人事評価制度とは? 導入時のポイントや注意点

 2020.10.29  AJS株式会社

人事評価制度」とはどのようなものかご存じでしょうか。企業人事に携わる人ならご存じかもしれませんが、そうでなければ意外と知らない人も多いかもしれません。当記事では、これから人事評価制度を導入したいと考えている企業経営者の方や人事担当者に向けて、人事評価制度の概要や注意点、導入時のポイントなどについてご紹介します。

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人事評価制度とは

「人事評価制度」とは、あらゆる要素から社員を評価する人事制度のことです。評価が必要な理由はいくつか挙げられますが、1つには人材を適材適所に配置するためです。人事評価では、社員一人ひとりのスキルや適性、貢献度などを把握し、どこに誰を配置すれば最大の効果を期待できるか予測することを目的としています。
また、社員育成のためにも人事評価は必要です。企業にとって、人が大切な財産であることはいうまでもありません。企業が成長するためにも、社員を適切に育成していく必要があります。評価の過程で、社員の抱える課題や問題点などが明確になるため、今後の育成に役立てられるメリットがあるのです。

社員の処遇を決めるのに、人事評価を活用している企業も少なくありません。評価の高い社員は給与をアップし、昇進させるといった具合です。
多くの企業において、評価制度は報酬や等級制度とリンクしています。つまり、評価が上げれば報酬やポジションも上がり、下がれば給与や役職が下がる、ということです。

人事評価基準設定のポイント

これから人事評価制度を導入するにあたり、まずは基準を設定しなくてはなりません。押さえておくべきポイントとしては、コンピテンシーを念頭に置くことと、社員が納得できる評価方法を設けることの2つがあります。それぞれ詳しく見ていきましょう。

コンピテンシーを念頭に置く

毎月たくさん契約をとる人や、仕事のスピードが速い人など、いわゆる“デキる人”には成果につながる共通した特徴・行動傾向があると考えられています。この概念のことを「コンピテンシー」と呼びます。

コンピテンシーの概念を活用した評価では、知識・思考力・資格などは問わず、主にストレス管理や交渉力、タイムマネジメント、意思決定能力、リスクテイクの判断力などを評価します。これらの項目を評価することで、社員に足りないスキルが明確になるため、今後の育成がしやすくなるのです。

コンピテンシーは職種によって変わります。そのため、職種に応じたコンピテンシーを評価項目に盛り込まなくてはなりません。
勘違いしてほしくないのは、設定したコンピテンシーはあくまで目標であるということです。すべてをクリアできる人などそうそうおらず、そのような人材を見つけることが目的でもありません。現状の確認や、不足している能力をフォローするための判断材料と捉えておきましょう。

社員が納得できる評価方法を設ける

社員が納得できない評価方法を導入してしまうと、会社への信頼が揺らいでしまう恐れがあります。評価のポイントがあいまいだったり、指摘された点と自己評価との間に大きなギャップが生じたりすると、モチベーションの低下を招いてしまうかもしれません。そればかりか、どのように評価が行われているのか分からないため、アグレッシブな行動をとれなくなる可能性もあります。

そうなってしまうと、今までは自ら考え進んで行動していた社員も、「もしかすると低評価につながるかも」と考えるようになるかもしれません。その結果、積極的な行動ができなくなる可能性があります。同じように考える社員がたくさんいた場合、著しい業績悪化を招く恐れすらあるでしょう。

こうした事態を避けるためにも、誰もが納得できる評価方法を採用しなくてはなりません。公平かつ透明性のある評価方法を採用し、社員に「あの評価方法でこの評価なら納得できる」と思ってもらえるようにしましょう。

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人事評価基準とそのポイント

社員に対し適切な評価を行うためには、明確な基準を設けなくてはなりません。はっきりとした基準がないことには、納得してもらえる評価など到底できないでしょう。
人事評価の基準は、大きく分けて業績評価・能力評価・情意評価の3点となります。それぞれ詳しく見ていきましょう。

業績評価

仕事で達成した成果、すなわち業績に基づいた査定のことです。簡単にいえば、業績の良し悪しで下される評価を指します。評価項目としては、業績目標達成度や課題目標達成度、日常業務成果などが挙げられます。

『月刊人事マネジメント』事例掲載
「人事評価制度見直し」決断する前にやること

業績がはっきりと数字で表れる職種の場合、その数値を用いて定量的な評価が行われるのが一般的です。分かりやすいところだと、営業職や工場でのライン工などがこれに該当します。契約をどれくらいとった、部品をいくつ作った、など数字で評価されるわけです。
一方、医療や介護など、成果が数字として表れない職種では、定性的な評価を行うのが一般的です。

業績評価における目標は、できるだけクリアなものにしなくてはなりません。クリアでないと、達成できたかどうかを判断しにくいからです。また、難易度は高すぎても低すぎてもいけません。社員のスキルや経験、意欲などさまざまな要素を考慮して設定する必要があります。

能力評価

業務を遂行するのに必要な技術や知識を、どのくらい有しているかで判断する査定です。技術や知識量で評価されることもあれば、熟練度を評価されることもあります。評価項目としては企画力や実行力、改善力などが挙げられます。

この能力評価において気を付けるべきポイントとして、技術や知識量、熟練度などで評価されるため、どうしても年功序列の要素が強くなる傾向にあります。若い社員に対しても正当に能力を査定し、年配者ばかりに高評価が偏らないように注意してください。

公平な評価が求められるため、評価項目は客観的に定めなくてはなりません。上司や人事担当以外にも、同僚・部下・取引先などの評価も反映させる、いわゆる「360度評価」を導入するのも1つの手です。

また、目立つ能力にばかり気をとられて、ほかの評価が歪められる「ハロー効果」や、無難な評価を下してしまう「中心化傾向」などにも注意が必要です。

情意評価

情意評価(態度評価)とは、直接的な成果やスキルではなく、人としての内面を評価する基準です。分かりやすくいえば、まじめに仕事をしているか、業務にきちんと向き合っているかといった部分を重視します。評価項目となるのは責任性や協調性、積極性などです。
この情意評価の注意点としては、主観を入れ過ぎないことが挙げられます。たとえば、とても仕事熱心な社員がいた場合、そこだけを注視してしまうことで、ほかの問題点が目に入らなくなり、その結果、誤った判断を下す恐れがあります。

また、寛大化傾向に陥りやすいのも要注意です。たとえば、普段から懇意にしている相手や、面倒を見ている部下だとどうしても甘い評価をしてしまいがちです。これは到底正当な評価とはいえず、下手をするとほかの社員から不満の声が噴出してしまうかもしれません。どんなに普段仲がよく、かわいがっている相手でも、私情を挟まず客観的な評価を下す必要があります。

情意評価は個人の性質に基づき判断する関係上、最もあいまいな判断になりやすい傾向があります。その点をしっかりと考慮し、明確な線引きを設けることが大切です。

人事評価制度運用時の注意点

人事評価制度を導入しても、運用で失敗しては意味がありません。制度を導入するのはそう難しいことではありませんが、運用にあたっては注意点をきちんと理解しておく必要があります。正しく理解し、失敗のない運用を心がけましょう。

客観性を保つ

評価する側は、常に客観性を維持しなくてはなりません。主観が混じってしまうと、適切な人事評価など到底できないからです。主観に偏った評価は、社員の不満やモチベーション低下にもつながります。

「主観が入りすぎじゃないか?」と思われてしまうと、その時点ですべての評価が信頼されなくなります。そのような事態にならないよう、誰もが納得のいく仕組み作りをしなくてはなりません。

評価エラー防止に気を配る

人が評価する以上、間違いが起きることは十分考えられます。しかし、評価によって社員の今後が左右される可能性もあるので、評価する側の人間は評価エラー防止を常に意識しなくてはなりません。

特に起こりやすいのは、ハロー効果と呼ばれる心理要因によるエラーです。評価対象者にずば抜けて優れた面があった場合、ほかの評価がそこに引っ張られて「ほかも問題ないに決まっている」と自己完結してしまうことがあります。これをハロー効果と呼びます。

逆に、とてつもなく悪い面が見えた場合でも同様です。「ほかもきっと悪いだろう」と自己完結した挙句、誤った評価を下してしまいがちです。突出した面に注目するのは悪いことではありませんが、それによって目が曇ることのないように注意しましょう。

また、ハロー効果と同じく気を付けたいのが、中心化傾向です。評価する側の人間は、場合によっては社員から恨まれたり、疎ましく思われたりすることがあります。そのため、できるだけ穏便に済ませたい、といった心理が働いてしまい、当たり障りのない無難な評価を下してしまうのです。これを中心化傾向と呼びます。

評価を行う際は、ハロー効果や中心化傾向といった心理状態に陥っていないか、随時チェックしながら行わなくてはなりません。

フィードバックに気を配る

人事評価は、一方的なものでは意味がありません。きちんと社員にフィードバックしてあげることで、問題点を改善し、さらなる成長を望めるのです。

社員自身に問題点や課題を理解してもらわなくてはならないので、評価結果はきちんと共有しましょう。結果を伝えるときは、評価の根拠となったデータなども併せて提示することが大切です。曖昧な根拠では、社員は納得してくれず、かえって不満を募らせてしまう恐れもあります。

課題を自覚してくれたら、次からどのように行動すればよいのかを、自分で考えてもらいます。アドバイスをしてあげるのも結構ですが、すべて教えてしまうのはNGです。自分で気付き、行動を起こすことが成長につながります。そのための手助けをしてあげましょう。

なお、フィードバック時には熱が入り、つい厳しい物言いになってしまうことがあるかもしれません。度が過ぎて、人格否定するようなことを口にしてしまうと、パワハラになる恐れがあります。高圧的な態度をとったり、バカにするような発言をしたりといったこともNGです。何のためにフィードバックをしているのかということを、常に意識した言動を心がけましょう。

まとめ

人事評価制度を導入し、正しく運用できれば社員のモチベーションアップが期待でき、適材適所への人材配置も可能となります。正しく基準を設定し、ポイントを押さえた運用を心がけましょう。

なお運用にあたっては、客観性を保つことや評価エラー防止にも気を配らなくてはなりません。評価の内容によっては、社員の不満が爆発したり、モチベーション低下の原因になったりといったことも考えられます。誰もが納得できる仕組みでの運用を心がけてください。

株式会社サクセスボード 萱野 聡<< コラム監修 >>
株式会社サクセスボード 萱野 聡
日本通運株式会社、SAPジャパンで採用・教育を中心とした人事業務全般に幅広く従事。人事コンサルタントとして独立後、採用コンサルタント、研修講師、キャリア・アドバイザーとして活躍中。 米国CCE Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー、産業カウンセラー。
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