもまたありがちといえます。
組織におけるこうした現象を分かりやすく理論化したのが、教育学者のローレンス・J・ピーターが唱えた「ピーターの法則」です。ピーターの法則とは、当初は優秀だった人材も出世していくにつれ、その職分に対して能力や努力が見合わなくなっていき、最終的には分不相応な地位で停滞したまま無能化してしまうことを示した理論です。
企業の成長が停滞する原因も、このピーターの法則が一因としてあるでしょう。ピーターの法則は、組織を構成するそれぞれの人間が絶えず努力し、成長していこうとする環境を構築せねば、組織全体に無能化が蔓延して機能不全を起こしかねないことを私たちに警告しているのです。
日本の雇用とピーターの法則
日本の雇用形態ないし人事評価制度は、ピーターの法則における「無能化」が発生しやすい土壌を備えています。たとえば、長く勤続しているだけである程度の出世が見込める「年功序列制度」においては、ピーターの法則が成立しやすいといえるでしょう。
日本の人事評価では、現場での地道な努力や経験を重んじる一種の現場主義的な考えが、傾向として根強くあります。しかし先述のように、現場で優秀な人物が管理職としても有能とは限りません。
また、現場の末端で厳しい仕事を長く経験してきた人物は、出世それ自体をある種のゴールとして捉えていることが多くあります。そうした価値観を持っている場合、出世後の継続的な努力を怠ってしまいがちになり、結果として無能な人材になってしまいます。
ピーターの法則への人事的対策
組織の人事部門はピーターの法則が発生しづらい人事体制を構築する必要があります。以下では、そのために役立つ4つのポイントをご紹介します。
昇進ではなく昇給
有能人材の無能化が生じてしまう一因は、その人物の能力や適性に合わない過分な地位を与えてしまうことです。とはいえ、同じ地位、同じ待遇で働き続けていれば、それはそれでモチベーションの低下などから無能化が生じてしまうことでしょう。
そこで人事担当者が取るべき戦略には、そうした人物への報酬として、「昇進」ではなく「昇給」のみを行うことが挙げられます。今のポジションからは動かさない代わり、昇給という形でしっかり評価と期待を示すことで、従業員は適性に見合った現場でモチベーションを保ちつつ、有能人材として機能し続けるはずです。
昇進前に訓練
新しい職務のために必要な訓練を、昇進前に一種の適性試験を兼ねて実施することも効果的です。モチベーションの低下を別とすれば、昇進後に無能化してしまうのは、そのポジションに相応しい実力が不十分だからでしょう。
現在の職務で得た知識やスキルが、昇進後においてもそのまま通用するとは限りません。それゆえ、企業側が管理職用の研修制度や資格取得の支援制度などを用意し、昇進前に次の職務で必要なスキル・知識・心得などの訓練を行わせることが大切です。
もしその訓練課程で対象の能力が一定水準に達しなければ昇進は見合わせて、先述の昇給制度などで対応するのがいいでしょう。
降格の基準を設ける
いくら予防対策を施しても、結果として無能化が生じてしまうことは起こり得ます。その場合、ときには降格などの思い切った措置も必要です。
日本では不祥事でも起こさない限り、基本的に降格人事などしないことがほとんどでしょう。しかし、能力を活かしきれない環境への放置は、本人にとっても周囲にとっても良い影響を与えません。
正常に機能した人事評価制度で昇進を重ねた人物なら、以前の職務や別の新しいポジションで輝きを放ち、周囲からの評価を取り戻すことも可能なはずです。ただし降格によりやる気をなくし、ますます無能化する場合もあるので、理由を明確に伝えるなどしてモチベーションを下げないよう、慎重に行うことが重要です。
組織の風通しを良くし、無能化してしまった人材に再び活躍の機会とやりがいを与えるためにも、人事部門にはときとして降格も含めた柔軟な人事運用が求められます。
ハロー効果に注意
ピーターの法則への対策に限らず、適切な人事運用を可能にするためには、適切な人事評価が不可欠です。その際、人事担当者をはじめとした評価者に求められるのは、先入観などを排除し、正しく本人の能力や成果を評価することです。そして、その際に注意すべきこととして「ハロー効果」が挙げられます。
ハロー効果とは、ある個人を評価する際、本来重要な評価ポイントとは関係ない要素の影響で、正しい評価ができなくなる心理現象を意味します。たとえば人事評価にあたっては、業務遂行能力と直接は関係ない対象者の経歴などが影響してしまいがちです。
それゆえ、人事評価者はハロー効果に注意し評価のポイントをしっかり明確化して、成果や能力に見合った人事評価を行うことが大切です。
このように、ピーターの法則への対策としては4つのポイントが挙げられますが、いずれにおいても核心となるのは、適切な人事評価制度の構築です。そしてその際には、人事評価制度の具体的な運用体制を見直すことも大切です。
まとめ
本記事ではピーターの法則について解説しました。組織を構成する人材を正しく評価し無能化を防ぐためには、ピーターの法則を理解し、対策することが必要です。そしてそのためには適切な人事評価制度とその効率的な運用体制が不可欠です。
最後に、この様に人事制度をより盤石な物に整えていくには、それなりに時間と労力を要します。普段の評価業務で、そこまで手が回らないといった人事担当者様も少なくはないはずです。私たちAJSでは、そうした人事担当者様の業務効率を改善すべく、評価業務にかかる作業を効率化する「P-TH」という製品を提供しています。評価業務に膨大な時間を費やすのではなく、その時間をより強固な人事評価基盤を構築する為にご活用頂ければ、私たちも幸いです。
<< コラム監修 >>
株式会社サクセスボード 萱野 聡
日本通運株式会社、SAPジャパンで採用・教育を中心とした人事業務全般に幅広く従事。人事コンサルタントとして独立後、採用コンサルタント、研修講師、キャリア・アドバイザーとして活躍中。 米国CCE Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー、産業カウンセラー。
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