ほとんどの企業は人事評価制度を導入しています。しかしそれに対する社員の満足度は意外と低いという調査結果もあります。社員が納得のいく制度を取り入れるためには、他社の取り組みを参考にしながら自社の制度を見直すことも大切です。本記事ではいくつかの人事評価アンケート・レポートから見える企業の人事制度の実態を紹介します。
あなたの会社の社員は人事評価に満足していますか?
大手人材サービス業のアデコは、2018年に20代~60代の働く人を対象に実施した人事評価に関するアンケート調査の結果を公表しました。ここでは、その調査結果について紹介します。
現時点で人事評価に満足している人は4割未満
調査結果によると、人事評価制度に満足している(「満足」「どちらかというと満足」)と回答した人は全体の37.7%、一方62.3%が不満(「不満」「どちらかというと不満」)と回答しました。
評価基準の不明確さに不満
人事評価制度への不満の理由として、全体の62.8%が「評価基準が不明確」と回答しました。
しかし後述の産労総合研究所が実施した調査では約9割の企業が評価基準を公開していると答えています。そこから「企業側が公開していることが社員側にうまく伝わっていない」「評価基準の詳細までは公開されていない」「評価基準を公開しても評価結果を公開していないことに不満がある」といった企業側と社員側とのミスマッチがあり、それが不満につながっていると考えられます。
評価のばらつきに不公平感がある
不満理由として次に多かったのが「評価者の価値観や経験によってばらつきが出て、不公平だと感じる(45.2%)」でした。また同調査では、約8割(77.6%)が「人事評価制度を見直す必要がある」と答えており、多くの社員が満足していない状況が明らかになりました。
一方評価する側から見ると、約8割(77.8%)が「自分が適切に評価を行えている(「そう思う」+「どちらかというとそう思う」)」と答えています。評価する側とされる側で意識のギャップがあることが明らかになりました。
他社は人事評価に対してどんな取り組みを行ってる?
では、社員の満足度を高めるために他社ではどのような取り組みを行っているのでしょうか。
ほとんどの企業が人事評価制度を設定
人事労務分野の情報機関である産労総合研究所が2017年2月に公表した「2016年 評価制度の運用に関する調査」によると、評価制度がある企業は95.0%、事後評価の仕組みなどを公開している企業は85.0%とどちらも非常に高い数値でした。評価項目や基準をオープンにしている一方で、評価項目のウエイトを公開しているのは76.8%、評価結果まで公開しているのは65.5%に留まりました。
評価の納得性向上のため、様々な工夫も
評価者によって面接内容にばらつきが生じないようにするためのさまざまな工夫も行われています。
共通の面接シートを導入しているのは70.6%、研修を行うことで基礎知識の習得や評価基準を揃えている企業も71.4%にのぼりました。
しくみ作り、透明性が社員のモチベーション向上につながる
慶應義塾大学の岩本隆特任教授は2019年4月に「人事評価制度を活用した人材確保と賃金向上 Vol.2」を発表しました。この中で、人事評価制度の効果的な運用のために必要な提言をしています。今回は同レポートから一部を紹介します。
人事評価制度導入と給与、生産性の向上には関連性あり
岩本氏の研究室が人事評価制度導入済みの中小企業75社を対象にして実施した調査によると、2018年に実施した査定に関して、査定前と査定後で1.5%の昇給が行われていることが明らかになりました。
これは政府の所得拡大促進税制(賃上げ税制)の要件を満たすもので、1.5%以上の昇給により企業側は給与支給総額の前年度比増加額から15%の税額控除が適用されます。(減税限度額は最大で法人税の20%)
研究室が行った別調査では人事評価制度導入後の方が同一の労働投入量に対して効率的に粗利を得やすく、より効率的な経営が行われていることが明らかになっています。そこから人事評価制度の導入は、昇給への影響及び生産性向上実現において一定の効果を発揮すると言うことができます。
賃金決定方法を開示する重要性
調査では、中小企業が賃金決定方法を開示することで事業効率の向上が確認されたと述べています。
具体例として中小企業が人事評価制度導入と共に賃金決定の方法を開示した結果、業績の改善や経営課題の解決に成功し、以下のようなメリットが生まれたことを紹介しています。
- 部門間のボトルネックが発見され、部門間連携が円滑化
- 中間管理職を創設し権限移譲により、社員間の協力体制や集合知が得やすい環境へと変化
- 従業員自ら目標を設定することでコミットが生まれ、目標への意識が醸成
- 採用説明会で人事評価制度について、求職者にアピールすることで採用力が向上
- 賃金決定方法を開示することで事業効率の向上が実現
このようなメリットは、従業員が何をやれば評価されるのか、また成果がどのように給与に結びつくのかが理解された結果といえます。人事評価制度と賃金決定の方法開示は、円滑な企業経営に大きく役立つツールだといえるのではないでしょうか。
まとめ
人事評価制度に対して満足していない社員の割合は高く、その多くは評価の不公平感により不満に感じていることがわかりました。また、社員から納得感を得られる評価基準を行い、賃金決定方法なども開示することで、社員のモチベーションが高まり、離職防止にも繋がる可能性があります。ここで紹介したものを参考データとして、自社の人事評価制度について見直し、改善の余地がないか検討してみてはいかがでしょうか。
<< コラム監修 >>
株式会社サクセスボード 萱野 聡
日本通運株式会社、SAPジャパンで採用・教育を中心とした人事業務全般に幅広く従事。人事コンサルタントとして独立後、採用コンサルタント、研修講師、キャリア・アドバイザーとして活躍中。 米国CCE Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー、産業カウンセラー。
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