人材確保等支援助成金(人事評価改善等助成コース)について解説

 2020.07.10  AJS株式会社

慢性的な人材不足が叫ばれる中、必要な人員を確保することの重要性が一段と増しています。従業員の満足度を高め離職率を下げるためには人材評価が適切に行われることが大切です。この記事では人材評価を改善するための取り組みに対して受けられる「人材確保等支援助成金(人事評価改善等助成コース)」の概要を紹介します。

「人事評価改善等助成金」は「人材確保等支援助成金(人事評価改善等助成コース)」へ統合

人事評価制度の構築を目的として厚生労働省が2017年度に導入した「人事評価改善等助成金」は、2018年度から「人材確保等支援助成金」に統合されました。この助成金には目的別にコースがあり、人事評価に関する助成金は「人事評価改善等助成コース」となっています。2018年度の統合・整理に伴い、支給申請が可能になる時期や、目標達成助成の対象となる会計年度などが変更になりました。

人材確保等支援助成金(人事評価改善等助成コース)とは

人材不足の解消と生産性の向上を目的とした人事評価制度の新設や整備を目的に国から受けられる助成金があります。厚生労働省の「人材確保等支援助成金(人事評価改善等助成コース)」(旧・人事評価改善等助成金)がそれに該当します。
対象となるのは人事評価制度と賃金制度の整備に取り組む企業や事業主で、従業員の能力評価が含まれる人事評価制度や、一定率以上の賃金アップを含む賃金制度を新たに導入したり見直しを行った場合のほか、離職率低下などの目標を達成した場合に最大で合計130万円の助成を受けることができます。
この助成金は、雇用環境の改善などの取り組みを通して、従業員の離職率を改善し職場定着を促し、生産性の向上につなげることを目的としています。その背景には少子高齢化、生産年齢人口の減少などに伴う慢性的な人材不足があります。人事評価制度の整備は、人材を確保し定着させるためになくてはならない要素の一つとして助成の対象になっています。

人材確保等支援助成金(人事評価改善等助成コース)の分類と要件

この助成金は社内の制度を整備して実施した段階で受けられる「制度整備助成」と、目標を達成することで受けられる「目標達成助成」の2段階に分類されています。

制度整備助成

能力評価が含まれる評価制度と、2%以上の賃金のアップが含まれる賃金制度を新設したり整備して実施した場合に制度整備助成が支給されます。
まず制度整備の計画を作成し、事業所の本社所在地を管轄する都道府県の労働局に提出した後、計画に基づいて制度の整備を行います。新しい制度に基づく賃金が最初に支払われてから支給の申請を行う流れになっています。この助成が認められれば50万円の支給を受けることができます。

目標達成助成

こちらは人事評価に関する制度や賃金制度などを整備して目標を達成したあとに支給される助成金です。最初に提出する制度整備助成の申請に含まれる整備計画には、「生産性向上に関する数値目標」「離職率の低下に関する数値目標」を盛り込むことになっています。この目標を達成し、かつ評価日の比較で従業員に支払われる賃金の総額を2%以上増加させることに成功するなどの条件を満たした場合に申請を行うことができます。この申請が認められれば80万円が支給されます。

人材確保等支援助成金(人事評価改善等助成コース)の申請から受給まで

では、助成金の申請から受給までの流れを順に見ていきましょう。

『月刊人事マネジメント』事例掲載
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人事評価制度等整備計画を作成して提出する

最初のステップは、整備計画の作成と提出です。提出先は本社の所在地を管轄する都道府県労働局です。提出期間は新しい評価制度を運用する月の初日から6ヶ月前以降で、運用1ヶ月前にあたる日の前日が提出期限です。いったん計画を提出したあとは、その計画の有効期限内に新たな計画を提出することはできません。
支給を受けるためには雇用保険と社会保険が適用されている事業主であることが必須で、雇用されている従業員が社会保険の被保険者であることが前提です。また、労働局が算出する離職率と申請時の計画書に記載された「計画時離職率」が一致していない場合は計画の認定が受けられませんので注意しましょう。

人事評価制度等の整備をする

次に、承認された整備計画を元に、実際に社内調整や変更を行う段階に進みます。新設や変更などの整備が実施されたと認められるためには、就業規則または労働組合との間で合意に達した労働協約の内容の変更を伴うことが必要です。
また、計画における「人事評価制度等の整備日」とは、制度の内容が盛り込まれた就業規則などが施行された年月日となります。ただし、取り決めの中で施行年月日が定められていない場合、就業規則の場合は労働基準監督署に届け出を行った日が、労働協約の場合は締結日が「整備日」となります。従業員が10人未満の場合は就業規則を労基に届ける必要はなく、就業規則を書面で従業員全員に周知した日が整備日とみなされます。

人事評価制度等を実施する

そして、人事評価制度の実施の段階に移ります。一連の計画と申請における「人事評価制度等の実施日」とは、総額で2%の賃金が増加するという前提で整備した評価制度での賃金表に基づいた賃金が、最初に支払われる日を指しています。
このとき、提出した計画にある内容がすべて実施内容に盛り込まれており、評価制度の対象となる従業員全員にこの制度が適用され実際に評価制度の運用が行われていることが必要です。また、制度の対象となる事業所が複数ある場合には、すべての事業所の従業員に対して実施されていなければなりません。

制度整備助成の支給を申請・受給する

以上の手順を踏んで条件を満たせば各都道府県の労働局に対して制度整備助成の支給申請を行うことができます。申請の提出期限は原則として評価制度実施日の翌日から2ヶ月以内です。申請には定められた書式による申請書のほか、人事評価制度の整備内容と賃金規定などが明示された就業規則または労働協約、制度の実施日が確認できる書類、賃金台帳など賃金の支払い状況が確認できる書類などが必要です。この申請が認められれば助成金50万円が支給されます。

目標達成助成の支給を申請・受給する

先に制度整備助成の申請が認められて支給を受けた上で、新たに整備した人事評価制度とそれに伴う全体の賃金アップを継続運用することができれば、目標達成助成の申請へ進むことができます。申請期限は認定申請の3年後にあたる日の翌日から起算して2か月以内で、提出先は都道府県の労働局です。

また、申請の条件として
(1)制度整備助成の計画書に記載された内容が実際に行われていること
(2)対象となる会計年度の生産性が6%以上伸びていること
(3)離職率が目標値以上に下がっていること
(4)評価制度の対象となる従業員の賃金総額が制度を実施する前と実施後の所定日の比較で2%以上増加していること

の4つの要件をすべて満たしている必要があります。

この申請において(2)の生産性は生産性=(営業利益+従業員給与+減価償却費+動産および不動産賃借料+租税公課)÷雇用保険の被保険者数の式で算出される値を使用します。
生産性を算定する対象期間中に、会社都合による離職者があった場合は助成の対象となりませんので注意しましょう。

(4)の離職率は、計画時と評価時について以下の計算式で算出します。
離職率(%)=(離職による雇用保険一般被保険者資格喪失者数÷算出対象期間初日の雇用保険一般被保険者数)×100です。定年退職や役員昇格などの離職者は含めずに算出します。
離職率の目標値は対象人員が301人以上の場合1ポイント以上の低下、300人以下の場合は現状維持とされています。例えば対象者が400人の場合、計画時の離職率が20.0%であったなら、評価時に19.0%以下である必要があります。また、評価時の離職率が30%を超えている場合は助成金の支給対象になりません。

まとめ

適切な人事評価を導入することは職場環境の改善の一環として非常に大切で、離職率の改善や生産性の向上などが期待できます。人事評価制度の整備によって最大で130万円の助成が受けられる「人材確保等支援助成金(人事評価改善等助成コース)」の制度もあります。この助成金制度を活用して適正な人事評価制度の導入と人材の定着を図りましょう。

(制度や申請方法の詳細については、社会保険労務士、または、最寄りの都道府県労働局にお問い合わせ願います)

株式会社サクセスボード 萱野 聡<< コラム監修 >>
株式会社サクセスボード 萱野 聡
日本通運株式会社、SAPジャパンで採用・教育を中心とした人事業務全般に幅広く従事。人事コンサルタントとして独立後、採用コンサルタント、研修講師、キャリア・アドバイザーとして活躍中。 米国CCE Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー、産業カウンセラー。
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