時代の変化とともに、企業における人事評価の方法も変わってきています。近年注目を集めている人事評価制度のひとつとして、ポイント制度が挙げられますが、どのような特徴があるのかご存じでしょうか。ここでは、人事評価ポイント制度の基礎知識や、具体的なメリット、デメリットなどについてご紹介します。
既存の日本の給与・賞与制度
ポイント制度について学ぶ前に、まずは日本における既存の賞与制度を理解しておきましょう。多くの企業で採用しているのは基本給連動型賞与制度と、業績連動型賞与制度の2種類です。それぞれに特徴があるので、正しく理解を深めましょう
基本給連動型賞与制度
大企業から中小企業まで、さまざまな規模の企業において導入されている制度で、定められた月数に基本給をかけたものが賞与の額となります。
「うちの会社は給料の2ヵ月分が賞与です。」という場合は、基本給×2ヵ月が賞与の額となります。この制度では、基本給の高い人のほうが賞与の額も大きくなります。そのため、年功序列の企業だと若い社員がいくら頑張って結果を出しても、あまり仕事をしない上司よりも賞与額が高くなることがない、といったことが起こってしまいます。
なお、企業としても賞与として出せる金額には限りがあるため、それを上回るようだと月数を調整して原資を超えないようにします。つまり、基本給×3ヵ月だったものが、2ヵ月になることもありえます。
業績連動型賞与制度
社員の成果や部門ごとの業績によって、賞与額が決まる制度です。近年では、成果主義へと移行する企業が増加傾向にあり、そうした組織の多くが業績連動型賞与制度を導入し始めています。
業績次第で賞与額が変わるため、頑張れば上司のボーナス額を上回ることも不可能ではありません。自らの頑張りで賞与額が上がるため、モチベーションの向上にもつながります。
一人ひとりが業績を上げることを意識し始めるため、会社全体での収益アップが期待できるのも大きなメリットといえるでしょう。
業績次第では、同期同士でも賞与額が大きく異なる可能性があります。また直属の上司よりも賞与額が多いこともありえます。いっぽうで賞与額が低い従業員のモチベーションが下がったり、賞与の高い従業員が妬まれたり、それによって会社の雰囲気が歪んでしまうことも考えられます。そういったことがないようにするためには、その企業の風土や文化に会った賞与算定基準を確立することが大切です。
人事評価制度のポイント制とは
あらかじめ等級や役職、人事評価に基づいて従業員一人ひとりに付与ポイントを設定しておきます。そのポイントに、1ポイントあたりの単価を掛け合わせることで賞与額を決める制度です。
従来の賞与制度では、支給額が原資を超えるときには支給月数を調整することが一般的でした。一方、ポイント制の場合には、あらかじめ定めた原資から配分することになります。また、この制度では在職中の貢献度を退職金に反映させることができるため、近年の能力主義/成果主義制度に馴染み易いといえるでしょう。
海外の国々では、多くの企業がこの制度を導入しています。日本ではポイント退職金制度は導入している企業はあるものの、ポイント制で賞与額を決めているところはあまり見られません。
人事評価ポイント制のメリット
成果主義への移行を考えている企業では、人事評価ポイント制に注目しています。すでに導入している多くの海外企業に見習って、今後日本でも広がりを見せると考えられます。では、ポイント制を導入することで、企業にはいったいどのようなメリットが生まれるのでしょうか。
相対評価ではないのに賞与原資を気にしなくていい
企業が賞与に出せる金額は、ある程度決まっています。原資を超えそうな場合には、支給月の調整などで何とか枠内に収まるようにしますが、それでも場合によっては原資割れを起こしてしまうことがあります。
ポイント制だと、あらかじめ全体の賞与原資を確定し、それをそれぞれの社員に分配します。もちろん、平等に分配するのではなく、算出したポイントからトータルでの支給額を決定するのです。
既存の制度と自由自在に組み合わせられる
この制度では、能力、役割、勤続ポイントなどの配分表を作成します。もし、年功序列の要素を強めたり、できるだけ残したりしたいのなら、勤続ポイントを多くして調整ができます。
業務における役割に応じて評価したいのなら、役割ポイントを多く配分するといったことが可能になります。既存の制度と組み合わせやすいため、企業の風土をなるべく損なわず、賞与制度の改革をすることも可能です。
賞与を計算するときの手間が少ない
基本給連動型だと、多くの社員が高い評価を得たとき、原資が膨らんでしまうことがあります。それを回避するため、企業としては個人の評価へ再び手を加えなくてはならないこともあります。一度評価した社員を、また評価し直さなくてはならないので、ここでまず手間がかかります。
こうしたケースだと、評価がAだった社員をBにランクダウンさせ、それにより原資の膨らみを回避しようとします。ただ、このようなことをしてしまうと、本来評価されるべき社員が評価されなくなり、モチベーションの低下を招いてしまうかもしれません。組織の人事としても由々しきことです。
一方、ポイント制だと、高評価の社員がたくさんいても賞与原資をオーバーすることがありません。再評価や計算で二度手間になる、といったこともありません。
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人事評価ポイント制のデメリット
メリットも多い制度ではありますが、いくつかデメリットがあるのも事実です。導入にあたっては、デメリットも正しく理解したうえで検討する必要があります。
退職金の計算が複雑
従来は、退職金額の決定は、基本給に勤続年数ごとの係数を掛けて算出したり、勤続年数によって定額を支給したり、といったケースが一般的でした。しかし、ポイント制の場合、入社から退社にいたるまでの人事記録をすべて精査し、そのうえで支給額を決定します。
そのため、退職金を計算するために相当なデータが必要となります。入社から退社までにいたる人事のデータをすべてそろえ、そこから計算をしなくてはなりません。正確なデータを集めるだけでも手間がかかり、さらに計算までするとなると担当者の負担は相当なものになってしまう恐れがあります。
経済の状況と合わない支出が必要な場合もある
人事評価のポイント制は、給付内容を確約した確定給付型の制度です。確定給付型では、企業が掛け金の運用を行いますが、必ずしも運用がうまくいくとは限りません。万が一失敗したときには企業が損失分を補わなくてはならなくなります。そのため常に資金の運用リスクが残ります。
また、確定給付型では、数理計算という確率や統計などの特殊な方法で算出し、掛け金を決定します。運用利率や退職率などを予測したうえで決めていかなくてはならないため、予定と実際のずれが生じてしまうと、掛け金の見直しを迫られてしまうことになります。たとえば最近の低金利下では掛け金はコストアップする傾向にあります。
なお、確定給付と対局に位置するのが、確定拠出型と呼ばれるタイプです。毎月一定額を積み立て、社員が自ら運用方法を決めるのが特徴です。
他制度に比べて理解が難しい
なじみのある基本給連動型や、別テーブル方式といった制度に比べると、ポイント制はわかりにくい部分がたくさんあります。従来の制度とさまざまな面が大きく異なるため、なかなか社員が理解してくれず、導入に賛成してくれない可能性があります。従業員への詳しい説明や教育の機会も設けずに勝手に導入を進めてしまうと、反感を買ってしまう恐れもあります。
こうした理由から、企業がポイント制を導入したいと考えていても、なかなか実現しないことが考えられます。積極的に情報発信する、教育の機会を作って地道に理解を深めてもらうなど、企業ごとの努力や工夫が必要となるでしょう。
まとめ
人事評価のポイント制を導入すれば、賞与原資を気にしなくてよくなり、従来の制度とも自由に組み合わせて運用できます。賞与を計算するときの手間が少なくなるのも、大きなメリットです。一方で、計算に手間がかかる、想定外の出費が生じる可能性がある、といったデメリットがあるのも事実です。メリットとデメリット、どちらも正しく理解したうえで、人事評価のポイント制を導入するかどうか検討しましょう。
<< コラム監修 >>
株式会社サクセスボード 萱野 聡
日本通運株式会社、SAPジャパンで採用・教育を中心とした人事業務全般に幅広く従事。人事コンサルタントとして独立後、採用コンサルタント、研修講師、キャリア・アドバイザーとして活躍中。 米国CCE Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー、産業カウンセラー。
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